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第1章
旅立ち
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とりあえずこの世界をいろいろと見て回ろうと決めたツクヨだが、そうなると必然的にモンスターが多く出現するフィールドを通らなくてはならない。今のままでは正直すぐに殺されてしまうだろう。レベルはこの先上げておいて損はないということでまずは近くのフィールドでモンスターを倒してレベルを上げることになった。
「お前、すでに一体モンスター倒してるんだよな。じゃあ容量はわかるか」
「あ、でもそれ、何かスキル使ってフルボッコにした感じなので」
ツクヨはフラウに最初の戦闘の状況と出現した魔術スキルについて簡単に説明した。
「言霊・・・?」
話を一通り聞き終えた後、フラウは難しい表情で眉根を寄せた。
「魔法は主に呪文を媒介にして世界に干渉する。言霊が呪文を意味していると考えるのが妥当だがそんなスキルは見た覚えがない。しかもお前の話からするに呪文らしき呪文も唱えていない」
「つまり・・・わからない?」
「そうだな。だが、一つ言えることはその力使わない方がいい」
「え」
「お前の言葉は現実になる。おそらくその時の感情やイメージなどがトリガーとなって発動するんだろう。その力は未知数だがおそらく使いこなせれば最強にもなり得る」
「じゃあ、ちゃんと使えるようにした方がこの先いろいろと役に立つんじゃ」
「役には立つだろうがその分リスクも上がる。利用しようと狙われるかもしれないし、その力の代償だってまだ明確じゃない。そんなもん使うよりちゃんとした戦闘技術身に着ける方が重要だって話だ」
「なるほど・・・」
強い力にはそれ相応のリスクが伴うということは理解できた。自分には過ぎた力のようだ。もともとこつこつやるタイプだ。いきなり特別な力を使うというよりこの世界の基本的なことを一から学びたいとは思っていた。
「さて、聞きたいことはそれだけか」
フラウの問いにうなずくツクヨ。
「それじゃあとりあえずレベルを上げるか。お前のレベルじゃ次の街まで言ってる間に雑魚どもにやられてお陀仏だ」
自分が弱いということは認識していたがはっきり言われると結構傷つく。
「お前の場合はまず先に魔法の方を覚えた方がいいだろうな。その性格じゃ近接で剣を振り回すなんてまねはできないだろ」
「おっしゃる通りです・・・」
魔法は使用者のイメージと魔力量によって左右される。昔から妄・・・想像量は豊かな方であるツクヨはイメージ力的には申し分なかった。あとはレベルを上げて魔力――MPの最大値を上げるだけだ。
さらにこれからいろいろと役に立つであろうスキル類も同時に鍛錬するというスパルタ訓練だ。フラウは死ぬよりマシだろというがそもそもこれまで死と隣り合わせでの生活なんてしたことない平和ボケした日本人にそういう事を言わないでほしいと心の中で思ったことは内緒だ。
「魔法は最初の方だけだ。慣れたら近接戦闘も身に着けてもらうからな」
「私には向いてないと思うんですけど」
自分で言うのもあれだがゲームでも近接は苦手でいつも即死していた。
「お前の不器用と怖がりは今に始まったことじゃねえだろ」
「うぐ、そうですけど。フラウさんって結構はっきり言いますね」
「お前にはこれくらい言わないとダメな気がして」
「頼りなくてすいません」
「その時々敬語混ざるのやめろよ。あと謝るな。最初っから頼りがいある奴だったら俺の役割が減るだろ」
慰めているつもりなのだろうか。それに敬語が混ざるのは仕方がないことなのだ。コミュ障な上に極度な人見知りのツクヨに、出会って数日の人とタメで話せということに無理がある。この世界に来てもこの性格が治る可能性はなさそうなのは正直言って少し残念だ。まあ異世界に来て異能の力使えるようになったという話は聞いたことあるが性格まで変わるという話は聞いたことがない。当たり前なのだがこんなでたらめな世界だ、あったらいいのにと思ってしまうのは仕方のないことだと思ってほしい。
