異世界転生したけど神様のスマホを駆使して生きていきます

颯来千亜紀

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第3章・再統一

28.それでも

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「よし、着いたな」

『ああ』

  フィリアの呪いを書き換えた後、俺とレイアスはエンハ村に戻った。フィリアはエルフたちに事情を説明している最中だ。
  早足でギルドに向かう。まだこの村にフィザさんがいてくれれば助かるが、そうじゃなかった場合はエリューシャさんに呼んでもらう必要がある。


ーーー焦る必要もないんだろうけど、何でだろうな。


  のんびりしている暇など無い。何故かは分からないが、やたらとそんな感覚に襲われる。野生の勘なんてのが俺にあるはずもないが、何か良くないことでも起ころうとしてるのだろうか。

  日が傾き始めたくらいの時間のギルドは、人もまばらな穏やかな様子を見せていた。所々で呑んだくれている村人たちの間を通り、ひとつしかないカウンターへ。

「エリューシャさん、こんにちは」

「数日ぶりだな」

  俺とレイアスが声を掛けると、書類から顔を上げたエリューシャさんは目を丸くした。

「ユウスケさん!? レイアスさんも!」

  相変わらず見ていて楽しい人だ。

「こんなに早く戻られるなんて。セイレンの街で何か問題とかありましたか……?」

  エリューシャさんは少し不安そうに言う。

「いえ、そういうわけじゃないんです。フィザさんは今、この村にいますか?」

「はい、いますよ。この村の魔力の変化についての報告に追われているみたいです」

「そ、そうですか」

  若干の罪悪感。こんな初期からいくつも面倒事を持ち掛けるのは申し訳ないが、この辺りではフィザさんよりも顔が広く頼りになる人はいないから、頑張ってもらうしかない。

「ちょっと話したいことがあって。会えますか?」

「分かりました、呼んできますね!」

  パタパタとエリューシャさんが奥に引っ込んでいく。それと同時に、レイアスが俺の手を握った。

「レイアス?」

  不安そうな顔だ。普段は見せない、珍しい顔。

「主、大丈夫か……?」

「え?」

  特に心当たりはない。他種族たちと人間の友好関係を築くっていう目標は確固たるものだし、まだ始まったばかりだが順調だ。

「その、フィリアたちはあなたが勇者の孫だから協力すると言うのだろう?」

「まあ、そうだな」

  俺がじいちゃんの孫じゃなかったら、説得にはかなりの時間がかかっていただろう。下手をすれば協力を得られなかったかもしれない。こうもすんなりと事が運んでいるのは、間違いなくじいちゃんの功績だ。

「私は、主だから……誰かの孫とかじゃなく、主が助けてくれたから、あなたを……」

  胸がギュッと苦しくなる。これはレイアスの感情だ。

「ありがとな、心配してくれて」

  レイアスの頭を撫でる。胸の苦しさが薄まる。

  フィリアと同じだ。俺が勇者の孫だと分かれば利用しようとする奴らは必ず現れるし、これから他種族の協力を得ていくのだから隠し通せるはずもない。他種族の代表たちも、俺を通してじいちゃんの後ろ姿を見ているだけなのかもしれない。俺をじゃなく、かつて憧れた英雄の影を。
  だけど。


ーーー俺は、それでもいいんだ。


  じいちゃんの孫って覚えられ方でも、じいちゃんを思い出すための鍵でもいい。それで皆が争わずに生きていけるんだったら、それでいい。
  だって、俺にはお前がいるから。

「お前がいてくれればいいんだ」

  レイアスが隣にいてくれればいい。
  いつもの自信満々の笑顔を、すやすやと気持ち良さそうに眠る寝顔を、美味いものを食べた時に浮かべる興奮した顔を、俺に見せてくれれば。

