異世界転生したけど神様のスマホを駆使して生きていきます

颯来千亜紀

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第2章・新たな拠点

22.エルフ

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「えっと、見ての通りですが私はエルフです。リアって言います」

「俺はユウスケ。この近くのセイレンって街で冒険者をやってる。コイツは俺の従魔でブラッディウルフのレイアス」

『レイアスだ。よろしくな、リア』

  まあその、あれだ。『説明してもらおうか(キリッ)』ってカッコよく決めたはいいけどあの2人は何も喋らなかったからな。しょうがないから2人は縛ったままレイアスに引き摺らせて、今はこのエルフの女の子から話を聞いてるんだ。

「私はエルフの森で生活する一族の1人です。昨日もいつも通り森の中の川でお姉ちゃんと遊んでいたんですけど、うっかり川の下流まで降りてしまって。そこで人間さん達に縛られて、そのまま……」

  エルフの森、か。なんともテンプレ通りの設定だな。どっかのファンタジーアニメで聞いたのは『森と共に生きる種族』とかだったっけ。

「リア達は……エルフと人間は仲が悪いのか? 俺は人間しかいない田舎に住んでいたから分からなくてな」

「良くはない、と思います。森のみんなは人間さんを嫌ってますし、人間さんが森に迷い込んだら捕らえて殺してしまう決まりもあるくらいですから」

『それは物騒だな……』

  レイアスの言う通りだ。追い返すどころか殺すなんて、何も無い状態での対応じゃない。そうなる原因があるはず。
  セイレンの街でエルフを見かけない理由もそこだろう。人間とエルフとの間に何があったかは知らないが、リアの話を聞く限りは他の種族と違って対立関係にあるように思える。

「その森っていうのは、どこにあるか教えて貰えるか?」

  話しながら、スマホを取り出しyamazonを開く。ひとまずリアは俺たちの家に連れていくが、このまま街を歩かせるのはまずい。

「えっと……」

  言いあぐねている。今まさに対立していると聞いたばかりだし、聞き出せないのは予想の範囲内だ。
  yamazonで『パーカー』を検索する。白い無地のものをタップし、そのままアイテムボックスからそれを取り出す。

「言えないんなら言わなくてもいい。ほら、とりあえずこれ着とけ」

「これは……」

「いくら人間と対立してるからってあのまま森に置いては行けないしな。一旦俺たちの家に帰ろう。もうすぐ日も暮れる」

「わ、分かりました。ありがとうございます」

  不慣れながらもリアはパーカーに袖を通し、深めにフードを被った。性癖と言うほどのものではないが、俺はパーカーはだぼっとしている方が好きなんだ。

  街の手前でレイアスから降り、そのまま男たちを衛兵に引き渡す。

「冒険者のユウスケです。コイツら森で捕まえたんですけど、人攫いみたいで」

「そうですか。分かりました、各所に問い合わせてコイツらの詳細を調べます。ご協力感謝します」

  リアがいたことは黙っておく。証拠人として連れていかれるかもしれないし、そこでエルフだからって騒がれても面倒だ。
  騒がしい街中を歩いていく。

「……」

「気になるものでもあったか?」

  キョロキョロとあちらこちらを見回すリアに声をかける。正直なところあまり目立つようなことはして欲しくないからな。

「この街には……色んな種族がいるんですね。みんな、楽しそうに仲良しで……」

「そう、だな……」

  エルフだけの森で育ってきたであろうリアの目には、この光景がどう写っているのだろうか。少し沈んだその声色には、どんな気持ちが込められているのだろうか。

「なに、深く考えることはないさ」

  レイアスが口を開いた。

「私とて人間に忌み嫌われている魔物の一種だ。こんな風に人間の住む街を歩くとは想像もしていなかった」

  レイアスがリアの手を取り、そのまま反対の手で俺の手を取る。

「けれどな、リア。世界には居るんだよ。常識なんてものを蹴飛ばして、平然と信じられないことをするような者が」

  これは……俺の事だよな。

「種族なんて関係なく、共に生きていこうとする者が。そんな変わり者が、いつか世界をも変えると私は信じている」

  大袈裟だな。すごいプレッシャーかかるんだが。

「そんな人が……?」

  見つめるリアに、レイアスは笑いながら答える。

「私の主だよ。ブラッディウルフである私を助け、森を助け、今度はエルフのリアを助けている。こんな物好きは、私は見たことがない」

  くっくっ、とレイアスが笑う。リアの目線がこちらに移る。


ーーーコノヤロウ、散々な説明しやがって。


「故郷でもよく変人とは言われてたよ。けど戦う必要も無いのに戦うなんて俺には理解出来ないし、こっちに非があるなら頭を下げる」

  物事には必ず理由がある。そうなるに至った由来がある。

「こんな考えは夢物語だってことも分かってる。けどな、せめてこの手の届く範囲のものくらいは、この力で守ってやりたいと思うんだ」

  理由もなくそうなっているのなら、それを続ける必要もない。固定観念を捨て去らなければ、人は前へは進めないんだ。

  リアは口を開けたまま真っ直ぐにこちらを見ている。

「リアも変な奴って思うだろ?」

「そんなことはないです!」

  ハッとしたリアは、大きな声で否定した。

「ユウスケさんみたいな人は、私たちの森にもいませんでした。けど、ユウスケさんみたいな人たちとなら、エルフのみんなも……」

「さて、話はここまでだ」

  交差点に差し掛かる。

「レイアス、俺はギルドに行って換金してくるから、このままリアを連れて先に帰っててくれ」

「分かった」

  ギルドにリアを連れて行くわけにはいかない。冒険者たちならばエルフの希少価値も今の関係も知っているだろうし、トラブルになるのは目に見えているからだ。レイアスを連れているだけでも大半に白い目に見られているのだからそのくらいの予想はつく。
  賑わうギルドに入る。酒と料理、そして冒険者たちの笑顔で満ちた空間は相変わらず、俺からすれば現実離れした光景に見える。


ーーーいつか、種族とか魔物とか関係なくここで騒げればな。


  セイレンの街にも異種族たちは暮らしている。けれどリアたちエルフのように対立関係にある種族もいれば、レイアスのように理解をされずに敵と見なされる魔物たちもいる。
  自分たちの身を守る上で必要なことなのは分かる。しかし、だからといってそれで相手の生活を、幸福を奪っていいとは思えない。


ーーー俺がこんなことを考えるなんて、昔じゃ有り得なかっただろうに。


  この世界に来て、初めて本当の優しさを知った。懸命に日々を生きる人の努力を知った。直接的な、人間の暗い部分を知った。苦労を積み重ねて、それでもなお透き通った心で生き抜く者を知った。
  そんなものを見れば感化もされる。俺も俺を助けてくれる人たちのように、格好良く生きていきたいと思う。物語の英雄になれなくても、アニメの主人公になれなくても。手が届く範囲の大切な人たちを守って、それでいつの日か少しでも世界を動かせたら。

  ここに来た意味を、少しは感じられるだろう。
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