それから数日、フラウの特訓の成果あってツクヨでもある程度のモンスターを危なげなく倒せるほどに成長していた。この辺一体で出現するモンスターには耐性がついてきて出た瞬間に悲鳴を上げることはなくなったし、剣もためらわず振れるようになった。これはツクヨとしては大きな進歩なのでどうか呆れないでほしい。
レベルも二桁に達したこともあって、そろそろ本格的に旅の準備を進めることになった二人はアイテム屋にやってきていた。モンスターを倒して手に入った換金アイテムを売ってそれなりに増えた金で必要なものから選んでいく。
「テントなんてなくても寝れるだろ」
「一応私女の子なのでそこらへん考慮してください・・・」
そんな雑談も交えながら買い物は順調に進んでいく。
「さて、最後は武器かな」
「武器?魔法だけではダメ・・・なの?」
「そりゃお前の魔法はだいぶ成長しているけど魔力切れになった時に他に闘う手段がなければ死ぬしかなくなる。そうならないためにわざわざ腰引けまくってるお前に武器のスキルをいろいろと上げさせたんだろうが」
そう言ってフラウはツクヨの頭を軽く小突く。
やはりフラウはすごいやつだ。こんな自分のことを考えてこの世界で生き残れるように頑張ってくれている。サポート妖精だからそこまでしてくれるのだろうか。どんな理由であれ、ツクヨにとってそれはとても嬉しいことであり、また慣れないことでもある。
「いらっしゃい。おや、久しぶりだな、お嬢ちゃん」
どうやら店員は覚えていたらしい。軽く挨拶して武器を見てまわる。正直かっこいい武器は山ほどあるのだがどれも自分が使いこなせそうになくて、ツクヨは早々にフラウに意見を求める。
「お前なあ、自分が使う武器くらい決めろよ。あ、銃とか弓とかはなしな。弾とか矢とか後で金かかるのは極力避けろ。お前はギルドに所属していないから冒険者としての支給品がもらえない分節約しないといけないんだからな」
ツクヨのせいであるから何も言い返せない。
「だって、全然知らない人の中に放り込まれるのはちょっと辛いです。それに今のままじゃ足手まといにしかならないし・・・」
「まあ無理強いはしないって言ったろ。ほれ、さっさと選べ」
異世界人というだけで注目を集めるのは目に見えている。そんなところは耐えられないだろう。
「選べって言われても・・・」
できるだけ離れて攻撃できる長物の方を見る。オーソドックスに剣なども考えたがそんな近接かつ主人公的武器はあまり選びたくなかった。
「あ、鎌・・・」
槍や薙刀などの長物が並んでいるところの端の方に一つ、黒い大鎌が目にとまった。漫画で言うと死神が持っていそうな大鎌だ。
「鎌?また珍しい武器に目を付けたな」
「扱いとか、難しいですかね」
「まあお前のスキルはまんべんなく上げておいたから扱うことはできるだろう。使いこなせるかはお前次第だな」
私次第、か・・・。
ツクヨはしばらく考え込む。どの武器でも難易度が変わらないというのなら、少し変わった武器を試してみたいとは思う。しかしそれはとても私的な意見であるからしてこの先を考えればきっと他の最善な選択があるはずだ。が、ツクヨのスポンジ脳をいくらしぼったところでいい選択肢など思いつこうはずもない。
「あの・・・やっぱり選んでほしいって言ったら・・・」
「却下」
「あう、やっぱり・・・」
「決まらないならもうそれでいいんじゃないか」
「そんな簡単に」
「最初の武器なんて趣味と直感で選べばいいんだよ」
そういうフラウの言葉を信じて武器は大鎌に決めた。さらに防具を一式と外套を購入した。
「結局ソロで進むのかい」
「あ、はい」
「そうか・・・死ぬなよ、嬢ちゃん。こいつはおまけだ。持ってきな」
アイテムボックスに刀が一つプレゼントとして送られてきた。それは、この武器屋に初めて入った時最初に手に取った黒刀。
「これ」
「お、兄ちゃん太っ腹だねえ」
フラウがにやりと笑う。
「こんな女の子が一人で冒険するっていうんだ。当然の餞別だろ」
いい人だ、と素直に感謝してツクヨは店を出た。
「さーて、これで準備は整ったな。今日は一日休んで明日の朝出発するぞ」
