僕の前、私の後ろ

オレオレオ

文字の大きさ
11 / 11

永田結衣の部活

しおりを挟む


トラック内外で三々五々と散らばって各々が思い思いにウォーミングアップをしている陸上部はまとまりがないようで、ユニフォームの色が統一されていて、不思議な一体感を出していた。
その中でも孤高に静かに集中してメニューをこなしていく結衣の姿は陸上という個人競技を体現しているように見えた。
綺麗にすらりと伸びた背筋は教室で見る姿勢と変わらず、その後ろ姿だけでもそのストレッチしている人物が結衣であることが判別できた。

日直の日から、結衣との関係性に主だった変化はない。結衣とはいつもの様に接し、話す。
変化がないのは当然と言えば当然なのだが、あれでも深く踏み込んだつもりだったので最後の1歩を踏み出せなかったことが今になって後悔として心の隅に残っていた。
あの日以来2人きりになる機会なんてなく、後悔は一層募った。
あの結衣の後ろからそっと抱きしめたりして…、とか想像したり。

「どこ見てるの?」
隣で走る広輝が怪訝そうに聞く、全員が全員隣の人と話しながら走っている中で、トラックの方をボッーとみているのは確かに異様だった。
「陸部?」
広輝もちらっとトラックの方を見て、それから合点がいったように僕の方を見る。
「まぁね、陸部のユニってエロいもんな。見たくなる気持ちはわかるけど、そんなに見てたら怪しまれるぞ」
やれやれ、といったように言う広輝に対し、言い訳をしたいようなしたくないような気持が僕を押し黙らせる。
「…え?まじでそういう視線だったの?」
ボケだったんですけど、という風に広輝が聞いてくる。
「…いや、半分合ってるというか、なんていうか…、陸部の男子連中はよく平気でいるなと思って」
しどろもどろに適当な言い訳を始めるが、以外にも広輝はその話に乗ってくる。
「いや、意外と隠れてジロジロみてるらしいよ、恭子が言ってた。」
広輝が目線を結衣の方に向ける。結衣は今恭子に後ろから抱きしめられ、何か話をしている最中だった。
「へぇ、恭子とそんな話したことあるんだ、なんか意外」
広輝が女の子を避けがちなのを薄々感じていたし、広輝が恭子と話しているところを見たことがなくて、驚いた。
「いや、まぁね、なんかの成り行きでそんな話をした気がする。」
広輝はスラスラと答える。反応が薄すぎて逆に怪しかったが、そこから深くは掘り下げなかった。

広輝にせよ、恭子にせよ、結衣にせよ。
誰もが僕の知らない一面を持っていて、そこに踏み込むのは正直怖い。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...