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11章 四国へ出陣

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「さすがに逆さ磔なんて、久しぶりだよ」
「それは、わしもじゃよ」
「それだけ、殿があの若様に夢中ってことだよ」
「そうあからさまな言い方をするでない。それに高階様は若様じゃない。既に家督を継いでおられる」
「ふふっ、でもあの風情は若様だよ。穢れを知らないって言うか、庇護欲をそそるよね。殿の気持ちも分かるよ」
「とにかく殿がどれだけ高階様を大切に思われているか分かっただろう。そなた、これからも心してお守りせよ」
「それは任せて。表のことは結城様、あんたの務めだよ」
「それは分かっておる。そのためにわしが来たのじゃからな」
 細作の葉月は、久世がお香の方の元にいて、津田に正式に仕官する前からの付き合いだった。故に、筆頭家老と言えど、結城にも気さくな物言いをする。
 久世にとっても、葉月の裏の働きには、随分と助けられた。故に葉月の、遠慮のない物言いや態度は、久世や結城に受け入れられていた。
 
 結城は、早急に事後始末をして、四国へ戻らねばならない。その後は、四国平定まで安心できる体制を整えて。それが、筆頭家老の結城に課せられた仕事。

 先ず結城は、三郎には全てを伝えた。
 場内に緘口令は敷いたが、どこからか伝わる可能性が無いとは言えない。そういった時、三郎が知っていた方が、防波堤になるとの考えだった。
 聞かされた三郎は、驚くものの、やはり久世の思いの深さを知り、感謝した。
 同時に、成利には絶対に知らせられないと思い、結城の依頼を、力強く受けた。成利の家臣として、主を守ることは、当然との思いだった。

 結城は、古賀をはじめとした留守居の家臣達に、改めて全ては成利に従うことを命じた。
 言われるまでもなく、皆今回の件で、成利の立場の重さを悟っていた。成利に逆らうことは、殿に逆らうことだと。
 木村の受けた刑は、見せしめとしての効果も大きかった。久世に対する畏敬も大いに増した。

 更に結城は、成利の親衛隊とも言える一団を城に残していく。無論久世の命令だ。
 久世は、今回の件で武力をもって成利を守る必要性を痛感した。葉月などの細作も必要だが、武力の背景があれば安心感が違う。留守の城を守る上でも有用だ。
 彼らは、成利が圧迫感を感じないように、付かず離れず成利を守ることになる。

「それでは、私は四国へ戻ります。もし何かあれば、葉月に言ってくだされば、すぐに伝わります。まことお手数なことではありますが、後をよろしくお願い申し上げます」
「こちらこそ過分のご配慮申し訳ございません。結城殿もお気を付けて、ご武運をお祈り申し上げます。久世様には、どうかよろしゅうお伝えください」
 結城は、全てを整えた安心感を胸に、四国へと再び出陣して行った。

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