18 / 26
18 同伴者
しおりを挟む
「え、もう始まってるの?」
慈善パーティーの会場へと向かう車内で、すずかは気掛かりそうな顔をして小町を見やった。彼が大体の流れを改めて説明してくれて、その中で既に開始時間を過ぎていると知ったのだ。
そもそも待ち合わせ時間からして開始後だったので、小町が故意にそうしたのだと悟った。
「ああ、今行けば聞くのも面倒なスピーチも終わってるだろうし、ちょうど良い頃だろうな」
「ええとさ、遅れて行っても平気なの? すっぽかせないって言うからてっきり大事な集まりなのかと……」
「ああそれな。坂ノ上家が主導しているようなものだから、家の人間として顔は出せって言われてるんだよ。けど兄貴も出るはずだから俺まで最初からいる必要はないよなーって思ってさ」
「うーん、今日のって特に席次も決まってない気楽なやつなんだよね? ならまあ姿がなくてもバレにくいし、小町くんはまだ学生だからそこまで目くじら立てられないとは思うけど、主催している側の人間ならあんまり良くはないと思う。今度からはちゃんと初めから居なよ? それで頃合いを見て後は家族に任せて途中で帰るとかした方がいいんじゃない?」
「……三好て、意外とそういうの厳しいよな」
「小町くんや、そういうとこから信用を得るんだよ」
「はー、わかったよ」
小町の本気で嫌そうな横顔に、すずかは思わず小さく噴き出した。
「あはは、予定が空いてれば今日みたいに私が一緒に出てもいいし、不貞腐れない不貞腐れない」
「マジ? また一緒に?」
「まじまじ。だって壁の花でいるのも退屈でしょ?」
「おいおい壁の花って……俺男だけど」
「頭にリボンでもくっ付けとけば大丈夫! 小町くんなら立派な壁の花になれる!」
「…………ぷっ」
自分の姿を想像でもしたのかとうとう小町も噴き出して、無邪気に笑い出す。
小町が言うには、今回の慈善パーティーは職種や業種を超えた各界の名士たちに呼び掛けて寄付を募るものらしい。恵まれない境遇にある様々な人々への支援に回されるのだとか。
ふと、それならばケントも関係するのではと思ったが、同伴の話をされなかったのでこの会には出席しないのだろうと結論付けた。
いくら避けていても、外で妻として必要ならすずかはその務めは果たすつもりでいるし、向こうもその手の事を蔑ろにはしないはずだ。
総裁としての体面を重視するだろう。
坂ノ上家のベテラン運転手の滑らかな走りにより車酔いもなく、すずかたちは目的地に到着した。
大きな門を通り、車が敷地内まで乗り入れて停車する。
まだまだ陽が高い中、紳士な小町がドア上部に手を添えてくれて、すずかはお礼を口に舗装された地面に降り立った。
庭は広く遠目にも花壇は鮮やかで、実質的な会場となる建物それ自体は洋風建築だ。
「何か、ヨーロッパの貴族の屋敷に来たみたい」
「ははっ大袈裟」
坂ノ上家の別宅だそうだが、普段は使っていないのだとか。
すずかも昔は広い家に住んでいたが、ここまでではなかった。
(別宅でこれって、ホント小町くん家はお金持ちだよね)
「三好、今日はありがとな」
「どういたしまして」
仄かに口元を緩めて小町は腕を差し出してくる。
「いざ行かん、だね?」
「いざ行かん、だな」
同伴者として腕を組んでのエスコートも想定済みのすずかは、彼の促しに応じて手を差し入れた。男女で集まりに出席する際、夫婦や恋人同士は勿論だが、家族間や友人同士でもこの手のエスコートは普通によくある。
悪友同士がにやりと笑みを交わすようにして、すずかは小町と共に洋館の扉を潜るのだった。
建物内の廊下はとても明るく、華やかな雰囲気が漂っていた。
これでもチャリティーが前面に出されたパーティーなので、過剰な装いの者はさすがに見当たらないが、すれ違う面々は皆綺麗な恰好をしている。
扉はドアボーイに任せて二人でメイン会場内に足を踏み入れると、ふわりと耳に控えめなピアノの演奏が舞い込んだ。音の出所を見やれば、会場片隅のグランドピアノをピアニストらしき人物が奏でている。
「わあ、生演奏なんだ。すごい」
小規模だが楽団もいて、管楽器や弦楽器を手に椅子に腰かけている楽団員たちは演奏の合間なのか、各自楽器の手入れをしているようだった。
「もしかして演奏会とかダンスもするの? あ、それとももう終わったかな?」
「ダンスはたぶんまだだと思うけど。俺苦手なんだよなワルツとか踊るの」
「え、そうなの? 中学の時は上手かったよね? 授業で一応ワルツのステップもやったじゃない? 小町くんそつなく動けてた気がしたけど」
