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5章
アレクシーとの出会い
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早春、ルシアは温かくなりかけた陽気と、綻び始めた花々につられ庭へ出た。奥の宮は王宮の奥に広がる庭園の更に奥に位置する。厳重な塀で囲まれ、その庭は王宮の庭園とはつながっていない。だからこの日も、安心して花を見て周り楽しんだ。
するとルシアは、仄かに惹かれる香りを感じる。花の香か? どの花からだろう? そう思っていると、いきなり人が抱きついてきた。えっ! なっ……なに!?。
「でっ、殿下――いけません! ここに入っては! 戻りましょう」
ルシアに抱きついた人は、息せき切って追ってきた数人の男たちに引きずられるように宮の外に出ていく。ルシアは呆然と見送った。そして気付いた。先程の惹かれる香りは、今抱きついた人からのものだったことを……。
騒ぎを知ったセリカ達が慌ててルシアの側に来る。
「ルシア様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だけど、今の人誰だったんだろう……殿下と呼ばれていた」
殿下と呼ばれる若い男性……まさか王太子殿下? いずれにせよ調べて、必要ならば国王に報告せねばとセリカは思う。
「今は分かりませんが、執事が後を追っております故、すぐにわかりますよ。ルシア様は何も心配することはございません。風も冷たくなってきました、中にお入りください」
ほどなくして、執事が戻ってきた。やはり当該の人物は王太子殿下だった。側近達も恐縮した様子で、以後は気を付けるようにと申し入れるに留めたとのこと。
王太子といえど、この奥の宮に入ることは許されないが、今回の事はちょっとしたアクシデントで騒ぎ立てることでもないと判断したがらだ。
ルシアは、執事から報告を受け、執事の判断は最善と思い了承した。
やはり王太子様だったのか……抱きしめられた時の感触と香りが忘れられない。もう一度会いたいと思う。しかし、王太子と言えどここに立ち入りは許されない。もう二度と会うことは叶わぬ人。
この日の出来事は長くルシアの心を占めた。あの香と共に……。
王太子アレクシーは、地方からの陳情を聞き終わったあと、側近達と庭園に出た。地方の陳情は、皆それぞれ言い分があり一つ一つ聞いていくのは骨が折れるが、王太子として逃れるわけにはいかない。
伸びをしながら早春の庭を歩いていると、ふっと仄かに芳香を感じる。花の香か? 引き入られるように香りの元へ歩いて行く。
側近達は、突然無言で庭園の奥へ足早に進んで行くアレクシーに戸惑いつつも着いていく。これ以上進むのはいけない、この先は確か奥の宮。許されたごく僅かの者以外立ち入ることは許されない。それは、王太子と言えど例外ではない。
止めなければと皆で顔を見合わせたその時、アレクシーが突然走り出し、なんと門を超えて奥の宮に入っていったので驚愕して連れ出した。
このような事態が公になれば大事になる。一緒にいた自分たちも罰せられる。だから、追いかけてきた奥の宮の執事に平謝りに謝った。
幸い執事も、公にすることは望まず注意されるだけで済んだ。公になれば奥の宮の側も何らかの処分が下る可能性もあるから、双方の思惑の一致もあった。
この日の出来事は、一時は皆を驚愕させたが、ほんのアクシデントすぐに忘れられることと思われた。
しかし、それでは済まない者が一人いた。王太子アレクシーである。
アレクシーは、己が抱きついた人を思った。明らかにオメガ、そして間違いなく運命の人。あの芳香は運命の人が放つもの。だから自分は惹かれるように導かれたどりついた。
誰だ? あの身なりは使用人の物ではない。かなり上品で上質の物だった。王族の物と言ってもよい物だった。それは……。
奥の宮は、陛下がご自分の番を囲っている宮。故に立ち入りは厳しく制限されている。
つまり、奥の宮で王族のような身なりの人と言えば一人しかいない。陛下のオメガの番だ。