  たった1人、ずっと俺の隣で笑ってくれる人がいれば、俺はそれでいい。

「主……」

  レイアスが俺の腕の中に入ってくる。俺よりもほんの少し高いレイアスの額が、俺の額とコツンとあたる。

「この気持ちを何と呼ぶのか、私には分からないよ」

「気持ち?」

「ああ」

  合わせた額から、レイアスの気持ちが流れ込んでくるような感覚。暖かく、切なく、愛おしい。まるで川の流れの如く、俺の中へ。まるで太陽の光の如く、俺を満たしていく。

「これまで生きてきてこんな……こんな不思議な気持ち、感じたことがない。あなたが愛おしくて、堪らないんだ……」

  こんな場所でこんなことは不適切かもしれないが、呑んだくれが数人いるだけの比較的静かなこの空間には、俺たちのことを気にかける奴も邪魔する奴もいなかった。

  同じ感情が混ざり合って、互いの心を満たしていく。

「俺も……お前が愛おしいよ、レイアス」

  リアルでこんなことを言うなんて痛いにも程があるだろうが、まあ異世界なら許されるだろう。こんな気持ち、きっと俺とレイアスにしか分からない。

「ユウスケさーん!」

「!」

  エリューシャさんの声に、ハッとなってレイアスを引き剥がす。


ーーーヤバい、あのままだったら何してたか……。


  もう少しエリューシャさんが来るのが遅かったら、何をしていたか分かったもんじゃない。さっきのは従魔契約による感情の共鳴とでもいうべきか。
  なんにせよ、時場所場合を弁えなければ。

「あっ……」

  レイアスが名残惜しそうな声を出す。それを見て何とも言えない罪悪感に駆られながらも、俺はエリューシャさんについて行った。

「フィザさんはこの前と同じ部屋にいますので」

「ありがとうございます」

「いえいえ! それではまた!」

  手を振るエリューシャさんを見て小さく笑ってから、不服そうな顔をするレイアスの頭を撫でる。

「帰ったら続きするからさ」

「約束だぞ……?」

「あ、ああ」

  我ながら爆弾発言をした気もするが、まあそれはそれだ。その時になってから考えればいい。

「フィザさん、ユウスケです」

  部屋の前に立ち、ドアを軽く叩く。すると、中から少し疲れたような声が返事をした。

「おう、入っていいぞ」

「失礼します」

  部屋に入ると、げっそりした顔でたくさんの書類に囲まれたフィザさんが椅子にもたれかかっていた。よくよく見ると、その書類は各方面から例の村の魔法についての問い合わせやら報告やらのものだった。

「あ~、えっと……」

「お~う、見ての通り仕事には困ってねえぞ~」

「なんか本当にすみません」

  まるで課題に追われる夏休み最後の高校生だ。気持ちはよく分かる。

「いや、お前さんのお陰でこの村の収穫量やら何やらも急に伸びててな。村人は大喜びだよ」

「そうなんですか。それは良かった……」

  スティアの力を借りた魔法とはいえ、効果に関しては俺も半信半疑な部分があった。それが実際に村のためになっていると分かって、安堵した。
  怪我人や病人が回復するといった効果は発揮されていたみたいだが、目的は村の魔力を回復させることだったしそれが出来ていなければティナとの約束も果てせていないことになる。感覚的なものでしか手応えはなかったが、効果があったようで何よりだ。

「まあとりあえず座れ。今日はどうしたんだ?」

「仕事熱心なフィザさんにもうひとつ、とっておきの仕事を……」

「……」

「すみません急用なんですお願いします」

  とてつもない怨念を込めた目で見られ、慌てて言葉を変える。もちろん冗談めいた一瞬のものだったが、それでもフィザさんの苦労は十分伝わった。

「で、今度は何だ……?」

「実は……」

  俺はセイレンの街であったこと、そしてエルフの森であったことを説明した。


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感想 3

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みんなの感想(3件)

型抜き
2019.03.09 型抜き

読ませて頂いてます。
もう、主人公の人の良さに乾杯したい...
そしてじいちゃんがこの世界に居たという新事実!そこら辺の下手なファンタジー小説より良いですね!

2019.03.10 颯来千亜紀

感想ありがとうございます!
大変なお褒めの言葉、これ以上ないほど光栄です!
主人公くん、これからも少しずつ成長していきます。祖父が残したもの、そして祖父が残せなかったもの。それぞれを拾い集め、この世界をどう導くのか。これからもお楽しみに!

解除
mentuyu
2019.03.07 mentuyu

面白いし、結構ゆったりしていて好き
これから主人公がどう生きていくのか
楽しみ

2019.03.07 颯来千亜紀

感想ありがとうございます!
これからもゆったりほのぼの書いていきますのでよろしくお願い致します!

解除
とめきち
2019.03.07 とめきち

うん、おもしろいね。
先が気になるわ。
ただ、童貞くんはどうなるの?
めんどくさい童貞臭がぷんぷんするんですけど。
うじゃうじゃ悩み続けるのは、話の進行上じゃまになりそう。
どうするどうする?

2019.03.07 颯来千亜紀

感想ありがとうございます!
童貞くん、出来る限り現代児特有の1人で抱え込んでごちゃごちゃ考える姿を表現したいと思っております。
話の進行を妨げない程度に、なおかつ悩み悩む姿を、またそこから成長していく姿を書き……書けたら……書きたいな。
書きたいです! 今後ともご愛読お願い致します!

解除

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