僕の前、私の後ろ

オレオレオ

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永田結衣

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騒がしさに眼を覚ますと、寝る前にはいなかった綺麗に背筋の伸びた背中が前の席にいた。
永田結衣が登校してくる時間を俺は知らない。でも起きれば常に目の前にいる、それだけで少しの幸せが体を駆け巡るから問題はない。
結衣は朝の単語テストの範囲を確認している。俺は朝に電車の中で少しだけやった。

「あれ、結衣、今日英語だっけ?」
とぼけて聞く。視線の先は結衣の机に置いてある英単語帳。
「今日は月曜日だからね~。英語だよ~。」
結衣が振り返って答える。今日初めて顔を見る。化粧っ気が薄く、日焼けした顔はまさしくスポーツ少女。
素直にかわいいと思う。
「マジか、ちょい問題だして」
完全に頭を起こして、姿勢を正す。結衣は英単語帳を持って体を後ろを向けてくれる。
「混乱する」
「カンファレンス」
「それ会議とかじゃない?正解はコンフューズ」
普通に間違えてしまった。ちょっと焦る。
「マジか、スペルは?」
「confuse」
いつもはこんな直感で答えは出さない。よく考えてよく考えて、答えを出す。

未だに正解も不正解もしていない問題が残っているが、それはまだ考察中だ。

キーンコーンカーンコーン
本鈴がなって、担任がテストを持って教室に入ってくる。あちこち同じ様に行われていた問題の出し合いがバタバタと終わる。
クラスが、というかこの学年全体が、仲がよくて男女間での交流に全く拒絶がなく、あちらこちらで異性だろうが同性だろうがかまわず問題を出し合っている。おかげで結衣にこうして問題を出してもらっていても、誰も特別視しないし、名前呼びも割と普通に定着している。

そんな中で俺は最後の問題「恥ずかしい」を答える。
「えっと…、エンバラス?embarrass?」
「ん、正解!」
結衣も慌ただしく前を向きながら言葉を投げる。
横顔が一瞬笑顔になっていた気がするが、脳みそが見せた幻な気もした。


単語テストはそれなりにできたと思う。「混乱する」だけは完璧な自信がある。
彼女の言葉は響く、これ程までに強烈に。


授業は真面目に受ける。真面目に受けながらも綺麗な背筋は目に映る。
結衣はどの授業でも同じ姿勢を保ち、しっかり教師の方向を見て、聞いて、書く。
結衣のノートを見せてもらったことがある。
板書より丁寧にまとまったノートは簡潔で、黒と赤しか色が使われてなく重要な点がわかりやすかった。
ノートだけを見れば、どんな授業も完璧な授業をしているんじゃないか、という錯覚をさせた。
ノートの状況が表す通り、家では宿題以外に勉強をしない、と言っているわりには成績はかなり上位にいた。

昼食の時間はサッカー部のミーティングに行ったので、結衣がどうしているか知らない。まぁ普段もこの時間はサッカー部の連中とつるんでいるから結局よく知らない。
そのまま昼休みはサッカー部の連中とグラウンドでサッカーをする。
校舎からはキャーキャー黄色い声がグラウンドに降り注ぐ、特にゴールをした時の歓声はスタジアムにいるかの様な錯覚をさせるほどだ。
名前を呼ぶ女子もいるが、俺の名前が呼ばれることはない。ゴールを決めない、ドリブルしない。派手なトリックをするわけでない。黙々とボールを回収するプレースタイルはむしろ歓声の邪魔をする存在かもしれない。
プレーが止まっている間に、ちらりと校舎を見る。
俺たちのクラスも例に漏れず多くの女子が窓から顔を出している。
その中で、澄ました表情でグラウンドを見ている結衣を見つける。
感情の無い目はどこをみているのか、判断できず不安になる。

午後の授業が終わり、放課後になる。
グラウンドでサッカーが待っている。はやる気持ちを足に、そそくさと部室へ向かおうとする。
結衣はまだ部活バックに教科書を入れる。

「結衣、じゃあね、また明日!」
いつも行なっている、日常的な行為だけど、心に緊張を隠して今日の別れを告げる。
結衣は中途半端に顔を上げて、なんとも言えない表情と共に挨拶を返してくれる。
表情の意味を捉えられず、また不安が湧き上がるが、それも心に隠して教室を出る。教室を出てから不安で顔を曇らせる。

トラック内のグラウンドで紅白戦をしている間、陸上部はトラックを走っている。
肌の露出が多い陸上のユニフォームは、結衣が着るとスリムな体型が露わになり、よりスタイルの良さをさらしていた。
もはや、見ないようにしなくてはいけない程、その格好は破壊力があった。
そして、その姿をいつか、誰かが認めそうで不安になる。

サッカー部はグラウンド整備で陸上部よりも終わるのが遅い、結衣が今日も女友達と一緒に帰っているところをちらりと見て、少し安心する。




不安は行動を駆り立てずに、むしろ臆病に足を引きづり進ませない。
いつ後悔してしまうかわからない。時間が過ぎる度に焦るが、不安に負けて想いはまだまだ届けられない。
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