異世界転生したけど神様のスマホを駆使して生きていきます

颯来千亜紀

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第1章・旅立ち

10.ブラッディウルフ

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  従魔術。主に魔物に対し、使い手と魔物の契約を結ぶ魔法。主従関係の成立した両者は主と守り手として、行動を共にすることになる。
  より強力な契約として使い魔の契約があり、こちらは文字通りの運命共同体となる。主が死ねば使い魔も死ぬ。両者の感覚や感情は共有され、より強固な力となる。

「さて、じゃあやるか」

『ああ』

  従魔契約をして欲しいと言ってきたのはレイアスの方だ。俺は契約なんてしなくても旅に同行するくらいは許すと言ったが、レイアスの方が譲らなかった。
  こちらに不利益がある訳でもないから断りはしないが、レイアスの方にとってはそれなりの束縛にはなるはず。だが本人は『契約する』の一点張り。
  変なところで強情な奴ってのはどこの世界にもいるらしい。けどそれが変な方向に向かない限りは、別段問題にはならない。
 
  体に力を込め、魔力を集める。スティアから貰った魔力は暖かく、力強い。

「我、星と神の力を携えし者。その天命を以て世界の安寧を願う者なり。我の魔を糧とし、さる黒狼と強固なる絆をここに誓うものとす」

『我、誇り高き黒狼の姫と呼ばれし者。さる天の使いに忠義を尽くし、その刃となることをここに誓うものとす』

「互いの誓いを得、ここに従魔契約を結ぶものとす」

  魔力が集まり、レイアスの首周りには赤い首輪が、俺の手首には赤いリングが現れた。これが従魔契約を証明するものなんだろう。

『これで契約は完了だ。如何なる場所だろうと付き従い、如何なる敵だろうと貴方の盾となり矛となろう』

「ああ。よろしく頼む」

  レイアスの頭を軽く撫でてやる。美しい黒毛は手触りも良く、ずっと触っていたくなる。レイアスもご機嫌そうだ。

「さて、とりあえず村に戻るか。そろそろ日も落ちそうだ」

  日が傾き、森の中も段々と暗くなっていく。備えのない夜はこの世界じゃ危険だろうし、エリューシャさんによれば今日は雨も降る。

  まだ息のある盗賊をぐるぐる巻きに縛り、遺体と戦利品、それとヒナミ草の入った袋をアイテムボックスに入れる。

『分かった。ならば私の背中に乗るといい』

  レイアスが言う。乗ってみたいとは思っていたが、こうも簡単に提案されるとは思わなかった。

「いいのか? そんな簡単に人間を乗せて」

『見ず知らずの人間ならまだしも、人間という種族である前に貴方は我が主だ。このくらいは当然だ』

「はは、そうか」

  人間である前に主人と来たか。少しオーバーな気もするが、ここまで尊敬されていれば悪い気もしない。


ーーーーーーーーーーーーーーー



  さすがは世界を旅する黒狼、村までの道のりはあっという間だった。途中、引き摺られる盗賊が目を覚ましうるさかったのでもう一度スタンガンを与えておいた。

「なあレイアス、お前小さくなれたりしないか?」

『小さく?』

「ああ。さすがにこのまま村に入ったら目立ちすぎる」

  少なくともこの村で注目されるのはあまり好ましくない。それにレイアスは良い奴だが分類的には魔物だ。勘違いして騒ぐ奴もいるかもしれない。この村は魔法の知識も浅いみたいだし、従魔契約を説明しても理解してもらえるか分からない。

『小さく……ならばこれならいいか?』

  レイアスは俺を降ろすと、少し魔力を集め黒い渦のようなものを生み出した。そしてそこに躊躇いもなく入っていったと思うと、そこから美人の女の子が出てきた。

「ふう。人間化の魔法は経験が無かったが、上手くいったようで何よりだ」

  輝く青い目に美しい黒髪、少し尖った牙に特徴的な耳と尻尾。

「レイアス……?」

  いかにも異世界らしい、オオカミ少女がそこに現れた。

「どうかしたか? そんな不思議そうな顔をして」

「いや、なんでも……それならたぶん大丈夫だろ」

  いや大丈夫ではないんだけどな。そりゃ声で雌だってことは分かってたさ。けどこう、突然こんなケモミミっ娘が現れたら誰だって興奮するだろ?
  けどダメだ。レイアスはたぶんおそらくきっと俺を尊敬してくれているし、変な気でも起こしたら何か大切なものを失う気がする。

  必死に煩悩を押し殺しながら、2人でギルドへと歩く。時間は夕飯時だが雨予報が出ているからか、昼間よりはギルド内は空いていた。

「エリューシャさん、ただいま戻りました」

「ユウスケさん! おかえりなさい……って」

  いつもの笑顔で応対……かと思いきや、エリューシャさんはレイアスを見た途端青い顔をして怯え始めた。

「ぶ、ブラッディウルフ……!?」

  ウルフと呼ばれて思い当たるのはレイアスだけ。本人の方を向いてみる。

「ああ、私の種族名だな」

  レイアスも特に何かある訳でもなさそうに言う。

「あの、コイツが何か……?」

「な、何かじゃないですよ……! 一頭で天災級の魔力を持つ魔狼が何でここに……!?」

ーーーそんなに強かったのか、こいつ。

  いや、感心してる場合じゃないな。エリューシャさんの怯えっぷりは尋常じゃないし、そのせいで注目も集まってきてる。何より自体を理解できなくてレイアスまでオロオロし始めてる。

「エリューシャさん大丈夫です。コイツは俺と従魔契約をした相棒ですから」

「従魔契約……? ブラッディウルフと……?」

  またもや気が抜けたような顔。従魔契約ってのはそんなにおかしいものなんだろうか。

「な、何か問題ありました?」

「問題も何も、普通は上位種の魔物とは従魔契約はできません。ましてやブラッディウルフは最高位の魔物なのに……」

  まあ、おそらくはスティアの力を借りた魔法だったからだろう。人間レベルの基準じゃ当てはまらないことにもなる。
  それに、エリューシャさんのこの怯え方なら何とかなると思う。これは何か危害を加えられたとかじゃなくてただ力の強いものを恐れてるって感じだから。

「まあまあ、そこら辺はよく分からないから置いておいて。ほら、エリューシャさんも撫でてみてくださいよコイツのこと」

  エリューシャさんの手を掴み、半ば強引にレイアスの頭と耳元へ。

「レイアス、ちょっと動くなよ」

「分かった」

「まっ、ユウスケさん、私はっ」

  なでりなでり。なでこなでこ。モフモフ。

  相変わらず良い手触りだ。

「んっ……」

  モフモフ。

「んん……」

  モフモフ。

「主、あまり耳ばかり触るのは……」

「あ、悪い悪い」

  手を戻す。エリューシャさんの顔からは、さっきみたいな恐怖は消えていた。

「ね? 怖くないでしょう?」

「は、はい……」

  エリューシャさんは自分の手とレイアスを何度か見たあと、小さく笑った。

「えっと、あなたは良い狼さんなんですね。取り乱してしまってすみません」

  頭を下げたエリューシャに、今度はレイアスがそれを撫でる。

「構わないさ。私たちはそういう種族だ」

「あはは、くすぐったいです」

  うーん、百合百合しい。悪目立ちこそしなくなったが、別の意味で注目されそうだなこりゃ。



  その後、盗賊たちとヒナミ草の換金作業は恙無く進み、俺とレイアスはギルドを後にした。



  
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