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5th play
(4)
しおりを挟む航大の問いに、ミザリは目を大きく見開いた。
「……」
「……」
部屋に流れる沈黙。画面の向こうの彼女は眉一つ動かさずに、ただただ過ぎていく時間に身を委ねているようだった。
「……ミザリ。なあ、教えてくれ。君は……」
「山本未莉沙なのか?」
ミザリの黒目が遠慮がちに動き、そしてようやくその瞳に航大の姿を映した。
瞳の中で揺れたのは戸惑い……
そして、わずかな希望。
間違いない。
彼女は山本未莉沙本人だ。
「ミザ……」
「航大くん今日朝早いんだよね? 寝なくて大丈夫なの?」
航大の言葉を遮るようにミザリが言う。それはまるで、これ以上その事について詮索するなとでも言うかのような口振りだった。
「あ、ああ… そうだな」
ミザリは口の端だけくいっと持ち上げると、顔の横でひらひらと手を振った。
「ゆっくり休んでね」
「あ……」
まだ聞きたいことはたくさんある。
それにミザリのあの目……
ミザリも話したいことがあるんじゃないのか。
航大は唇をぎゅっと結んだ。
ミザリに聞きたいことは頭の中でバラバラになったパズルのピースのように散乱している。とりあえず今はのどまで出かかった言葉を飲み込み、一度整理するのが賢明だろう。
「……うん。じゃあ寝るよ。おやすみ」
「おやすみ航大くん」
小さく息を落とし、ディスプレイの電源に手を伸ばす。するとミザリが小さな声で航大の名前を呼んだ。
「航大くん」
「え?」
「ありがとう」
目一杯の笑顔に広がる悲痛の色。その言葉と表情がどういった意味を示すのかは分からない。
それでも航大の目には今までに見たミザリの笑顔の中で一番美しく映った。
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