せっかく異世界転生したのに弱すぎるんですが!

神木おちば

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第1話 転生の日

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 僕は、天才と呼ばれるような人ではなかった。
 周りの人よりも努力をし続けた。ただそれだけの凡人だった。

 けど、そんな凡人は、周りの人から見たら天才のように見えたのだろう。
 周りの人は僕のことを過剰評価し、褒めちぎった。そしてそれは、僕の頑張りを一番近くで見ていたはずの両親も、例外ではなかった。

 そうして、自分の能力を正しく評価できず、驕り高ぶった僕が完成した。

 でも、社会はそんな僕を受け入れてはくれなかった。
 いくら賢かったとしても、仕事においてはあまり役に立たなかった。
 僕は、有能な無能だった。

 そうして、僕は社会に馴染むことができず、家に引きこもる生活になった。
 両親はそんな僕を見て、絶望した。おそらく、僕がまだ小さいときに抱いていた希望が崩れ去ったのだろう。信じられないといった様子だったと思う。
 さらに、僕は社会で馴染めなかったことを周りの人のせいにし、当たり散らかした。

 そして先日、ついに両親がそんな生活に耐えかねて、自殺した。
 そして今日、僕もそんな自分に嫌気がさし、自殺することにした。

 薄れゆく意識の中、僕は静かに、過去の行いを懺悔していた。でも、後悔したところでもう遅い。
 せめて、来世があるのなら、次は挫折せず、自分の生きるままに生きてみたい。

 それを最後に、僕は気を失った。

 * * *

 次に目を覚ますと、そこは知らない草原の景色だった。
 澄んだ風が吹き、雲一つない鮮やかな青い空が頭上に広がっていた。
 さっきまでいたはずの、薄暗い澱んだ部屋とは違って。

 多分...いや、ほぼ確実に僕は転生した。

 転生したということは、魔法とかが使えるってことなのではないだろうか。
 こういう時は、ステータスを開けば大体能力は見られるはずだ。

 このときの僕は、あまりの嬉しさに舞い上がってしまい、周りを見れていなかった。
 気づいた時には、やつは背後にいた。

 慌てて振り向くと、そこには、まるでクマのような立ち姿でたたずむ怪獣がいた。
 黒い見た目、前世の動物では例えがたい歪んだ体型、鋭く飛び出た爪、そして涎を垂らし、全身がヘドロのような粘性の液体で覆われている。
 その怪獣は見定めるように、舐め回すように、こちらを凝視している。

 感覚でわかる。あれに挑んだら、確実に命を狩られる。
 距離はそこまで近くない。全力で走り出せば逃げられるかもしれない。

 僕は無我夢中で走り出した。行く先も捉えぬままに。
 怪獣も獲物を逃がすまいと、必死に追いかけてくる。
 足の速さは怪獣の方が少しばかり早い。
 このままでは、いずれ追いつかれて殺される。

 草を乱暴に踏み倒し、もつれる足を必死に持ち上げ、走り続ける。
 息は絶え絶えで、心臓は今にも張り裂けそうなほど痛んでいる。
 もう止まりたい。休憩したい。

 しかし、止まれば死ぬ。せっかくのもう一度のチャンスをこんなもので棒に振っていいのかと自分に問いかける。
 いや、今の僕はこんなところで立ち止まる人間ではない。

 一方で、怪物は巨体を引きずりながら必死にこちらを捕捉し、迫ってきている。
 ヘドロを投げつけ、足をすくうようなこともしている。そのいくつかは僕の服にくっついている。

 そうして数十分の時間が過ぎた。もう体力は底をつき、血反吐が出かかっていた。
 もう、走り続けることなどできなかった。いや、もう走ってなんかいなかった。疲れ切り、ほとんど歩いてるような姿だった。

 後ろを振り返ると、遠くに黒い影がじっと佇んでいるのが見えた。
 多分、縄張りを抜けたのだろう。
 僕は膝から地面に崩れ落ちた。全身が鉛のように重かった。

 ...助かったのか?