「あれ、今すぐとかじゃないの」
「今出てもすぐ日が暮れちまう。日が暮れればモンスターは日中とは段違いの強さになる。すぐに足止め食らうくらいなら明日まで待った方がいい」
フラウに従い、ツクヨは宿をとった。
ここでの暮らしも何とか慣れてきた。モンスターもそれなりに倒せるようになったし、そのおかげでだいぶ資金も集まった。が、未だに夢気分が抜けない。冒険者となってこれから旅に出ようというのに全く自覚がわかない。こんなので本当に大丈夫なのだろうか。もしこの世界に自分を閉じ込めたのが誰かの陰謀だというのなら、その人に言いたい。絶対に人選ミスっただろ、と。
「何だ。今更不安にでもなってるのか」
「いや、何て言うか・・・未だに実感が・・・」
「無理もないが、いつまでもそんなんじゃこの先さっさと死んじまうぞー」
「う・・・」
死という言葉が今までよりも身近に意識できる。ただでさえ痛いのが嫌いなのだ。どれくらいかというと痛いのが嫌でピアスの穴もあけたくないと思うほどに。最初こそ少し面白そうとか思っていたが、非現実的なものを望んだこともあったが、やはり実際にそうなってしまうとあまりいいものじゃないような気がしてならない。やはり異世界というものは想像の中でだけ都合よくあるものだ。
この先、何が起こるのかと不安に思いながらもツクヨは明日に備えて眠りについた。
翌日。
向かうのはここから東に位置するチシクと呼ばれる町だ。知識の町として知られるその町には世界最大の図書館がある。情報収集するなら打ってつけの場所だ。行く途中にいくつか経由できる村もある。いざとなればいろいろと補給もできるだろう。ツクヨはフラウのナビに従ってフィールドを進んだ。
「何だ、意外と様になってるじゃないか」
「え、そう?ありがとう」
大鎌を振り回してモンスターを倒していくツクヨにフラウが珍しく褒めてくるので若干戸惑う。
「だが少し距離を取りすぎだ。先の方掠めてるだけじゃ対してダメージ入らないぞ」
やはり褒めるだけでは終わってくれなかった。
「フローガ・ヴェロス!」
炎の矢がスライムを貫き燃やし尽くす。やはり魔法の方が向いている、と思う。
「次が来るぞ!構えろ!」
フラウの声にハッとして後ろを振り向く。咄嗟に鎌で払うが無駄に数が多い。
「シンクラティシ―!」
拘束の呪文を唱えるが今のツクヨの力では一体しか拘束できない。要するに、あまり意味がない。
「バッカ!そこは広範囲魔法だろうが!」
フラウが怒鳴り、テンパったツクヨをフォローするように防壁を展開する。防壁が破れる前にツクヨは何とか態勢を立て直した。
「フローガ・ベローチ!」
炎の雨が降り注ぐ。全てとはいかなかったが大分数を減らした。他も倒すまではいかないがそれなりにHPを削った。ツクヨは弱ったモンスターに向かって鎌を振った。
「あ、危なかったー」
「ったく、お前は」
二人で安堵の息をつく。フラウは若干の呆れを含んでいたが。
それから何度かツクヨのドジで危なっかしいことはあったが二人は順調に先へ進んだ。
「日が沈みかけてきたな。今日はここら辺でテントが張れるところを探した方がいいな」
二人は近くに川が流れている少し広めの場所を見つけ、そこにテントを張った。川にはいい感じに魚が生息していたのでいい食料になりそうだ。また、道中で食べられそうな植物や果実も採取しておいた。中には薬草などもある。そのままでも効果はあるが調合に使うこともできるらしい。少しずつスキルを上げておいた方が後々役に立ちそうだ。
「念のために防御壁を周囲に張っておくからお前はそこに感知魔法を組み込んでくれ。できるだろ」
「りょーかいです!」
テントはあまり寝心地が良いものではないがこれも慣れるしかないのだろう。
「疲れたか」
「うー、頑張って慣れます・・・」
「はは、その意気だ」
寝転がるツクヨの隣にフラウも寝転がる。
「フラウはそこで寝るの?」
「何か問題が?」
「いや、その、私すごい寝相悪いんだけど」
「そうか。じゃあ気を付けろ」
「いやいやいや、寝てるのに無茶な!」
「お前ならできる」
「こ、根拠がないんですけど」
「出来ると言えば出来るだろ、言霊師」
