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第1章・旅立ち
11.好意
しおりを挟む「……」
「……」
1つの部屋で男女が夜を共にする。それがどういった意味を持つかは、果たして世界共通なのか。
少なくとも慣れていない者同士でのこの気まずさは共通のものだと信じたい。
別に何かやましいことをしたわけでも、これからするわけでもない。ただ、何となく気まずい雰囲気になってしまっているのだ。
レイアスはどうにか誤魔化して他の部屋に泊まってもらっている。この部屋は2階の角部屋だが、レイアスが泊まっているのは3階の反対角の部屋だ。もしも万が一ここで何かが起きてもバレることは無いはず。
「あ、あのさユウスケ」
「お、おう」
「昨日はほんとにありがとね。村とお母さんを助けてくれて」
「ああ、まあ俺だけの力じゃないけどな」
「それでも、ユウスケがそうしようとしてくれたんでしょ? それだけで私は……」
昼間とは打って変わって、お互いに言葉が上手く出てこない。
「私は、ユウスケのことが好き。ユウスケがよければこのままこの村で、私と結婚して欲しい」
嬉しい。ティナが良い人だってのは分かってるし、人からの好意は素直に嬉しい。多少テンションが高かったりはするが、ティナは普通に美人だしスタイルも良く、相手にとって不満は全くない。
けど、俺はティナのことを好きだって胸を張って言えない。愛してるって、一生守るって言える自信がない。そりゃそうだ、恋愛対象として好きだと思っていないんだから。
でも、だからってこのまま断っていいのか?
このまま断ってティナを傷付けて、そのままこの村を出てくなんて……。
「ユウスケ」
「……何だ」
「無理して答えを出そうとしないで。ゆっくり考えてくれればいいから」
そう言ってティナは笑った。無理してるのが丸分かりな笑みだった。
ーーー何やってるんだ、俺は。こんなのハーレム者のクソッタレ主人公以下だ。
「ティナ」
言葉を絞り出す。
「うん」
「ティナの好意は嬉しい。けど、やっぱり結婚は出来ない」
「……うん」
「俺はまだやることがある。そのために世界を旅して、世界を見て回りたい。その後はきっと、またここに戻ってくるから」
曲がりなりにも初めて訪れた村だ。多少なり愛着も湧いている。ウィキの情報通り、この村の居心地は本当に良いものだから。
「だから、その時はまた……」
そこまで言って、ティナに抱き着かれた。勢いのまま、2人でベッドに倒れ込む。
「その時はまた、好きだって言うよ」
「そっか」
心臓の音が聞こえる。いつもより遥かに早いその鼓動は俺のものか、ティナのものか。
体温が伝わる。2人分のそれはいつもよりも暖かく、体の感覚を敏感にしていく。
「ねえ、ユウスケ」
ティナの柔らかい肌が全身に触れている。服越しでも確かに伝わる。
「キスしても……いい?」
「……」
沈黙はイェスと受け取られたらしい。ティナの顔がゆっくりと近付き、俺は目を閉じた。
やがて唇に柔らかいものが触れる。ファーストキスはなんとやら、なんて歌ってたのは何処の誰だったか。俺にとって初めてのそれは甘く、暖かく、どこか寂しさを感じさせた。
ティナの吐息が聞こえる。やがて唇は離れ、ティナは満足そうな笑みを浮かべた。
「ありがとう、ユウスケ」
「……ああ」
「おやすみ」
扉が閉まる。部屋で1人、静かな時間が過ぎていく。
気がついた時には、俺は眠りに着いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「……またか」
俺の顔を覗き込む2人を見て、不満げに呟く。
「何じゃその顔」
「うるせえ、何度も呼び出しやがって。今度は何の用だ?」
起き上がりついでに問う。こう何度も呼び出されては俺の睡眠に影響が出る。いや出ないかもしれないが。
「冷たいのう……主が悩んでいるようじゃから話を聞きに来たというに」
「いやそれだったらスティアの方がいい」
「あはは、だってよ山田様」
「はっ、ジジィの知恵は役に立たないと侮るでないぞ! ワシだって若い頃は……」
「それで、あの子のことはどう思ってるの?」
爺さんの立場の低さについ笑ってしまった。さっきまであんなに悩んでいたというのに、さすがは神様だ。
「ワシの扱い酷いのう……」
「ティナは……悪い奴じゃないのは分かってるよ。けど……好きってわけでもない」
分からない。人に恋をするって感覚が、俺には分からない。
「まあ、そんなに深く考える必要もあるまい」
「いや結構悩んでんだけど……」
「お主の好きなようにすればよい。自分の気持ちに整理がつかないのなら出来るようになるまで待てばよいのじゃよ」
「誰かを好きになるなんてその人にとってのキッカケが無きゃ分からないものよ。ユウスケくんにはそれがまだ訪れてないだけ。この世界の色んなものを見て、色んな人に会って、いつか大切な人を見つければいいのよ」
「爺さん、スティア……」
この人たちは、本当に……。
「ありがとう。少しは落ち着いたよ」
「なに、お主が迷ってもワシらはいつでもここにおる。存分に頼ればよい」
「そうよ。私たちはいつでもあなたの味方って言ったでしょ?」
「そうだな。ほんとに頼りにしてるよ」
2人を見てると安心する。自分を信じてくれている人がいるって思えるだけでまた頑張ろうって思える。普通は持ってる感情が、俺には欠落してたらしい。こんな感覚、生まれて初めてだ。
「それじゃ、またな」
「うむ。またの」
「またね」
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