 そう思った瞬間、今まで感じていなかった痛みが全身を襲った。
 焼けるような痛みを放つ肺、そして口からは鉄の味がした。足もずきずきと痛む。
 でも、そんな痛みが、
 「生きている」
 ということを教えてくれていた。


 ひと休みした後、改めて状況を整理してみることにした。
 転生したことは分かったが、ステータスや持ち物までは見られていなかったな、と。

 ステータスから見ることにしよう。

 【名前】???
 【種族】人間
 【性別】男
 【年齢】10歳
 【状態】疲労
 【レベル】1
 【生命力】76/76
 【体力】10/68
 【魔力】50/50
 【筋力】28
 【機敏】36
 【器用】17
 【運】62
 【スキル】『基礎運動能力レベル:1』
 【特殊能力】『言語理解』『獲得経験値補正:1.1倍』『魔力値補正:1.2倍』
 【加護】なし

 ...この世界の標準がわからないから評価しずらいが、転生者にしては低すぎるステータスなんじゃないか?。
 転生したのに、ろくな特殊能力も加護もないのが気になる。一応、僕転生者なんだけど。
 こういうのって、大体転生者の特典でチートみたいな能力が授けられるって展開じゃないのか?

 まぁ、文句を言ってもどうしようもないから持ち物でも見てみよう。
 服は、決して丈夫で品質のいいものとは言えない作りだが、とりあえず着る分には十分な感じだ。
 ...ただ、さっき付着したヘドロを除けばだが。
 それとは別に、小さな紙切れがポケットに入っていた。どうやら、地図のようだ。
 簡潔に山や川、街の場所などが記されている。これを頼りに町まで向かえということだろう。

 周りの山々や、森の配置、遠くに見える川の流れなどの地形と地図を頑張って照らし合わせ、なんとか今の現在地を推測する。
 どうやら、この山を越えると町があるらしい...
 山を越える?この疲れ切った体に、そんな余力が残っていると思うのか!?
 
 と、誰もいないのに怒ったところで意味はない。
 日没までには人のいそうなところまでは頑張って進みたい...
 そう考え、鉛のような足を、一歩前に踏み出した。 

 しばらく歩いて(歩くというより、四つん這いになって足を引きずって進むような、情けない姿がほとんどだったが)、街道らしきものが見えてきた。
 しかし、10あった体力は、歩きとはいえかなり消耗してしまい、もう3になっていた。
 さらに、日はもう傾き45°ぐらいに来ており、空は赤色に染まりかけていた。
 けど、さっきまでいた地点から町までの半分ぐらいしかまだ進めていない。しかも、ここからは山を横断しなきゃいけない。峡谷にある街道を進むだけだからまだ楽な方だが、やはり、体力が少ないことに合わせて、距離も遠く、たどり着ける気がしない。
 
 それから数分、街道には来ることができた。もう夕暮れの時間になっており、空は真っ赤に染まっている。
 そして、街道に差し掛かる前に気づいたことだが、日が落ちるにつれ、馬車の往来があわただしくなってきている。日没が近いから、急いでる人が多いんだろう。
 馬車の地面をはじく音や、かすかに聞こえる人の話し声を聞いて、少しだけ心が軽くなった。思い返してば、この世界で初めて人の声を聞いたような気がする。人の声がこんなに安心するものだったとは今までは思いもしなかった。
 あぁ、誰か心の優しい人が乗せて行ったりしてくれればなぁ、、

 行き交う馬車の音も少なくなってきて、心細くなってきたころ、一つの馬車がそばで動きを止めた。
 いや、偶然だろう。狙ってこんな見ず知らずの僕を助ける人なんていない。
 仮に僕に話しかけてきても、それは多分良からぬことだろう。どちらにせよ救いは期待できない。
 話しかけられたら自然に応答するぐらいがいいだろう。

 「おい、そこの坊ちゃん、どうしてそんな格好で歩いてるんだ?あまりにも見ててみっともないぞ。」

 「体力が切れてしまって...ゴフッ」

 「血まで吐いているじゃないか!?ほれ、体力薬一本やるから、立てるか?」

 「えぇ、ありがとうございます。」

 「もう辺りは暗いから、気をつけて帰るんだぞ」
 
 「はい、ありがとうございました」

 願ってもいないことだったが、通りすがりの人に偶然、体力薬をもらうことができた。おかげで、重いうえに全く動かなかった足が少し回復し、痛んでいた心臓もマシになった。さらに、底をついていた体力は30まで回復し、ようやく歩けるようになった。この調子なら町まで余裕で行けそうだ。

 次第に街の明るさが見え始め、緊張しきっていた心がほぐれた。そしてこの世界で生き抜くという覚悟をした。
 新しい生活への期待や不安なども考えられるぐらい、余裕ができた。

 そうして、僕はこの世界で初めて、多くの人が集まる場所に来た。
 聞こえてくるにぎやかな声、人の足音、街灯に照らされている町並み、そのすべてが今の僕の希望になっていた。







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