生徒に上流家庭出身者が多い学校なので、その手の教養としてダンスの授業にワルツも取り入れていたのだ。すずかも家庭での指導は既にされていたが授業でも基本をしっかりやらされた記憶がある。
「人並みにできるってだけだよ。……三好は踊りたい?」
「私? うーんどうだろう。もうしばらく踊ってないし、ステップ忘れたかも」
ケントと出席するパーティーでは、目立ちたくないと踊らなかった。そもそも大抵の集まりは踊る時間が組まれているものではなく、静かに談笑しながら交流を広めちょっとした情報をやり取りするような会食形式のものばかりだった。……余談だが、すずかはその度に帰ってから体重計と睨めっこしたものだった。
「ならさ、始まったら踊ろうぜ」
「えー、苦手って言ってたくせに~?」
「何事も挑戦だ、うん」
「……気が向いたらね」
無駄に張り切る小町を怪訝に見やって、そう言えば彼は家族や必要な知人たちに挨拶に行かなくて良いのだろうかと思い出す。
「小町くん、一度ご家族の所に行って顔見せないと、すっぽかしたって思われちゃうよ?」
「あー忘れかけてた。悪いけどちょっとそれも付き合ってくれな」
「うん」
小町の友人として挨拶くらいは必要だろう。
彼が彼の家族を探して会場内を見回した。
少しして誰か見つけたのか「ああいたいた」と口にする。
中央のダンスホールは別として、所々に軽食の並べられたテーブルの置かれた広い会場内には、廊下以上に沢山の人間の姿がある。坂ノ上家の影響力が知れるというものだ。
ゆっくり歩き出す小町に促され、すずかも足を踏み出す。
歩きながら会場内へと何気なく視線を流したすずかは、思わず足を止めてしまった。
「三好?」
歩く小町と立ち止まったすずか。
そのせいでするりとすずかの腕が抜け小町が不思議そうに振り返る。
「どうかしたか?」
問い掛けには答えず、すずかはとある方向を見つめた。
小町も視線を追って目をやって、やや半眼になった。
「何であいつが……」
友人の苦々しい呟きをどこか遠くに感じつつ、すずかは瞳を揺らした。
彼女の視線の先では、ケントが人に囲まれて笑みを浮かべている。
家政婦の言っていた彼の集まりとはどうやらこれだったらしい。
それは別に良い。
けれど、どうして、とすずかは疑問しかなかった。
どうして、一人ではないのかと。
(ケン兄…………その人は、誰?)
心に暴風が吹き荒れる。
彼の隣で腕を絡めて微笑むのは、すずかの知らない女性だった。
がやがやとした周囲の談笑がノイズのように耳触りだった。
すずかはじっとケントの隣の女性を見つめる。
小町の存在も今は思考の外だ。
(美人だし色気もあって大人っぽい。私も髪をアップにして来れば良かったかも)
自分も首のラインを出せば少しは違うだろうか、ハーフアップにはしているものの、前髪はいつものように垂らしたままなので額を出せば少しは大人っぽく見えるだろうか……なんて事をすずかは考えてしまった。
そんな風に対抗意識を持った所で、ケントが実際に連れているのはすずかではないというのに……。
唇を噛みしめていると、近くのテーブルに軽食を取りに来たのかマダムと言って良い年齢の婦人たちの会話が聞こえてきた。
「あそこにいるのは花柳家のケントさんよね。ご結婚されたとは聞いていたけれど、もしかして一緒に居る女性がお相手の方かしら?」
「あらホントだわ。実は私奥様のお姿はまだ拝見した事がなかったのよ」
「うちもよ。一緒に居るって事はあの方がそうなんじゃない? 美男美女ねえ」
「ホントねえ。女優さんみたいに綺麗な方」
すずかは心臓が冷えて凍り付く心地がした。
マダムたちの称賛は全くその通りだ。
(あの人、妖精みたいに綺麗だし)
それにケントは自分ではない女性を、こんな各業界の名士たちが大勢来ているような公の場に伴っている。
この場のマダムたちのように、他者からの誤解を招きかねない環境下で堂々とすずかではない相手をエスコートしている。
その意味は……。
この先を考えたくなくて、非の打ち所のないくらいお似合いだと思う二人からすずかは目を逸らした。
この集まりがある事をケントはすずかに一切告げなかった。
同伴が必要ならば、すずかが彼の妻としてその責務を果たすべきだったのだ。
すずかが彼に話さなかったのとはわけが違う。
(奥さんとして駄目出しされたって考えて良いんだよねこれは。ふんだ。でも好都合じゃない。離婚に近付いたよね。それに、もしも、あれが私と小町くんみたいな友人関係じゃなく浮気なら、離婚を突き付けてやれるし!)
そう心の中で晴れやかに不敵に笑ってみたけれど、その笑みはすぐに憂欝な曇り模様に塗り潰されていく。
(ケン兄を好きなんて、やめたい……)
「三好……?」
項垂れるすずかの顔を覗き込んで来た小町は明らかに眉根を寄せ、彼は談笑するケントたちの方を一度見やった。
「その、なんだ……ここの庭さ、見ごたえあるから行ってみないか?」
脈絡なく向けられた提案にすずかはやや面食らったが、心配そうな表情から彼の思いやりと意図を察した。
「……家の人に顔見せなくていいの?」
「ああ、そんなの後で良い良い」
小町は敢えてなのかからっとして言ったが、反対にじめっとした気分に陥っているすずかは、自分がどんな顔をしているのか鏡でも見ないとわからない。
それでもきっと小町が気を遣ってくれるくらいは、情けない顔になっていたのだろうとは思った。
幸いケントはまだすずかに気付いていないようで、だからこくりと無言で頷いて足早に小町の後に続いた。
慈善パーティーの会場へと向かう車内で、すずかは気掛かりそうな顔をして小町を見やった。彼が大体の流れを改めて説明してくれて、その中で既に開始時間を過ぎていると知ったのだ。
そもそも待ち合わせ時間からして開始後だったので、小町が故意にそうしたのだと悟った。
「ああ、今行けば聞くのも面倒なスピーチも終わってるだろうし、ちょうど良い頃だろうな」
「ええとさ、遅れて行っても平気なの? すっぽかせないって言うからてっきり大事な集まりなのかと……」
「ああそれな。坂ノ上家が主導しているようなものだから、家の人間として顔は出せって言われてるんだよ。けど兄貴も出るはずだから俺まで最初からいる必要はないよなーって思ってさ」
「うーん、今日のって特に席次も決まってない気楽なやつなんだよね? ならまあ姿がなくてもバレにくいし、小町くんはまだ学生だからそこまで目くじら立てられないとは思うけど、主催している側の人間ならあんまり良くはないと思う。今度からはちゃんと初めから居なよ? それで頃合いを見て後は家族に任せて途中で帰るとかした方がいいんじゃない?」
「……三好て、意外とそういうの厳しいよな」
「小町くんや、そういうとこから信用を得るんだよ」
「はー、わかったよ」
小町の本気で嫌そうな横顔に、すずかは思わず小さく噴き出した。
「あはは、予定が空いてれば今日みたいに私が一緒に出てもいいし、不貞腐れない不貞腐れない」
「マジ? また一緒に?」
「まじまじ。だって壁の花でいるのも退屈でしょ?」
「おいおい壁の花って……俺男だけど」
「頭にリボンでもくっ付けとけば大丈夫! 小町くんなら立派な壁の花になれる!」
「…………ぷっ」
自分の姿を想像でもしたのかとうとう小町も噴き出して、無邪気に笑い出す。
小町が言うには、今回の慈善パーティーは職種や業種を超えた各界の名士たちに呼び掛けて寄付を募るものらしい。恵まれない境遇にある様々な人々への支援に回されるのだとか。
ふと、それならばケントも関係するのではと思ったが、同伴の話をされなかったのでこの会には出席しないのだろうと結論付けた。
いくら避けていても、外で妻として必要ならすずかはその務めは果たすつもりでいるし、向こうもその手の事を蔑ろにはしないはずだ。
総裁としての体面を重視するだろう。
坂ノ上家のベテラン運転手の滑らかな走りにより車酔いもなく、すずかたちは目的地に到着した。
大きな門を通り、車が敷地内まで乗り入れて停車する。
まだまだ陽が高い中、紳士な小町がドア上部に手を添えてくれて、すずかはお礼を口に舗装された地面に降り立った。
庭は広く遠目にも花壇は鮮やかで、実質的な会場となる建物それ自体は洋風建築だ。
「何か、ヨーロッパの貴族の屋敷に来たみたい」
「ははっ大袈裟」
坂ノ上家の別宅だそうだが、普段は使っていないのだとか。
すずかも昔は広い家に住んでいたが、ここまでではなかった。
