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6th play
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しおりを挟む十五時半を過ぎた頃だった。
「おつかれさまでーす」
低い声と共に従業員出入り口の扉が開く。航大は急いで腰を持ち上げ、見つからないようにその姿を確認する。
出入り口付近に立つ大柄の男……そこにいたのは渡邊真二だった。航大は勢いよく死角から飛び出すと、渡邊の逃げ道を塞ぐように立ちはだかる。
「渡邊さん!」
「うわっ!」
まさか従業員出入り口に航大がいるとは思わなかったのか、渡邊の肩が大きく跳ねた。渡邊はすかさず航大から距離を取ると、用心するように身構える。
「ずっと待ってたのかよ! なっ、なんなんだよ!」
風貌には合わない及び腰で渡邊は声を上げた。こちらが少しでも強くいけば泣かせることも容易そうだ。
「ゲームについて聞きたいことがあるんです」
「はっ、はあ? なに。なんだよ」
「不可解な点が多過ぎるんです。ゲームにしては女の子が妙にリアルだし、それにバトルモード……あれ、なんなんですか」
航大の問いにただただ黙っているだけの渡邊。それはまるで口止めされている子どものようだった。
「あのゲームあなたが作ってるんですよね?」
「…………ああ」
煮え切らない返事だった。渡邊は俯き、落ち着かない様子で体をそわそわさせている。
「じゃあ、あの女の子について詳しく教えて下さい」
「ただのゲームキャラクターだよ」
「ただのゲームキャラクター? あの子が?」
「ああ。もうしつこいな。俺急ぐから」
「行方不明中のアイドル……山本未莉沙にあんなにそっくりなのに?」
山本未莉沙の名前を出すと、渡邊は伏せていた顔を勢いよく上げた。
その顔はひどい有様だった。不安、焦り、恐怖……負の感情を全て詰め込んだような醜さ。誰が見ても疑念を抱く狼狽っぷりに、航大はすでに呆れと諦めを感じていた。
「聞こえませんでした? 山本未莉……」
「うるさい!」
突然の怒号に航大は口をつむぐ。通りすがりの第三者達がこちらを見ながらヒソヒソと何かを話しているが、そんなことなどお構いなしに渡邊は声を荒げた。
「うるさいうるさい! 一体なんなんだよお前! いっ、いきなり現れてストーカーみたいなことして! 俺のゲームにいちいち口出すんじゃねえよド素人がよお!」
渡邊は目を血走らせながら一気に捲し立てた。怒り慣れていないのか、握った拳は興奮でふるふると震えている。
航大は冷ややかな目を意識的に渡邊に向けながらため息を落とす。すると、渡邊はまたはあはあと息を乱しながら口をぱくぱくとさせた。ここまでくると怒りの制御も出来ないのだろう。
「せ、せっ先輩に向かってその態度はないだろ! マジで不愉快だわお前! も、もうお前みたいな奴とは話したくないから今度から町田くん通してくれる?」
「分かりました。じゃあ最後に今までの課金代だけお願いします。二万六千円」
手のひらを渡邊に向けると、渡邊は怒りで顔を真っ赤にさせながらバッグを漁り、財布から有り金を全て取り出した。そしてその金を航大の胸元に強く押し当てる。
「も、もう俺に関わんじゃねーぞ!」
捨て台詞を吐いた渡邊は、そのままそそくさと駅の構内に向かって走り去ってしまった。航大は手の中でぐしゃぐしゃになったお札を見てさらに大きなため息を吐いた。
「六千円しかないじゃん……」
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