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第3章・再統一

27.書き換え

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「あの時に組まれたパーティは、勇者の勇次郎と賢者の私。そして戦士の獣人、武闘家のダークエルフの4人でした」

  フィリアさんはじいちゃんのことを、俺の知らない部分まで事細かに話してくれた。

「私達は多くの場所を旅し、多くの者達を救ってきました。魔族も例外ではなく、最後には魔王と私たちは良き友人となったのです」

  長老が話してくれた昔話の中では、魔王は密かに勇者を慕っていたと言われていた。

「ですが勇次郎がいなくなってから世界は元通りになりました。多くのエルフが人間に攫われ、魔族は攻撃を受け、各種族の関係は悪化の一途を辿ったのです」

「……」

  問題なのはこの関係悪化の原因が人間側にあることだ。じいちゃんが残したツテを頼っていけば異種族たちの理解は得られるかもしれないが、最初に盟約を破った人間たちをどうにかしなければ結果は変わらない。それどころかこちらから願い出るような形になれば、人間側はますます調子に乗る。
  秀でた点は無いにしても、人間はこの世界で最も数の多い種族だ。正確な数や生態が不明な魔族を除いて、だが、それでも数の有利は大きい。人間以外の他種族が手を組めば人間たちも対応を変えるかもしれないが、それは友好じゃなく脅しに近い。

  まずは異種族たちの元を尋ね、友好を結ぶこと。これが第一優先なのは変わりない。ただその次を考えておく必要はある。ゲームをしているわけじゃないんだ、ひとつが済んでから次の手を考えるのでは遅すぎる。

「祐介さん?」

「ああ、はい?」

「ひとまず私たちは出来る限りの協力をしますが、これからどうするかは貴方が決めるのですよ。当然ながら私達エルフの知恵をもって共に考えますが、決めるのはあなたです」

「フィリアさん……」

「ああもう、『さん』なんて要りません。私たちは友なんですから」

  フィリアさんは……フィリアは、そう言って柔らかく笑った。


ーーーああ、じいちゃんはこの笑顔が好きだったのか……。


  そんな風に思った。だって俺からも綺麗に見えたから。

「フィリア、まずはじいちゃんとパーティを組んでた人たちに会いに行って、他種族の協力を求めよう。人間側にどうやってアプローチしていくかは、フィリアたちも知恵を貸してほしい」

「分かりました。道案内とここの皆への説明は私がしましょう」

「ありがとう」

  やることはもうひとつある。まずエルフたちと人間たちの友好関係を築くことだ。
  異種族たちを纏めてからでは、やはりどうしても友好は大掛かりなものになるし一般人は取っ付き難い。だが正式に友好が結ばれる前からある程度の関係を持ち、お互いを理解していれば打ち解けるまでの期間がぐっと短くなる。

  適切なのはエンハ村だ。あの村なら異種族に対する差別もないだろうし、何よりあそこの村人たちは本当に穏やかで優しい人ばかりだから。
 まずはエンハ村と、細々なもので構わないから物流のルートを作ってもらう。その中で少しずつお互いを知っていけば、人間とエルフの関係も少しずつ前に進めるはずだ。

  フィザさんに言ったらひっくり返りそうだが、ここまで来たら引けないし引く気もない。まだ約束は果たせていないが、協力してもらう他ない。

「祐介、長老を呼んできてもらえますか?」

  ひとつ気になったのは、フィリアさんの外見だ。あの長老が生まれる前にじいちゃんはこっちに来て戦っている。エルフもちゃんと歳をとる。
  けどフィリアさんはじいちゃんと出会った時のままに見える。体も弱っているように見える。

「フィリア……お前もしかして、呪いでも掛けられてるのか?」

  テンプレ通りなら、これで合ってるはず。『死なない』んじゃなくて『死ねない』。効果は変わらなくても、目的がないまま生き続けるのは精神に相当な負荷が掛かる。不老不死ならば肉体が弱ることも無いはずだが、病は気からとも言うしこのまま旅に連れていくには些か不安が大きい。

