へやにひとりで

とりあえず

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へやにひとりで

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あなたのいなくなった部屋に一人きりで泣いた。それから、普段は飲まないような、苦いストレートティーを口にした。今なら心地よく感じるだろうと期待した紅茶の苦みが、私の神経を刺激する。なんだ、苦いじゃないか。隣にあなたがいたら、そう言って笑い飛ばすのに。思い描いていたあなたとの人生は、ほんの些細なすれ違いの連続で、白紙になってしまった。どこで、何を間違えたのだろう。思い当たる節は数えきれないほどあって、思い出す度に苦しくなるようなものばかりだ。くだらない。全部くだらない。私への思いはそんなものだったのか。あの日私にくれた愛は、全て嘘だったのか。だったら早く言っておいてくれよ。お前なんか嫌いだって、言っておいてくれよ。そうしたら、私もあなたを嫌いになれたのに。これじゃあ私がばかみたいだ。あの時。あなたが私に、別れを切り出したとき、あなたが一瞬悲しそうに笑ったから、私のなかのあなたへの思いがあふれ出して、けれどそれを伝えられるほど私は大人じゃなかったから、あなたの提案を受け入れるしかなかった。こんなに、あなたが好きだなんて、思っていなかった。さようなら。どうか、あなたの頭の中に、私を裏切った後悔が残り続けますように。



君のいない病室に、一人きりで泣いた。悲しいときは、ブラックコーヒーを飲むと決めているのだが、カフェインはどうやらダメみたいで、飲むことはできない。ずっとやめていたたばこの味がなぜかたまらなく恋しい。
実は、君に、ずっと言えなかったことがあった。もしも言ってしまえば、きっと、君は僕を忘れられなくなってしまうだろうから。こんなにも、傲慢な僕を、ほんとうに君は、精一杯愛してくれていたから、だから、言えなかった。と、いうのは建前かもしれないね。本当は、ただ君にかっこ悪い姿を見せたくなかっただけなんだ。どんどん弱っていく僕を、君にだけは見られたくなかった。男のエゴだよ。こんなこと君が知ったら、君はなんというのかな。くだらないって、笑い飛ばすのかな。笑ってくれ。笑って、馬鹿な奴だって言ってくれ。そうして、僕のことなんてすべて忘れて、幸せに暮らしてくれ。頼むよ。


病室に、ひとりで、なにか言っている男を、部屋の外から見ている者たちがいた。一人は白衣を着ており、もう一人はその助手のようである。
「先生、彼の病状はどうですか。」
「はっきり言ってよくないよ。この精神病院に来てしばらくたつが、一向に良くならない。彼の中には常に二つの人格が存在している。どうやら、その二つの人格は恋人同士のようだが。いや、いまは違うのか。」


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