空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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狂月明ける空編

ep450 将軍艦隊左舷将:牙島 竜登

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「来るよ、タケゾー! 気合入れていくよ!」
「ああ! 俺の腹はとっくに決まってるさ!」

 アポカリプスによってさらなるパワーアップを遂げた牙島。ヴィランネームを付けるならば、さしずめ『バーサクリザード・アポカリプス』といったところか。
 もっとも、その強化は名前だけで推し測れるものではない。赤く染まった全身以上の脅威が、離れていても感じ取れてしまう。

「キーハハハ! 覚悟上等! 身構え結構! せやけど……こないなったワイは誰にも止められへんでぇぇええ!!」
「な、何!? この速さ!? 今までと全然違う!?」
「単純に速いだけにも見えないぞ!? なんだか、速さの質が違う!?」

 牙島は自らが述べた通り、アポカリプスの力を完全に我がものとしている。アタシのような副作用すら見られない。
 元々の好戦的な性格に合わせ、あらゆるGT細胞を適合させる特異体質。それら全てが狂気となり、アタシとタケゾーへ襲い来る。

「爬虫類の筋肉による瞬発とかじゃない! もっと何か……何か根本的なスピードが違いすぎる!」
「ワイもこないに動けるとは予想外やったわ! 頭の中で描いたことが、そのまま素早く体を動かしおる! まさに最高の気分ってやっちゃなぁああ!!」
「『頭の中で描いたことがそのまま』……って。まさか、反射神経が……!?」

 あまりのスピードに、アタシもタケゾーも回避することしかできない。この炎で囲まれたフィールドの中で、牙島の異常さえも超えたスピードに翻弄され続ける。
 そんな中でも活路を見出そうと、まずは必死にコンタクトレンズで牙島の動きを分析。するとこのスピードの正体も見えてくる。

 牙島はクジャクのおばちゃんと違い、時間を止めているわけではない。ただ、恐ろしいスピードでこちらの動きに反応している。
 分析してみれば、牙島の反応速度は明らかにおかしい。かなり細かい単位になるけど、確認とほぼ同時に体を反応させている。

 推定される牙島の脳から肉体への伝達時間は、およそ0.01秒。本来の人間の伝達時間はどう頑張っても0.1秒が限度。
 小さな単位に見えるけど、体感してる身としてはシャレにならない。

 ――牙島はアタシ達よりも『十倍速く反応できる』と言えば、その脅威が明白となる。

「逃げとるばかりかぁ!? せっかくこないな舞台を用意したんや! そっちも仕掛けてもらわんと……おもろないやろがぁぁああ!!」
「くっ!? ちょっと掠った――って、熱っ!? 何これ!? 着火した!?」

 そんな圧倒的スピード差のせいで、回避にも限界が見え始める。牙島の爪がアタシの魔女装束をわずかに引き裂いてくる。
 モデル・パンドラの防御力には自信があったのに、それさえも超える攻撃の鋭さ。それどころか、引き裂かれた箇所が突如として発火を始める。

「どうやら、ワイの体液から毒性がなくなった分、発火能力が付与されたみたいやな! これはこれでおもろいやないか! 炎で覆い隠したこのフィールドにもお似合いやで!」
「あつつ……! 体液で発火なんて、どこまで人間辞めてんだか……!」

 思えば、牙島はアポカリプス注入の際にも全身を発火させて上着を焼き捨てていた。
 本人もまだ能力の全容が見えてないみたいだけど、そんなものは時間の問題か。


 ズバァンッ!