「ちょ、使うなって言ったの君じゃなかったっけ!?というかそんな事にレアスキル使うとかどうなの!?」
そんなどうでもいいような話をしているうちにツクヨの瞼はだんだんと重くなってくる。夢の世界で眠るというのも不思議な感覚だ。そんな事を一瞬考えたような気がしたが、すぐに眠りに落ちてしまったので定かではない。
「お前、すでに一体モンスター倒してるんだよな。じゃあ容量はわかるか」
「あ、でもそれ、何かスキル使ってフルボッコにした感じなので」
ツクヨはフラウに最初の戦闘の状況と出現した魔術スキルについて簡単に説明した。
「言霊・・・?」
話を一通り聞き終えた後、フラウは難しい表情で眉根を寄せた。
「魔法は主に呪文を媒介にして世界に干渉する。言霊が呪文を意味していると考えるのが妥当だがそんなスキルは見た覚えがない。しかもお前の話からするに呪文らしき呪文も唱えていない」
「つまり・・・わからない?」
「そうだな。だが、一つ言えることはその力使わない方がいい」
「え」
「お前の言葉は現実になる。おそらくその時の感情やイメージなどがトリガーとなって発動するんだろう。その力は未知数だがおそらく使いこなせれば最強にもなり得る」
「じゃあ、ちゃんと使えるようにした方がこの先いろいろと役に立つんじゃ」
「役には立つだろうがその分リスクも上がる。利用しようと狙われるかもしれないし、その力の代償だってまだ明確じゃない。そんなもん使うよりちゃんとした戦闘技術身に着ける方が重要だって話だ」
「なるほど・・・」
強い力にはそれ相応のリスクが伴うということは理解できた。自分には過ぎた力のようだ。もともとこつこつやるタイプだ。いきなり特別な力を使うというよりこの世界の基本的なことを一から学びたいとは思っていた。
「さて、聞きたいことはそれだけか」
フラウの問いにうなずくツクヨ。
「それじゃあとりあえずレベルを上げるか。お前のレベルじゃ次の街まで言ってる間に雑魚どもにやられてお陀仏だ」
自分が弱いということは認識していたがはっきり言われると結構傷つく。
「お前の場合はまず先に魔法の方を覚えた方がいいだろうな。その性格じゃ近接で剣を振り回すなんてまねはできないだろ」
「おっしゃる通りです・・・」
魔法は使用者のイメージと魔力量によって左右される。昔から妄・・・想像量は豊かな方であるツクヨはイメージ力的には申し分なかった。あとはレベルを上げて魔力――MPの最大値を上げるだけだ。
さらにこれからいろいろと役に立つであろうスキル類も同時に鍛錬するというスパルタ訓練だ。フラウは死ぬよりマシだろというがそもそもこれまで死と隣り合わせでの生活なんてしたことない平和ボケした日本人にそういう事を言わないでほしいと心の中で思ったことは内緒だ。
「魔法は最初の方だけだ。慣れたら近接戦闘も身に着けてもらうからな」
「私には向いてないと思うんですけど」
自分で言うのもあれだがゲームでも近接は苦手でいつも即死していた。
「お前の不器用と怖がりは今に始まったことじゃねえだろ」
「うぐ、そうですけど。フラウさんって結構はっきり言いますね」
「お前にはこれくらい言わないとダメな気がして」
「頼りなくてすいません」
「その時々敬語混ざるのやめろよ。あと謝るな。最初っから頼りがいある奴だったら俺の役割が減るだろ」
慰めているつもりなのだろうか。それに敬語が混ざるのは仕方がないことなのだ。コミュ障な上に極度な人見知りのツクヨに、出会って数日の人とタメで話せということに無理がある。この世界に来てもこの性格が治る可能性はなさそうなのは正直言って少し残念だ。まあ異世界に来て異能の力使えるようになったという話は聞いたことあるが性格まで変わるという話は聞いたことがない。当たり前なのだがこんなでたらめな世界だ、あったらいいのにと思ってしまうのは仕方のないことだと思ってほしい。
それから数日、フラウの特訓の成果あってツクヨでもある程度のモンスターを危なげなく倒せるほどに成長していた。この辺一体で出現するモンスターには耐性がついてきて出た瞬間に悲鳴を上げることはなくなったし、剣もためらわず振れるようになった。これはツクヨとしては大きな進歩なのでどうか呆れないでほしい。
