運命の息吹

梅川 ノン

文字の大きさ
10 / 39
4章

兄王の番に

しおりを挟む
「王妃様がいらっしゃる!?」
「はい、本日午後お成りになると連絡がありました」
「どうして?」
「多分ですが、国王陛下の番になられたルシア様に会っておきたいと思われたのでは」
 ルシアは、困惑した。この奥の宮で生まれて今日まで、ルシアの世界はこの奥の宮が全てだった。
 外部の人間と話したことは一度もない。フェリックスが訪れる時も、随行する者達は宮の中までは入らない。そんなルシアにとって、王妃と対面するなど考えられなかった。
「どうしよう、どうしたらいいの? 何を話せばいいの?」
 不安を現すルシアに、セリカは王妃と対面する際の作法を教える。
「自分より身分の高い方に話しかけることは許されません。故にルシア様から王妃様に話しかけることはできません」
 それを聞いて少し安心する。自分から話しかけるなんて何を言えばいいのか分からない。しかし、話しかけられたら返答しなければならない。ルシアは不安で一杯だった。
 そもそも王妃様ってどんなお方だろう? 兄上様のように優しいお方ならいいけど……。ルシアは、今更ながらフェリックスに一度も王妃の事を聞いていない事を後悔した。あーでも、もし怖い方だって聞いていたらそれも怖い……。
 ルシアが、あれこれ思い悩むうちに王妃の来訪が告げられた。ルシアは門まで出迎える。
「その方がルシアか?」
「はい、私がルシアでございます。本日は態々のご来訪ありがとうございます」
 威厳のある態度の王妃にルシアは、畏れつつも何とか最初の挨拶を述べた。怖い、足が震える……。
 王妃には、ルシアの緊張が手に取るように分かる。
「そのように固くならずともよい。そなたは先の国王陛下のお子、つまり今の陛下の弟、私のことも姉と思ってよいのです」
 良かった、怖いお方ではなさそうだ。ルシアは幾分安心するが、いまだ緊張は取れない。
 王妃は、想像以上のルシアの美しさに驚いていた。そして、王家の血筋を感じさせる気品にも好感を持つ。これは陛下が執心なさるのも無理はないと思う。
 下手に野心的な側室が現れても困る。王妃には王女と王子二人が産まれ、上の王子は王太子として盤石ではあるが、側室腹の子でもできれば災いの元。
 ルシアが国王を繋ぎ止めてくれれば、自分にも利がある。例えルシアに子が出来ても、オメガなら王子とは認められないし、アルファでも後ろ盾のないルシアの子供、王太子とは厳然たる差がある。
 王妃の打算的な思いは、ルシアへのに優しい態度になる。
「何か困っていることはないか? いつでも何かあれば執事に申して王宮に伝えなさい、遠慮はいりませんよ」
 優しく微笑んで言う王妃に、ルシアの緊張も取れていき、固かった顔にも笑みがでる。ほんのり色づいたルシアのはにかんだ笑みを、王妃は可愛いと思う。
 国王からルシアを番にすると聞いた時、すぐにでもルシアに会いたいと思った。ルシアの人となりを、王妃である自分が確かめなければいけないと思った。
 しかし、自分もアルファ、万が一を考えて番になってから会いにきた。その判断は正解だったと思う。
 番のいるオメガのフェロモンは他のアルファには感じられないが、それでもこの可愛いさ、番う前だったら……。
 王妃には先の国王の気持ちも理解できた。さぞルシアが可愛く大切だったのだろう。そして、ルシアの母親も魅力的なオメガであったのだろう。
 王妃とルシアの初めての対面は、一方は心に様々な思惑を抱かせ、一方は何も考えられない状態と言う、双方対照的な心情で終わった。

 ルシアの奥の宮での生活は、淡々と穏やかに流れる。執事、侍医そしてセリカと、皆幼い時から接して気心の知れた人たちに囲まれ安穏に暮らすことができた。
 そして時折訪れる兄王は、オメガの熱い体を抑えてくれ、同時に体の喜びも十分に与えられた。
 ルシアは、この奥の宮に閉じ込められているとの思いはなかった。奥の宮が世界の全てであるルシアは、時折外の世界へ思いを馳せることはあっても、今の生活に不満はなかった。幸せだと思っていた。
 特別大きな出来事も無いルシアの奥の宮での生活。平和で安穏とした暮らしは続き、いつしか十二年の歳月が流れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

氷の公爵様と身代わりパティシエ~「味覚なし」の旦那様が、僕のお菓子でトロトロに溶かされています!?~

水凪しおん
BL
【2月14日はバレンタインデー】 「お前の菓子だけが、私の心を溶かすのだ」 実家で「魔力なしの役立たず」と虐げられてきたオメガのリウ。 義弟の身代わりとして、北の果てに住む恐ろしい「氷血公爵」ジークハルトのもとへ嫁ぐことになる。 冷酷無慈悲と噂される公爵だったが、リウが作ったカカオのお菓子を食べた途端、その態度は激変!? リウの持つ「祝福のパティシエ」の力が、公爵の凍りついた呪いを溶かしていき――。 拾ったもふもふ聖獣と一緒に、甘いお菓子で冷たい旦那様を餌付け(?)する、身代わり花嫁のシンデレラストーリー!

別れたはずの元彼に口説かれています

水無月にいち
BL
 高三の佐倉天は一歳下の松橋和馬に一目惚れをして告白をする。お世話をするという条件の元、付き合えることになった。  なにかと世話を焼いていたが、和馬と距離が縮まらないことに焦っている。  キスを強請った以降和馬とギクシャクしてしまい、別れを告げる。  だが別れたのに和馬は何度も会いに来てーー?  「やっぱりアレがだめだった?」    アレってなに?  別れてから始まる二人の物語。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

たとえ運命じゃなくても、僕は

mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。 たとえ運命から背を背けようとも」 音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。 努力家の先輩αと、 運命の番だと告げられた天才α。 運命か、愛情か―― 選ぶのは、僕自身だ。 ※直接的な描写はありません。

【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。 ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。 「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」 そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。 完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか? 初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。

君に捧げる紅の衣

高穂もか
BL
ずっと好きだった人に嫁ぐことが決まった、オメガの羅華。 でも、その婚姻はまやかしだった。 辰は家に仕える武人。家への恩義と、主である兄の命令で仕方なく自分に求婚したのだ。 ひとはりひとはり、婚儀の為に刺繡を施した紅の絹を抱き、羅華は泣く。 「辰を解放してあげなければ……」 しかし、婚姻を破棄しようとした羅華に辰は……?

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

処理中です...