9 / 11
僕と日直と放課後
しおりを挟む
「今日、日直だから部活遅れるわ。」
放課後になり、僕は和田広輝の席に行って伝える。
「え、まじで?俺も今日遅れるんだよね…。まぁいいや、誰かに伝えとくわ。」
広輝はこちらを向いたと思えば、顔をすぐにカバンに戻り、少し早口で喋る。何かを探すようにカバンをまさぐっている手も、がむしゃらに動かしているようにしか見えない。
慌ててる?
思いはするも口には出さない。
何か言いたいことがあれば言うだろうし、下手に口を出す必要は無いだろう、と判断する。
じゃあ、よろしく。と軽く手を上げて広輝の席から離れる。
なんとなく、どこかで聞いたやりとりだな、と感じた。
三々五々と教室から人がいなくなり、残っているのは結衣と僕の2人。
結衣は自分の机で日直日誌を書いている。僕は黒板を雑巾で拭く。この微妙な距離が関係性を否応なしに強調する。
普段と一緒だ。前後の席では振り向かなければ顔すら見えない。なにか用事がなければ顔を見ることもできない。
日直にでもならなければ2人きりになることもできない。
機械的に手を動かしながら小さくため息をつく、変わらない関係性にジリジリと心は焦れる。
「ねぇ、健太」
静かな教室に結衣の声が響いた。
「んー?なぁに?」
頭を占めていた人からの呼びかけに反応が遅れ、変に間延びした返事になる。
誤魔化すように笑顔で振り向く。…いや、何かにつけて結衣の顔が見たくて振り向く。
拭いたままでいいよと言われると、名残惜しくも素直に顔を戻し、黒板をふく作業に戻る。関係性の変化を望みながら普段通りを心がける。普段通りの会話を楽しみたい、という欲望に負ける。
「健太って彼女いるの?」
普段の会話の延長線のはずなのに、その言葉は強烈な威力を放ち、普段の壁を壊す。
「えー?」
口はとりあえず緩慢な声を出す。手は機械的に動く。頭は強烈に回転し、言葉の意味を考える。
質問の意図を考える。自分の意志を考える。
こんな言葉が普段のように放たれる友達なんて関係をぶち壊したい。
意志と決意を持って振り向き答える。
「俺、いないよ、彼女」
顔に笑みを浮かべながらも目は真っ直ぐ結衣を見据える。
「だって…」
勢いのまま言葉を繋げようとする、だって僕が好きなのは…。
繋げるはずの言葉は、発せられずに宙に浮かぶ。
出したい言葉は理性が押し留めてしまう。
普段を壊すことに恐怖してしまう。
「…だって、俺を好きになる子なんてなかなかいないよ」
声を落ち着かせ、空虚な言葉をなんとか紡ぐ。守りに入る、逃げる。弱い意志が理性に白旗を上げる。
「え?そうなの?」
会話は当然続く、普段通りの会話が続く。
「健太、サッカー部だし、顔も悪くないのにね。」
微かに胸を疼かせるも、何事もなく続ける。
「サッカー部でも、みんな広輝みたいなイケメンが結局好きなんだろ、俺なんか広輝のとなりで何度ラブレター渡されているところを見たことか。」
ゆっくりと普段の声に戻す。
「女子の中でも広輝の話題は多いよ。」
「やっぱりなぁ」
会話をいつもの雰囲気に戻した。
ちょっとの失望と大きな安心が体を包む。
広輝がどれだけモテるのかという話が続く。会話が盛り上がるか、気持ちはモヤモヤを抱える。
1歩踏み出そうとして逡巡する。意志が入った足踏みは、しかし前に進まない。
目の前に広がる未知の景色がまだ怖い。
まだまだ距離は縮まらない。
放課後になり、僕は和田広輝の席に行って伝える。
「え、まじで?俺も今日遅れるんだよね…。まぁいいや、誰かに伝えとくわ。」
広輝はこちらを向いたと思えば、顔をすぐにカバンに戻り、少し早口で喋る。何かを探すようにカバンをまさぐっている手も、がむしゃらに動かしているようにしか見えない。
慌ててる?
思いはするも口には出さない。
何か言いたいことがあれば言うだろうし、下手に口を出す必要は無いだろう、と判断する。
じゃあ、よろしく。と軽く手を上げて広輝の席から離れる。
なんとなく、どこかで聞いたやりとりだな、と感じた。
三々五々と教室から人がいなくなり、残っているのは結衣と僕の2人。
結衣は自分の机で日直日誌を書いている。僕は黒板を雑巾で拭く。この微妙な距離が関係性を否応なしに強調する。
普段と一緒だ。前後の席では振り向かなければ顔すら見えない。なにか用事がなければ顔を見ることもできない。
日直にでもならなければ2人きりになることもできない。
機械的に手を動かしながら小さくため息をつく、変わらない関係性にジリジリと心は焦れる。
「ねぇ、健太」
静かな教室に結衣の声が響いた。
「んー?なぁに?」
頭を占めていた人からの呼びかけに反応が遅れ、変に間延びした返事になる。
誤魔化すように笑顔で振り向く。…いや、何かにつけて結衣の顔が見たくて振り向く。
拭いたままでいいよと言われると、名残惜しくも素直に顔を戻し、黒板をふく作業に戻る。関係性の変化を望みながら普段通りを心がける。普段通りの会話を楽しみたい、という欲望に負ける。
「健太って彼女いるの?」
普段の会話の延長線のはずなのに、その言葉は強烈な威力を放ち、普段の壁を壊す。
「えー?」
口はとりあえず緩慢な声を出す。手は機械的に動く。頭は強烈に回転し、言葉の意味を考える。
質問の意図を考える。自分の意志を考える。
こんな言葉が普段のように放たれる友達なんて関係をぶち壊したい。
意志と決意を持って振り向き答える。
「俺、いないよ、彼女」
顔に笑みを浮かべながらも目は真っ直ぐ結衣を見据える。
「だって…」
勢いのまま言葉を繋げようとする、だって僕が好きなのは…。
繋げるはずの言葉は、発せられずに宙に浮かぶ。
出したい言葉は理性が押し留めてしまう。
普段を壊すことに恐怖してしまう。
「…だって、俺を好きになる子なんてなかなかいないよ」
声を落ち着かせ、空虚な言葉をなんとか紡ぐ。守りに入る、逃げる。弱い意志が理性に白旗を上げる。
「え?そうなの?」
会話は当然続く、普段通りの会話が続く。
「健太、サッカー部だし、顔も悪くないのにね。」
微かに胸を疼かせるも、何事もなく続ける。
「サッカー部でも、みんな広輝みたいなイケメンが結局好きなんだろ、俺なんか広輝のとなりで何度ラブレター渡されているところを見たことか。」
ゆっくりと普段の声に戻す。
「女子の中でも広輝の話題は多いよ。」
「やっぱりなぁ」
会話をいつもの雰囲気に戻した。
ちょっとの失望と大きな安心が体を包む。
広輝がどれだけモテるのかという話が続く。会話が盛り上がるか、気持ちはモヤモヤを抱える。
1歩踏み出そうとして逡巡する。意志が入った足踏みは、しかし前に進まない。
目の前に広がる未知の景色がまだ怖い。
まだまだ距離は縮まらない。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる