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3章 地獄の日々

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「仙殿、大丈夫か?」
 声を変えると、仙千代が目を開ける。
「目覚めたのなら湯殿に行こうか? 身が汚れて気持ち悪かろうて、清めたが良かろう。起き上がれるか?」
 そう言って、背に手をやり、身を起こしてやる。仙千代は無言だった。
 佑三は仙千代に着物を掛けてやり、湯殿に向かった。仙千代はおぼつかない足取りで、佑三の肩に縋るように付いてくる。そこに、佑三は仙千代の己への信頼感を感じ、必死に支えていた。佑三自身も、散々嬲られたせいで、足元が頼りなかったのだ。

 途中で、全身に心配を現した三郎が待っていた。三郎は伽の部屋に近づくことは許されていなかった。
 常よりも、長く戻ってこない主が心配でならなかった。
 加えて、いつもなら佑三が姿を見せるのに、今日はそれもなかった。まさか、佑三も一緒に伽を命じられていたとは知らなかったのだ。
 三郎は、二人の姿を見て、常以上に酷い扱いをされたことを悟った。
「若っ! 大丈夫でございますか?」
 仙千代は無言だった。声を発する気力も無かったのだ。
 佑三が、頷くことで三郎を制した。三郎もそれを理解した。今の、仙千代には、心配の声掛けも辛いことだと。
 三郎は、無言で湯殿まで付いていき、二人を中へ見送った後に、はたと気付き着替えを取りに戻った。

 湯殿入って、佑三は先ず仙千代を洗ってやる。いつも事後の清めは佑三がしている。今日も素直に身を任せている。
 洗ってやりながら、佑三は指での触れ合いを思い出していた。わしは仙殿を好きじゃ。仙殿もか? 期待したい気持ちもあったが、それを今質してどうする? 好きな相手を守ってやることもできない己に、それを質す資格はないなと自嘲気味に思う。

 なるべく痛まないように、優しく丁寧に洗ってやるが、どうしても痛みを感じることもあるのだろう。そんな時は、仙千代は佑三にしがみついてくる。そんな仙千代に、激しく庇護欲が沸く。今は、こうして世話をしてやるのが、己の出来る精一杯じゃと思う。
「すまない、痛かったか? 奥も掻き出さないと後が辛いからな。もう少しの我慢じゃ、あと少しで終わる」
 優しく声掛けながら、手の動きはそれ以上に優しく清めていった。
「よし! きれいになった!」
 最後に湯を何杯か肩から掛けてやる。仙千代を外に出すと三郎が待機していた。佑三は仙千代を三郎に託すと、自分はもう一度湯殿入る。今度は自分を清めるためだった。

 湯殿へ入った佑三に、仙千代は改めて、そうだ今日は佑さんも一緒に……と、今日の二人での伽を思い出した。
 いつもは、一人だった。でも今日は……佑さんの指温かった……。少し心強かった。それが仙千代の気持ちだった。
 仙千代には、佑三のように佑三を好きだと言う気持ちに気づいていなかった。
 ただ、佑三が側にいると安心できた。後始末も、他の者がすることは受け入れできない。それは長年自分に仕えてきた三郎に対してもだ。しかし、佑三になら、任せることができた。

 深い信頼、それが仙千代の佑三に対する思いだった。
 十二歳の子供。身も心も未だ未成熟な子供。それが仙千代だった。
 それが、体だけ無理矢理開かせられた。その理不尽過ぎる環境で、仙千代にとって、佑三は、一心に信頼できる相手だった。
 それはある意味、好きだと言う思いよりも、深いものだと言えた。

 結果的に、この日の出来事は二人への仕置きを期待した作之助の思いに反した結果となった。
 しかし、当の作之助は、二人が共に散々嬲られたことを厳しい仕置きと思っていた。
 それは実行した義政もだった。これだけ責め立てたやれば、仕置きとして十分だろうと思っていた。玩具が、気持ちを持つことは、僭越だ。決して許さぬとの思いからだ。
 実際、体への責めは二人にとって十分に仕置きになっていた。その点では、作之助の思惑は達せられていた。
 しかし、心は違っていた。作之助や、義政のような人間には一生分からない心の機微。

 仙千代と佑三は、玩具などの道具ではなかった。心を持った人間だったのだ。それを理解できる、作之助や義政ではなかった。
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