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6章 過去の悪夢

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 三年ぶりに大高城の城門をくぐった。仙千代は懐かしさに、胸がつまった。我が城に、帰ってきたことを実感した。
 何度も何度もこの城に帰ることを、夢見た。漸く帰って来た……仙千代は感慨深げに城を見上げた。
 そして深く息を吸い込んだ、空気までどこか甘く、懐かしいものを感じる。
 羽島が番所の侍に「若様のお帰りじゃ、すぐに中へ知らせろ」と言うと、番兵は驚き、慌てて中へ知らせに行く。
 仙千代は、本丸までゆっくりと歩いて行き、御殿に入った。
 知らせを受けて慌てた様子で、何人かの者達が出迎えに出てきた。見知った懐かしい顔も何人かいる。皆一様に「若様!」と佇んでいる。皆仙千代の突然の帰還に驚いている。
 父の成定も、慌てて出てきた。
「仙千代!」
「父上! 仙千代只今帰って参りました!」
 成定は、仙千代に駆け寄り肩を抱いた。父の抱擁に深い安堵を覚える。すると、母のお万の方も息せき切って出てきた。
「仙、仙千代殿! ああ、ようご無事で!」
 抱きつき、泣く母に「母上、ご心配おかけし申し訳ございません。仙千代、こうして無事戻って参りました」
 親子の、久しぶりの逢瀬の姿に、家臣たちの中には、涙ぐむものいる。感動的な親子の再会であった。

「そなた相当疲れておるじゃろ。先ずは旅装を解き、湯を使うがよかろう。その後ゆっくりと話を聞こうではないか」
 父の言葉に、仙千代も三日間着の身着のまま来たことに思い至り、従うことにする。

 湯殿では、小姓が世話をしようとするのを退けた。「それでは私が」と言う三郎も退ける。
「しかし、若お一人では……」
「いいのじゃ、自分で出来る! 誰も中へ入るな! そなたもじゃ!」
 仙千代がきつく言うと、三郎もそれ以上は何も言えずに従った。
 駿河では、湯殿の世話はいつも佑三がしていた。それが当たり前になっていて、三郎も任せきりだった。仙千代は拒むが、一人で大丈夫とは、とうてい思えない。どうしたものかと、三郎は思案しつつ、着替えの準備を整えた。

 仙千代は、駿河での生活で否応なしに肌を晒された。従うことを強制されたが、慣れることは決してなかった。裸になることは、凌辱の始まりだった。仙千代にとって、地獄の始まりだったのだ。
 ゆえに肌を晒すことはできないのだ。それが若年の小姓や、三郎でも、無理なのだ。
 ただ一人例外は、佑三だったが、その人は今ここにいない。仙千代は、ここでも佑三の喪失を強く思った。

 仙千代は、苦戦しながらも体は洗い終えた。髪は……無理だな。自分で洗うのは無理だと諦め、洗わずに出た。下着を着てから、三郎を呼んだ。
「若様、髪は洗いませんでしたか?」
「ああ、父上もお待ちになっているから、体の汚れだけ清めた」
 髪を洗わなかったことを、父を待たせてはいけないと、理由付けした。しかし、明日からはその理由は通らない。仙千代は、乳母の存在を思い出す。多分乳母だったら大丈夫だろうと思えた。
「乳母のきくは健在か? もし元気なら、湯殿や、身の回りの世話はきくにさせたい」
 三郎は、仙千代の気持ちが理解できた。男に触れられるのは、あの地獄を思い出すのだろう。故に、老女だったら良いのだろうと思った。そこは仙千代の地獄を側で見てきた三郎なだけはあった。
 そして、それは三郎にとってもありがたい。一つ懸念が解決するからであった。
「かしこまりました。確かきくは、元気にしておるはずですので、早速そのように申し伝えます」

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