「なぜそのことを……?」

「勘だ」

  前の世界でそういう展開があったから、なんて話しても伝わるまい。そういえばじいちゃんは前の世界の話をしたのかな。

  そんなことを考えながら魔力を集める。イメージは『ステータスの書き換え』だ。必要な魔力量が分からないから気持ち多めに。
  ステータス表示がある以上、病気や状態異常系もそこに表示されるのが普通だ。そしてそれをいじれる魔法が主人公特権なのも普通じゃないけど普通。

「それを外す。ちょっと失礼するぞ」

「外すって、そんなこと……」

  戸惑うフィリアの手を、レイアスがそっと握る。

「大丈夫だ。主を信用してくれ」

  心の中でレイアスに礼を言う。

「ステータス、オープン」

  魔力を込めた右手をフィリアに向け、拡散させるように手を開く。
  『ブゥン』という音と共にフィリアのステータスが表示され、フィリアは意識を失いレイアスにもたれかかった。




フィリア・ノーツ


レベル  120
感情  無し
健康状態  ・衰弱  ・微かな希望  ・不老の呪い

物理攻撃  13
魔法攻撃  62
物理防御  42
魔法防御  61
体力  25
精神力  51
魔力   81

スキル
勇者の意志を継ぐ者 レベル4
森の加護  レベル5
エルフの王  レベル4
魔力管理  レベル3
風の力  レベル4





「不老の呪いか……」

  予想と違って不死は含まれていなかった。
  死なない訳じゃないが老いることはない。なんとも奇妙な状態だが、フィリアのストレスは相当なものだったはずだ。
  勇者の恋人として多くの者に狙われ、呪いをかけられ、しかしエルフの姫として死ぬことも許されない。そりゃあ精神的に参っても仕方がないだろう。むしろ壊れずに耐えていることを褒めるべきだ。

  この呪いを取り除けば、フィリアは普通のエルフに戻る。それを良しとしない者もいるだろうが、ここまで衰弱したフィリアを放っておけるはずもない。そんなことをしたら俺がじいちゃんに呪われる、間違いない。


ーーーとりあえず、衰弱と不老の呪いは消去だな。


  衰弱を消せば健康状態は良好に戻るはず。戻らなくても、無理やり書き換えてしまえばいい。

  『衰弱』の文字と『不老の呪い』の文字を、シールを剥がすようにペリペリと剥がしていく。
  それを一度ギュッと握って黒い塊にした後、それを細い糸のように解いていくイメージでフィリアのステータスを書き換えていく。

  『衰弱』を『良好』に、『不老の呪い』を……そうだな、『不滅の意志』にでもしておこう。
  この黒い塊は使い切らなきゃならんらしい。ステータス書き換えは呪いをかけるとか解呪とかとは根本的に違う魔法みたいだ。そこにあるものでそこにあるものを何とかする、って言えば伝わるかな。

「これでよしっと……」

  フィリアのステータスをぐっと右手で押し纏めるイメージで、魔力を込める。ステータスウィンドウは消え、フィリアが目を覚ます。

「ん……」

「おはよ。体の調子はどうだ?」

「体……辛くない……?」

「良かった、上手くいったみたいだ」

  いつも通りのぶっつけ本番だったが、書き換えは成功しているようだ。たかがステータスの文字でここまで体調が変わるのは妙な気分だが、今は助かった。

「本当に、あの呪いを解いたの……?」

「解いたってよりは書き換えだけどな。何にせよあの呪いはもう消えたから安心してくれ」

「すごい……祐介、あなたは一体……」

  感心するフィリアの手を取り、立ち上がらせる。

「知ってるだろ? 俺は月下祐介。じいちゃんの孫で、じいちゃんが大切にしてた物を取り戻しに来たんだ」

  レイアスも立ち上がり、フィリアの手を取った。

「行こうフィリア。じいちゃんに、皆が仲良く生きる世界を見せに」
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