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オレオレオ

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10.塔を登る

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塔の扉の前には2メートル近い大男が2人、扉を塞ぐように立っている。
丸太のような腕を組み、無言の威圧感を否応なしに感じる。

「お前が勇者か」
近くまでくると大男の1人が聞いてくる。
「そうだ。」
すぐに答える。感情のない者には感情を消して答えるのが正しい対応だ。
「ならば、扉の先に進むがいい。」
もう1人が言うと、大男2人が扉を開ける。
ズズズ、と重そうな音を立てて、扉が開く。中はほの暗く、外からでは塔の中の様子を伺うのは難しい。
後ろでユーリが固唾を飲む音が聞こえる。ユーリの緊張を感じるが、伝わらないし伝播しない。

迷わず進む、ユーリが躊躇い足を動かしてないのが雰囲気でわかるが、足を止めることも後ろを振り向くこともしない。

塔の中に入った。


窓がなく、陽の光が全く入らないにも関わらず、ほのかな薄暗さの中でフロア全体の構造をみとることができた。
至ってシンプルで、塔の壁をなぞるように螺旋状に、石でできた階段が続いている。
薄暗さのせいで一番上まで見ることは出来ないが、頂上に繋がっているだろう。

足音がして振り返ると、ユーリが遅れて入ってきていた。恐る恐る、といった表情で塔の中を見渡している。
そんなユーリを尻目に迷わず歩き、階段の最初の段に足をかける。
1歩、2歩、警戒を怠らず、一定のテンポで歩を進める。


石の階段は足音を大きく響かせる。ユーリには少し速いペースなのか、ユーリは早歩きになり、速いテンポと遅いテンポの足音が交差する。

階段をあがるにつれ闇が深くなり、少し先しか見えなくなってきた時、突如壁に埋め込まれた棺が現れる。
吸血鬼が寝ていそうな典型的な棺。白い十字架が黒い棺に描かれている。
それは見えたと同時に音もなく開く。

中からゆっくりと人型の何かが出てくる。暗さでシルエットしかわからないそれは徐々に姿を露わにする。
8頭身の長身、全身真っ白、服を着ていない。


骸骨だ。
手にサーベルを持った骸骨はしゃれこうべの眼窩の窪みの闇を目のように赤く光らせ、こちらを見て、ゆっくり近づいてくる。
ヒッ、という小さい声が後ろから聞こえたが正面だけを見据える。剣をしっかり正面に構える。

骸骨は間合いに入る手前で全身を横にひねり、一足飛んで、勢いでサーベルを横に振り抜く。
デタラメな動作は筋肉のブレーキがなく、素直な推進力を持って振り抜かれる。

後ずさった足の先に地面がなく転ぶ、それが功を奏してサーベルは頭をかすめた。
骸骨がサーベルを振り戻している間に、立ち上がる。そして骸骨の体勢が整わないうちに剣を振りかぶる。

狙うは細い首

カンッ
鋭い金属音が響き、剣は跳ね返された。首骨は傷一つ付いていない。
骸骨が体勢を整え、今度は腰を後ろにひねり更なる勢いをつけようとする。間合いはさっきよりも詰められていて、逃げようがない。

諦めが脳をかすめた時、後ろから小さいながらもはっきりとした声の呪文が放たれた。

「ファイア」

ユーリの杖の向けたる先はもちろん骸骨。
骸骨全体を包むように炎が蠢く。
骸骨がよろめき、一瞬倒したかに思えたが、徐々に炎が小さくなり骸骨は立ち直る。
見たところ外傷もなく、ダメージを受けている気配もない。

骸骨は再度サーベルを振りかぶる。
斬撃も魔法も使えない、となると為す手は一つしかない。
剣を落とし、体勢を低くする。そして


骸骨の懐に突っ込む。


捨て身のタックルで骸骨は簡単によろめく、ブレーキとなる筋肉がないことが仇となる。
そのままの勢いで、塔の中央へ、一番下へ突き落とした。

骸骨が落ちる様はスローモーションで目に映り、骸骨が落ちながら手を伸ばしている様は無様に、しかし必死に生きながらえようとする人間のようにも見えた。


ガシャン
一番下に叩き落とされ、イビツな耳障りな音が塔内に響き渡った。

そのまま下を覗く、骸骨の姿は小さく白い点にしか見えなかったが、動かないことは確認できた。

床に手をついて同じく下を覗いていたユーリは全身をガタガタと震わせ、絶望の目でこちらを見た。なんとか声を紡ごうとする口は震えて機能せず、ワナワナと震えるだけだ。

そんなユーリを一瞥し、もう動けないと冷静に判断する。
震えているユーリを無視し、震える我が手さえも無視し、再び階段を上がり始める。


「え……え……あ……あの……」
後ろからユーリが必死に声を出そうとする音が聞こえる。こちらにも向かって発しているのかもしれないが、振り向かないとわからない。

その音は階段を登るたびに小さくなり、やがて聞こえなくなった。



魔王を倒せ、そして帰ってこい。
頭にまだ響いている。
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