レベルも二桁に達したこともあって、そろそろ本格的に旅の準備を進めることになった二人はアイテム屋にやってきていた。モンスターを倒して手に入った換金アイテムを売ってそれなりに増えた金で必要なものから選んでいく。
「テントなんてなくても寝れるだろ」
「一応私女の子なのでそこらへん考慮してください・・・」
そんな雑談も交えながら買い物は順調に進んでいく。
「さて、最後は武器かな」
「武器?魔法だけではダメ・・・なの?」
「そりゃお前の魔法はだいぶ成長しているけど魔力切れになった時に他に闘う手段がなければ死ぬしかなくなる。そうならないためにわざわざ腰引けまくってるお前に武器のスキルをいろいろと上げさせたんだろうが」
そう言ってフラウはツクヨの頭を軽く小突く。
やはりフラウはすごいやつだ。こんな自分のことを考えてこの世界で生き残れるように頑張ってくれている。サポート妖精だからそこまでしてくれるのだろうか。どんな理由であれ、ツクヨにとってそれはとても嬉しいことであり、また慣れないことでもある。
「いらっしゃい。おや、久しぶりだな、お嬢ちゃん」
どうやら店員は覚えていたらしい。軽く挨拶して武器を見てまわる。正直かっこいい武器は山ほどあるのだがどれも自分が使いこなせそうになくて、ツクヨは早々にフラウに意見を求める。
「お前なあ、自分が使う武器くらい決めろよ。あ、銃とか弓とかはなしな。弾とか矢とか後で金かかるのは極力避けろ。お前はギルドに所属していないから冒険者としての支給品がもらえない分節約しないといけないんだからな」
ツクヨのせいであるから何も言い返せない。
「だって、全然知らない人の中に放り込まれるのはちょっと辛いです。それに今のままじゃ足手まといにしかならないし・・・」
「まあ無理強いはしないって言ったろ。ほれ、さっさと選べ」
異世界人というだけで注目を集めるのは目に見えている。そんなところは耐えられないだろう。
「選べって言われても・・・」
できるだけ離れて攻撃できる長物の方を見る。オーソドックスに剣なども考えたがそんな近接かつ主人公的武器はあまり選びたくなかった。
「あ、鎌・・・」
槍や薙刀などの長物が並んでいるところの端の方に一つ、黒い大鎌が目にとまった。漫画で言うと死神が持っていそうな大鎌だ。
「鎌?また珍しい武器に目を付けたな」
「扱いとか、難しいですかね」
「まあお前のスキルはまんべんなく上げておいたから扱うことはできるだろう。使いこなせるかはお前次第だな」
私次第、か・・・。
ツクヨはしばらく考え込む。どの武器でも難易度が変わらないというのなら、少し変わった武器を試してみたいとは思う。しかしそれはとても私的な意見であるからしてこの先を考えればきっと他の最善な選択があるはずだ。が、ツクヨのスポンジ脳をいくらしぼったところでいい選択肢など思いつこうはずもない。
「あの・・・やっぱり選んでほしいって言ったら・・・」
「却下」
「あう、やっぱり・・・」
「決まらないならもうそれでいいんじゃないか」
「そんな簡単に」
「最初の武器なんて趣味と直感で選べばいいんだよ」
そういうフラウの言葉を信じて武器は大鎌に決めた。さらに防具を一式と外套を購入した。
「結局ソロで進むのかい」
「あ、はい」
「そうか・・・死ぬなよ、嬢ちゃん。こいつはおまけだ。持ってきな」
アイテムボックスに刀が一つプレゼントとして送られてきた。それは、この武器屋に初めて入った時最初に手に取った黒刀。
「これ」
「お、兄ちゃん太っ腹だねえ」
フラウがにやりと笑う。
「こんな女の子が一人で冒険するっていうんだ。当然の餞別だろ」
いい人だ、と素直に感謝してツクヨは店を出た。
「さーて、これで準備は整ったな。今日は一日休んで明日の朝出発するぞ」
「あれ、今すぐとかじゃないの」
「今出てもすぐ日が暮れちまう。日が暮れればモンスターは日中とは段違いの強さになる。すぐに足止め食らうくらいなら明日まで待った方がいい」
フラウに従い、ツクヨは宿をとった。
