湖畔の城―地獄の中で生まれた純愛

梅川 ノン

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13章 松川滅亡

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 義政は、久世の予想通り離れ屋にいた。
 これだけの大軍に囲まれた絶望的な状況で、切腹も出来ずにいた。とりあえず本丸を出て、この離れ屋に移った。そして落ち延び、甲斐を目指そう、そう思った。ここからなら、敵に見つかることはないと思ったのだ。
 突然踏み込んで来た敵兵たちに、義政は驚愕した。余りの驚きに、腰を抜かして満足に立てないところを、取り押さえられた。
「こいつ、何者だ! 身なりがいいな。まさか、お前が義政か?」
 取り押さえた兵が、興奮の面持ちで言う。
「殿の前に連れていけ! そいつらもだ」
 義政と、側にいた三人が、引きずられるようにして、久世の前に連れて行かれた。

「殿! この四人が中に潜んでいました!」
 久世は四人の顔を、一人一人検めた。そのうちの一人は、間違いなく、義政その人だった。この顔を忘れたことはない。

「義政、久しぶりじゃな」
 義政は、恐怖に震えながら、激しく混乱した。何故自分が、義政と分かる? 久しぶりじゃと……津田家中の武将と会ったことは一度もないはず。殿と呼ばれたが、こいつは何者じゃ?
 久世には、義政の混乱が、手に取るようにして分かる。
「わしは佑三じゃよ、忘れたか」
 義政が、はっと目を見張る。
「久世佑三長澄、それが今の我が名じゃ」
 義政の目の開きが更に大きくなる。余りの驚きに声も出ないようだ。久世の名は知っていた。津田家中で台頭著しい武将だとの認識もあった。
 が、その久世が佑三?! 佑三は我が松川家の下男だぞ! 父の討ち死に乗じて出奔した恩知らず。
 なぜ佑三が、久世などという大物武将になっているのかは分からない。しかし、同時にこれで己は助かる、愚かにもそう思った。
 久世が佑三だからこの離れ屋に来たのだろう。恩知らずに出奔したものの、やはり昔の恩義は感じているのか、昔の主である自分を助けるために、そう思ったのだ。
「仙千代も覚えているか? 元気にしておる。今頃我が城で、そなたの首が届くのを待っておるぞ」
 義政は愕然とした。今の久世の言葉で己の最期を知ったのだ。
「中将様に知らせろ! 義政の身柄確保したとな」

 義政は、総大将津田朝行の前に引き立てられた。
「これが松川義政か。そのような所に隠れていたとは、情けない。切腹する気概もないのか。さすがは武蔵守、よう気づいてくださった。取り逃がすところじゃった。そうなれば、総大将として父上に顔向けできんところじゃった」
「拙者も上様に面目が立ちまする。取り逃がしたら、そなたを従軍させた甲斐がないと、お叱りを受けるところでございました。で、どのような処遇になさいますか?」
「切腹して果てるなら、それなりに遇せねばならぬが、隠れ潜んでいるとは、武士の風上にも置けぬ情けなさ。磔が相当と思うが」 
 やはり、久世に確認するように言う朝行に、久世は頷きで応えた。異論は全くなかった。

 義政と、一緒にいた三人の合わせて四人が、磔にされた。室町時代の守護大名から続く名門松川家の終焉だった。

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