(別宅でこれって、ホント小町くん家はお金持ちだよね)
「三好、今日はありがとな」
「どういたしまして」
仄かに口元を緩めて小町は腕を差し出してくる。
「いざ行かん、だね?」
「いざ行かん、だな」
同伴者として腕を組んでのエスコートも想定済みのすずかは、彼の促しに応じて手を差し入れた。男女で集まりに出席する際、夫婦や恋人同士は勿論だが、家族間や友人同士でもこの手のエスコートは普通によくある。
悪友同士がにやりと笑みを交わすようにして、すずかは小町と共に洋館の扉を潜るのだった。
建物内の廊下はとても明るく、華やかな雰囲気が漂っていた。
これでもチャリティーが前面に出されたパーティーなので、過剰な装いの者はさすがに見当たらないが、すれ違う面々は皆綺麗な恰好をしている。
扉はドアボーイに任せて二人でメイン会場内に足を踏み入れると、ふわりと耳に控えめなピアノの演奏が舞い込んだ。音の出所を見やれば、会場片隅のグランドピアノをピアニストらしき人物が奏でている。
「わあ、生演奏なんだ。すごい」
小規模だが楽団もいて、管楽器や弦楽器を手に椅子に腰かけている楽団員たちは演奏の合間なのか、各自楽器の手入れをしているようだった。
「もしかして演奏会とかダンスもするの? あ、それとももう終わったかな?」
「ダンスはたぶんまだだと思うけど。俺苦手なんだよなワルツとか踊るの」
「え、そうなの? 中学の時は上手かったよね? 授業で一応ワルツのステップもやったじゃない? 小町くんそつなく動けてた気がしたけど」
生徒に上流家庭出身者が多い学校なので、その手の教養としてダンスの授業にワルツも取り入れていたのだ。すずかも家庭での指導は既にされていたが授業でも基本をしっかりやらされた記憶がある。
「人並みにできるってだけだよ。……三好は踊りたい?」
「私? うーんどうだろう。もうしばらく踊ってないし、ステップ忘れたかも」
ケントと出席するパーティーでは、目立ちたくないと踊らなかった。そもそも大抵の集まりは踊る時間が組まれているものではなく、静かに談笑しながら交流を広めちょっとした情報をやり取りするような会食形式のものばかりだった。……余談だが、すずかはその度に帰ってから体重計と睨めっこしたものだった。
「ならさ、始まったら踊ろうぜ」
「えー、苦手って言ってたくせに~?」
「何事も挑戦だ、うん」
「……気が向いたらね」
無駄に張り切る小町を怪訝に見やって、そう言えば彼は家族や必要な知人たちに挨拶に行かなくて良いのだろうかと思い出す。
「小町くん、一度ご家族の所に行って顔見せないと、すっぽかしたって思われちゃうよ?」
「あー忘れかけてた。悪いけどちょっとそれも付き合ってくれな」
「うん」
小町の友人として挨拶くらいは必要だろう。
彼が彼の家族を探して会場内を見回した。
少しして誰か見つけたのか「ああいたいた」と口にする。
中央のダンスホールは別として、所々に軽食の並べられたテーブルの置かれた広い会場内には、廊下以上に沢山の人間の姿がある。坂ノ上家の影響力が知れるというものだ。
ゆっくり歩き出す小町に促され、すずかも足を踏み出す。
歩きながら会場内へと何気なく視線を流したすずかは、思わず足を止めてしまった。
「三好?」
歩く小町と立ち止まったすずか。
そのせいでするりとすずかの腕が抜け小町が不思議そうに振り返る。
「どうかしたか?」
問い掛けには答えず、すずかはとある方向を見つめた。
小町も視線を追って目をやって、やや半眼になった。
「何であいつが……」
友人の苦々しい呟きをどこか遠くに感じつつ、すずかは瞳を揺らした。
彼女の視線の先では、ケントが人に囲まれて笑みを浮かべている。
家政婦の言っていた彼の集まりとはどうやらこれだったらしい。
それは別に良い。
けれど、どうして、とすずかは疑問しかなかった。
どうして、一人ではないのかと。
(ケン兄…………その人は、誰?)