ここでの暮らしも何とか慣れてきた。モンスターもそれなりに倒せるようになったし、そのおかげでだいぶ資金も集まった。が、未だに夢気分が抜けない。冒険者となってこれから旅に出ようというのに全く自覚がわかない。こんなので本当に大丈夫なのだろうか。もしこの世界に自分を閉じ込めたのが誰かの陰謀だというのなら、その人に言いたい。絶対に人選ミスっただろ、と。
「何だ。今更不安にでもなってるのか」
「いや、何て言うか・・・未だに実感が・・・」
「無理もないが、いつまでもそんなんじゃこの先さっさと死んじまうぞー」
「う・・・」
死という言葉が今までよりも身近に意識できる。ただでさえ痛いのが嫌いなのだ。どれくらいかというと痛いのが嫌でピアスの穴もあけたくないと思うほどに。最初こそ少し面白そうとか思っていたが、非現実的なものを望んだこともあったが、やはり実際にそうなってしまうとあまりいいものじゃないような気がしてならない。やはり異世界というものは想像の中でだけ都合よくあるものだ。
この先、何が起こるのかと不安に思いながらもツクヨは明日に備えて眠りについた。
翌日。
向かうのはここから東に位置するチシクと呼ばれる町だ。知識の町として知られるその町には世界最大の図書館がある。情報収集するなら打ってつけの場所だ。行く途中にいくつか経由できる村もある。いざとなればいろいろと補給もできるだろう。ツクヨはフラウのナビに従ってフィールドを進んだ。
「何だ、意外と様になってるじゃないか」
「え、そう?ありがとう」
大鎌を振り回してモンスターを倒していくツクヨにフラウが珍しく褒めてくるので若干戸惑う。
「だが少し距離を取りすぎだ。先の方掠めてるだけじゃ対してダメージ入らないぞ」
やはり褒めるだけでは終わってくれなかった。
「フローガ・ヴェロス!」
炎の矢がスライムを貫き燃やし尽くす。やはり魔法の方が向いている、と思う。
「次が来るぞ!構えろ!」
フラウの声にハッとして後ろを振り向く。咄嗟に鎌で払うが無駄に数が多い。
「シンクラティシ―!」
拘束の呪文を唱えるが今のツクヨの力では一体しか拘束できない。要するに、あまり意味がない。
「バッカ!そこは広範囲魔法だろうが!」
フラウが怒鳴り、テンパったツクヨをフォローするように防壁を展開する。防壁が破れる前にツクヨは何とか態勢を立て直した。
「フローガ・ベローチ!」
炎の雨が降り注ぐ。全てとはいかなかったが大分数を減らした。他も倒すまではいかないがそれなりにHPを削った。ツクヨは弱ったモンスターに向かって鎌を振った。
「あ、危なかったー」
「ったく、お前は」
二人で安堵の息をつく。フラウは若干の呆れを含んでいたが。
それから何度かツクヨのドジで危なっかしいことはあったが二人は順調に先へ進んだ。
「日が沈みかけてきたな。今日はここら辺でテントが張れるところを探した方がいいな」
二人は近くに川が流れている少し広めの場所を見つけ、そこにテントを張った。川にはいい感じに魚が生息していたのでいい食料になりそうだ。また、道中で食べられそうな植物や果実も採取しておいた。中には薬草などもある。そのままでも効果はあるが調合に使うこともできるらしい。少しずつスキルを上げておいた方が後々役に立ちそうだ。
「念のために防御壁を周囲に張っておくからお前はそこに感知魔法を組み込んでくれ。できるだろ」
「りょーかいです!」
テントはあまり寝心地が良いものではないがこれも慣れるしかないのだろう。
「疲れたか」
「うー、頑張って慣れます・・・」
「はは、その意気だ」
寝転がるツクヨの隣にフラウも寝転がる。
「フラウはそこで寝るの?」
「何か問題が?」
「いや、その、私すごい寝相悪いんだけど」
「そうか。じゃあ気を付けろ」
「いやいやいや、寝てるのに無茶な!」
「お前ならできる」
「こ、根拠がないんですけど」
「出来ると言えば出来るだろ、言霊師」
「ちょ、使うなって言ったの君じゃなかったっけ!?というかそんな事にレアスキル使うとかどうなの!?」
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