アレクシーは、己のその結論に絶望する。よりによって運命のオメガが父上の番とは……。
しかし、それで諦めてしまえるほどアレクシーは、淡泊な性格ではなかった。運命のオメガを求めるアルファの本能もあったかもしれない。
するとルシアは、仄かに惹かれる香りを感じる。花の香か? どの花からだろう? そう思っていると、いきなり人が抱きついてきた。えっ! なっ……なに!?。
「でっ、殿下――いけません! ここに入っては! 戻りましょう」
ルシアに抱きついた人は、息せき切って追ってきた数人の男たちに引きずられるように宮の外に出ていく。ルシアは呆然と見送った。そして気付いた。先程の惹かれる香りは、今抱きついた人からのものだったことを……。
騒ぎを知ったセリカ達が慌ててルシアの側に来る。
「ルシア様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だけど、今の人誰だったんだろう……殿下と呼ばれていた」
殿下と呼ばれる若い男性……まさか王太子殿下? いずれにせよ調べて、必要ならば国王に報告せねばとセリカは思う。
「今は分かりませんが、執事が後を追っております故、すぐにわかりますよ。ルシア様は何も心配することはございません。風も冷たくなってきました、中にお入りください」
ほどなくして、執事が戻ってきた。やはり当該の人物は王太子殿下だった。側近達も恐縮した様子で、以後は気を付けるようにと申し入れるに留めたとのこと。
王太子といえど、この奥の宮に入ることは許されないが、今回の事はちょっとしたアクシデントで騒ぎ立てることでもないと判断したがらだ。
ルシアは、執事から報告を受け、執事の判断は最善と思い了承した。
やはり王太子様だったのか……抱きしめられた時の感触と香りが忘れられない。もう一度会いたいと思う。しかし、王太子と言えどここに立ち入りは許されない。もう二度と会うことは叶わぬ人。
この日の出来事は長くルシアの心を占めた。あの香と共に……。
王太子アレクシーは、地方からの陳情を聞き終わったあと、側近達と庭園に出た。地方の陳情は、皆それぞれ言い分があり一つ一つ聞いていくのは骨が折れるが、王太子として逃れるわけにはいかない。
伸びをしながら早春の庭を歩いていると、ふっと仄かに芳香を感じる。花の香か? 引き入られるように香りの元へ歩いて行く。
側近達は、突然無言で庭園の奥へ足早に進んで行くアレクシーに戸惑いつつも着いていく。これ以上進むのはいけない、この先は確か奥の宮。許されたごく僅かの者以外立ち入ることは許されない。それは、王太子と言えど例外ではない。
止めなければと皆で顔を見合わせたその時、アレクシーが突然走り出し、なんと門を超えて奥の宮に入っていったので驚愕して連れ出した。
このような事態が公になれば大事になる。一緒にいた自分たちも罰せられる。だから、追いかけてきた奥の宮の執事に平謝りに謝った。
幸い執事も、公にすることは望まず注意されるだけで済んだ。公になれば奥の宮の側も何らかの処分が下る可能性もあるから、双方の思惑の一致もあった。
この日の出来事は、一時は皆を驚愕させたが、ほんのアクシデントすぐに忘れられることと思われた。
しかし、それでは済まない者が一人いた。王太子アレクシーである。
アレクシーは、己が抱きついた人を思った。明らかにオメガ、そして間違いなく運命の人。あの芳香は運命の人が放つもの。だから自分は惹かれるように導かれたどりついた。
誰だ? あの身なりは使用人の物ではない。かなり上品で上質の物だった。王族の物と言ってもよい物だった。それは……。
奥の宮は、陛下がご自分の番を囲っている宮。故に立ち入りは厳しく制限されている。
つまり、奥の宮で王族のような身なりの人と言えば一人しかいない。陛下のオメガの番だ。
アレクシーは、己のその結論に絶望する。よりによって運命のオメガが父上の番とは……。
しかし、それで諦めてしまえるほどアレクシーは、淡泊な性格ではなかった。運命のオメガを求めるアルファの本能もあったかもしれない。
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