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5章 地獄からの脱出

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「それでは若、参りましょうか。わしの馬にお乗りください」
 羽島は、自分の馬に仙千代を乗せて引いていこうと思い、声掛けた。その時だった。
「仙殿、わしはここで」
「えっ――」
 仙千代は、佑三の言うことの意味が分からず、見開いた眼で佑三を見つめる。
「仙殿、わしはここでお別れじゃ――」
「どっ――どうしてじゃ! 佑さんも城へ行かぬのか?」
 静かに頷く佑三に、仙千代は取り乱し縋るように言う。
「どうしてじゃ! 佑さんも一緒に行くとばかり思うておった!」
 仙千代は、当然佑三も一緒に大高城まで来て、その後は父にこれまでの経緯を話して、佑三を召し抱えてもらおうと思っていた。佑三もそのつもりであろうと思っていたのだ。
「父上にお願いして、佑さんの処遇も悪いようにはしないと思うておったのじゃ。一緒に来てはくれぬか」
「仙殿の気持ちは嬉しいが、行っておきたい所もあるのでな。もとより、仙殿が無事城に入るのを見届けてから別れるつもりじゃった。じゃが羽島殿がおればもう大丈夫じゃろ」
 行っておきたい所……故郷にどこか行きたい所があるのか? 佑三は故郷を出てからかなりの時がたっている。どこか訊ねたいと思っているのか? 仙千代はそう考えた。
 もしそうなら、あまり引き止めるのはいけないと思った。
「そうか、では佑さんが行きたい所へ行った後に、城を訊ねてくれるか?」
「そうじゃな、そうさせてもらおう」
「必ずじゃぞ! 城の者達には佑さんが訪ねて来たら、必ずわしに取り次ぐように言っておくから」
 仙千代が佑三の手を強く握りながら言うと、佑三は頷いた。大丈夫じゃと、宥めるような表情だった。
「佑三さん、本当に世話になった。佑三さんがおらなんだらここまで来られんかった。わしからも心から礼を言う。そしてどうか必ず城へ来てくだされ」
 三郎も佑三に深く頭を下げる。三郎も、佑三には感謝の気持ちしかない。そして今後は、高階の家臣として、仙千代に仕えて欲しいと思っていたので、一緒に行かないのは残念だ。しかし、いずれ来てくれるはずだと、その願いを込めていた。

「佑さん、必ずじゃぞ、待っているから」
 仙千代は、佑三の手を握り、何度も何度も念を押した。そして、意を決したようにその手を、しかし名残惜し気に離した。
 その時仙千代は、今離して、もう一度握る時が来るのか……そう思った。涙がこみあげてくる……泣いてはいけないと、懸命に堪えた。そして、馬に乗ると、羽島も佑三に深く礼をして、しろへ向けて歩き出す。三郎ももう一度礼をしてから続いた。
 仙千代は、どうしても別れがたく思い、振り返った。佑三はそのまま立っていた。仙殿大丈夫じゃと言うように、ゆっくりと頷いた。もうだめだ、これ以上見ていたら泣いてしまう。堪えることはできないと、仙千代は前を見た。
 松川を脱出した後、佑三との別れが待っているとは夢にも思わなかった。だけど、これは永遠の別れじゃない。きっと佑三は、すぐに来てくれると、仙千代はそう信じてこの悲しみ、淋しさに耐えた。
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