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5章 地獄からの脱出

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 仙千代は、ここへ来てからの地獄の日々が脳裏を巡り、漸く解放されると胸の詰まる思いだった。
 佑三は己の解放より、仙千代の解放の方が大きかった。自分一人の時より、仙千代が来て、仙千代の苦悩を見ている方が辛かった。思い人を助けてやれない男としての苦悩……それが漸く終わる――感慨深い。
 しかし、急がねばならない。三人は先を急いだ。朝になれば三人の不在は直ぐに分かる。それまでに、夜が明けるまでに、出来るだけ城から遠ざかりたい。
 
 佑三は、仙千代の手を引いて歩きながら、常に仙千代の様子を気遣った。出来るだけ急ぎたいが、無理はさせられない。歩けなくなってしまったら、その方が大変なことだからだ。
 どれくらい歩いただろうか、そろそろ休んだが良かろうか、と思っていると、小川のせせらぎを感じた。ちょうどいい! あのほとりで少し休息を取ろうと思う。
「仙殿、大丈夫か? もう少し行くと小川があるようじゃ。そこで少し休もう」
 必死で歩いてきた仙千代は、小川と聞いて少しほっとした。休みたいのもだが、喉の渇きも感じて、水も飲みたかった。
 三人は小川のほとりに腰を下ろして休息した。小川の水を飲み、喉も潤した。水は、冷たくそして仄かに甘みも感じられた。仙千代は、水がこんなに美味い物かと感動する思いだった。
「これは美味いな~体が洗われるような思いじゃ!」
 にこやかに言う佑三に、仙千代は自分と同じ思いなんじゃと、嬉しかった。佑三が、自分と同じように感じていることが、心の底から嬉しいと思った。

「もうすぐ夜明けじゃ」
 佑三の言う通り、あたりが徐々に明るくなっていくのを感じた。
 大高城にいる頃は、朝が好きだった。朝日を浴びると身も心も清められ、今日も頑張ろうと言う気になれた。しかし、駿河に来てから、爽やかな朝を迎えられる日々は皆無だった。いつも、気づけば日は高くなっていた。朝日からも見捨てられた……そんな思いにとらわれた。
 同時に、朝も満足に迎えられない、己の怠惰が呪わしかった。それが、義政からの凌辱故といえ、いつも自分が呪わしかった。
 日が高くなってから、のろのろと起き出すなど遊女か、あるいは男娼。まさに己は、義政の男娼のようだと、自分自身を蔑む思いだった。
 
 仙千代は、久しぶりの朝日を感動を持って迎えた。朝日は、きらきらと光り、素晴らしくきれいだ。改めて、地獄からの解放を、心から感じた。
 漸く解放された。わしはこの日の朝を、朝日を生涯忘れないだろうと、心の底から思った。
 
 朝日を浴びた仙千代は、美しい。出会った時の仙千代の穢れなき美しさを思い出す。佑三は、美しい仙千代に暫し見惚れた。
 あの、地獄の中でも仙千代はきれいだった。どんなにけだものたちの手で、精で、汚されようと仙千代はきれいだった。
 まさに泥中の蓮――それが仙千代だった。しかし、悲壮感は常に隣り合わせにあった。
 悲壮感漂う壮絶な美しさ、それが仙千代だった。その美しさを見ているのは辛かった。それを、出会った時の明るい、朗らかな美しさに戻してやりたい――それが佑三の思いだった。
 あと少しじゃ、大高城までたどり着くまであと少し頑張るのじゃと、佑三は仙千代に見惚れながら、己を𠮟咤した。

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