「ほぉう? 空色の魔女に気をとられている間の奇襲。まあまあ見事なもんや。せやけど、今のワイには全然及ばへんなぁ……!」
「こ、こいつ……!? 後ろに目でも付いてるのか……!?」

 何より、地力の差が大きすぎる。隙をついたタケゾーが背後から拳で襲い掛かるも、牙島は難なく片手で防御してしまう。
 実際に後ろに目が付いてるわけじゃない。ただ単純に反応速度がおかしいのだ。
 誰よりも十倍速く気配を感知し、十倍速く対処することが可能な能力。常時発動できる分、ある意味で時間停止よりも脅威だ。

 ――牙島のスピードはこっちからすれば、未来予知のレベルに匹敵する。

「ほれ! 仲良し新婚夫婦なんやろ!? せやったら、熱いハグの一つでもしといたらどないやぁぁああ!?」
「ガフッ!? じゅ、隼! すまない!」
「あちっ!? だ、大丈夫! それにしても、これまでとは次元が違う強さだねぇ……!」

 それだけに留まらず、タケゾーを片手で掴みながら体液で発火。そこから力づくでこちらへ投げ飛ばしてくる。
 アタシとタケゾーは正面衝突して、文字通り熱いハグを交わしてしまう。幸い火はすぐに消えたけど、今のやりとりだけでも十分な脅威が見えてくる。

 タケゾーのジェットアーマーを超えるパワー。その気になれば触れただけで相手を発火させてノックアウト可能。
 総合的な能力で圧倒していることは牙島自身も理解しており、アタシ達に軽口まで叩いてくる。
 アタシも普段から気を紛らわせるためにやることはある。だけど、牙島の軽口は完全に余裕と挑発から来るものだ。それぐらい明白な実力差がある。
 炎で覆われたフィールドのせいで、空中への回避も封殺。四面楚歌とはこのことか。

「ほれ、どないした!? せっかくワイがここまでのステージを用意したんや! もっと意地見せろや! もっと……ワイを楽しませろやぁぁああ!! キーハハハァァア!!」

 夫婦揃っての二人がかりだというのに、牙島一人にまるで歯が立たない。むしろまだまだ満足できないのか、一度止まってこちらを挑発さえしてくる。
 正直、悔しさよりも苦悩が頭の中で巡る。この状況を打破する作戦が見えてこない。
 アポカリプスの力がここまで絶対的である以上、アタシにもクリムゾンウィッチの時の力が使えれば――



【――鳥さん。使――さい】

「……え? だ、誰? この声は一体……?」



 ――そんな時、どこからともなく声が聞こえてくる。いや、正確には『頭の中に響いてくる』といった感覚だ。
 誰の声かも分からないけど、なんだか聞き覚えがあるような気がする。アタシにとって、両親と同じく尊敬していた人のような声だ。
 完全に直感だけど、声がする方角はアタシの真下。コメットノアの甲板のさらに下からだけど――



「ま、まさか!? そうだ! この方法なら!」



 ――声の正体に気付いた瞬間、アタシの脳内に一発逆転の秘策が思い浮かぶ。
 そうだ。ここは空中戦艦コメットノアの甲板だった。今は海面に着水してるけど。
 マザーAIも機能停止こそしてるものの、天鐘がアポカリプスの参考にするぐらいには設計回路は残っている。もしかすると、さっきの声はここにアタシがいることでわずかに呼応してくれたってこと?
 なんともファンタジーな話だけど、この可能性を手繰り寄せない手はない。この場で勝利を掴むためなら、蜘蛛のように糸を張ることだってする。

 ――逆転の一手はこれしかない。

「デバイスロッド! 即席甲板突撃ランスアターック!」
「はぁ? 血迷いおったか? その空飛ぶ杖を甲板深くにぶっ刺して、何になるって言うんや?」
「生憎だけど、アタシは大真面目さ! あんたがアポカリプスでパワーアップしたってんなら、こっちも代用品を用意させてもらうよ!」

 牙島に呆れ顔をされようとも関係ない。アタシはこの一手を信じる。
 デバイスロッドにしたって、この戦艦にしたって、あの人が作った力だ。絶対にできると信じ、デバイスロッドを真下に眠るサーバーへと突き刺す。



「お願い、コメットノア! その力を、メモリを……アタシに貸して!!」
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