僕の前、私の後ろ

オレオレオ

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私と日直と放課後

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今日は2人きりになることが多い。
教室を移動するときは施錠のために最後まで残らなきゃいけない。逆に教室に戻って来るときは、先に来て鍵を開けなくてはならない。

2人並んで廊下を歩く。
他愛のない話をする、近づいて来た中間試験の話し、部活の話し、好きなテレビ番組の話し。
話題を絶やさないように話し続ける、健太の笑顔が崩れず常にこちらに向けられていて、それが嬉しくてさらに会話に熱中する。

今の距離感がちょうど良くて、もっと近づきたくて、もっと離れたくなくて。
今は楽しいけど、続く保証のない楽しさに一抹の不安を感じる。



踏み出したい1歩。



放課後。
部活が残っているけど、健太と2人きりになるのは、これで終わり。
日直日誌を机に広げシャーペンを持つけど、書く手は進まない。健太は黒板を雑巾で拭いている。
普段見ない背中に、知らない健太を感じる。


顔が見えない、顔を見られない今だから言えることがある気がした。


「ねぇ、健太」
離れている健太に向けて少し大きな声を出す。誰もいない教室に声が響く。
「んー?なぁに?」
間延びした返事に緊張感はない。
そりゃそうだ、勝手に気合い入れているのは私なのだから。
柔和な笑みを浮かべて、こちらをチラリと見る健太にドキリとする。いつもの笑顔なのに妙に大人びた笑顔な気がした。

拭いたままでいいよと言うと、健太はまた作業を再開する。心臓の高鳴りを抑えて、声のトーンも抑えて、世間話を装う。

「健太って彼女いるの?」

震えそうになる唇を抑えきった。
「えー?」
健太は聞こえているのか、聞こえていないのか、よくわからない緩慢な声を出す。

長い2、3秒の沈黙の後、健太は手を止めて、急に振り向いて答える。
「俺、いないよ、彼女」
さっきまでの落ち着いた間延びした声ではない、はっきりとした声。顔に笑みを浮かべながらも目は真っ直ぐ私を貫いている。
「だって…」
健太はそのまま言葉を繋げようとするも、口を噤んでしまう。
「だって、俺を好きになる子なんてなかなかいないよ」小首を傾げて、少し寂しそうに健太は笑う。
「え?そうなの?」
平静を装う。なんでもない会話のように振る舞う。
健太は寂しいかもしれないが、顔はにやけそうになる。
「健太、サッカー部だし、顔も悪くないのにね。」
日誌を書く手が止まっていたことに気づき、顔を下げて日誌に向かい合う。
「サッカー部でも、みんな広輝みたいなイケメンが結局好きなんだろ、俺なんか広輝のとなりで何度ラブレター渡されているところを見たことか。」
健太の声はまた緩慢な声に戻っている。
「女子の中でも広輝の話題は多いよ。」
「やっぱりなぁ」
会話がいつもの雰囲気に戻っていた。同時に話題を変えられたことにも気づいたが、時すでに遅し。

広輝がどれだけモテるのかという話が続く。会話が盛り上がるか、気持ちはモヤモヤを抱える。



1歩を踏み出してみても、また次の一歩を踏み出したくなる。好きな人はいるのか、私のことをどう思っているのか。

まだまだ距離は遠いまま。




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