心に暴風が吹き荒れる。
彼の隣で腕を絡めて微笑むのは、すずかの知らない女性だった。
がやがやとした周囲の談笑がノイズのように耳触りだった。
すずかはじっとケントの隣の女性を見つめる。
小町の存在も今は思考の外だ。
(美人だし色気もあって大人っぽい。私も髪をアップにして来れば良かったかも)
自分も首のラインを出せば少しは違うだろうか、ハーフアップにはしているものの、前髪はいつものように垂らしたままなので額を出せば少しは大人っぽく見えるだろうか……なんて事をすずかは考えてしまった。
そんな風に対抗意識を持った所で、ケントが実際に連れているのはすずかではないというのに……。
唇を噛みしめていると、近くのテーブルに軽食を取りに来たのかマダムと言って良い年齢の婦人たちの会話が聞こえてきた。
「あそこにいるのは花柳家のケントさんよね。ご結婚されたとは聞いていたけれど、もしかして一緒に居る女性がお相手の方かしら?」
「あらホントだわ。実は私奥様のお姿はまだ拝見した事がなかったのよ」
「うちもよ。一緒に居るって事はあの方がそうなんじゃない? 美男美女ねえ」
「ホントねえ。女優さんみたいに綺麗な方」
すずかは心臓が冷えて凍り付く心地がした。
マダムたちの称賛は全くその通りだ。
(あの人、妖精みたいに綺麗だし)
それにケントは自分ではない女性を、こんな各業界の名士たちが大勢来ているような公の場に伴っている。
この場のマダムたちのように、他者からの誤解を招きかねない環境下で堂々とすずかではない相手をエスコートしている。
その意味は……。
この先を考えたくなくて、非の打ち所のないくらいお似合いだと思う二人からすずかは目を逸らした。
この集まりがある事をケントはすずかに一切告げなかった。
同伴が必要ならば、すずかが彼の妻としてその責務を果たすべきだったのだ。
すずかが彼に話さなかったのとはわけが違う。
(奥さんとして駄目出しされたって考えて良いんだよねこれは。ふんだ。でも好都合じゃない。離婚に近付いたよね。それに、もしも、あれが私と小町くんみたいな友人関係じゃなく浮気なら、離婚を突き付けてやれるし!)
そう心の中で晴れやかに不敵に笑ってみたけれど、その笑みはすぐに憂欝な曇り模様に塗り潰されていく。
(ケン兄を好きなんて、やめたい……)
「三好……?」
項垂れるすずかの顔を覗き込んで来た小町は明らかに眉根を寄せ、彼は談笑するケントたちの方を一度見やった。
「その、なんだ……ここの庭さ、見ごたえあるから行ってみないか?」
脈絡なく向けられた提案にすずかはやや面食らったが、心配そうな表情から彼の思いやりと意図を察した。
「……家の人に顔見せなくていいの?」
「ああ、そんなの後で良い良い」
小町は敢えてなのかからっとして言ったが、反対にじめっとした気分に陥っているすずかは、自分がどんな顔をしているのか鏡でも見ないとわからない。
それでもきっと小町が気を遣ってくれるくらいは、情けない顔になっていたのだろうとは思った。
幸いケントはまだすずかに気付いていないようで、だからこくりと無言で頷いて足早に小町の後に続いた。
0
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。
離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。
王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。
アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。
断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。
毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。
※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。
※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。
元男装傭兵、完璧な淑女を演じます。――嫁ぎ先はかつての団長でした!?
中野森
恋愛
貧乏男爵家の長女クラリスは、弟の学費を稼ぐために男装して傭兵団へ入団した。
副団長にまで上り詰め、団長をはじめとした仲間から信頼を得るが、決して正体は明かさなかった。
やがて戦争が終わり、傭兵団は解散となる。
出稼ぎするために流した嘘の悪評により、修道院入りを覚悟していたクラリスだったが、帰郷した彼女を待っていたのは父からの「嫁ぎ先が決まった」という一言だった。
慌ただしく始まる淑女教育、そして一度も未来の夫と顔合わせすることなく迎えた結婚式当日。
誓いの言葉を促され隣からきこてくる声に、クラリスは凍りつく。
……嘘でしょ、団長!?
かつての想い人でもある傭兵仲間が今は夫となり、妻の正体には気づいていない――気づかれてはいけないのだ、絶対に!
本作品はゆるふわ設定、ご都合主義、細かいことは気にしたら負け!
※この小説は、ほかの小説投稿サイトにも投稿しています。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる