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後日談01(前野視点)
しおりを挟む目の前にあるウッドブラウンのローテーブルが、夕陽に柔らかく照らされている。視界の端には、丁寧に設えてあるシングルベッドが見えた。充満する生活感に、鼓動が跳ねる。
俺は今、間違いなく人生で一番緊張している。誤解をといて、お付き合いをはじめてから二週間。ついにあの涼ちゃんから、自室へ招かれたのだ。
少し離れた場所から聞こえる、フライパンを振るう音に耳を傾けながら熱く息を吐く。俺も手伝いたい、というか本音を言うと、片時も離れたくなかったが、台所に入るや否や「前野に美味しいものを食べさせたい。集中したいから、あっちで待っててほしい」と真剣な表情でお願いされてしまった。
涼ちゃんからのお願いに、俺は滅法弱い。今日だって、アルバイトの予定があったにも関わらず、講義が終わって涼ちゃんに部屋へ誘われたとき「行く」と即答してしまった。
直前になって欠勤の連絡を入れたから、店長に苦言を呈されてしまったけど、ああ、でも仕方ないよな。こちらが求めさせようと躍起になってしまうほど奥手だった恋人が、ついに自分から求めてくれるようになったんだから。
今までの涼ちゃんは、どこか寂しそうな表情で俺に奉仕するばかりで、自分から求めるようなことは一切しなかった。もしかしたら、俺のことなんて然程好きではないのかもしれない。なんて見当違いな考えがよぎるほどに。
艶やかな黒髪に、明るく透き通った肌。涼しげな目元が印象に残る高潔な顔立ちとは裏腹に、気さくでどんな話題にも楽しそうに応じる。そんな涼ちゃんの周りには、常に軽薄そうな男たちがいて、彼らはよく猥談に花を咲かせていた。漏れ聞こえてくる話を聞いて俺は下品だと思っていたけど、涼ちゃんは侮蔑せず相槌を打つ。たまに少し困ったように笑うのを、俺は見逃さなかったけど、男たちは気づいていないようだった。
懐かしい。あの頃は、よくあいつらに嫉妬してたっけ。俺はまだ、下の名前を呼ばれたことすらないのに、って子どもみたいに唇を尖らせて。
だから今、誤解を解くことができて、やっと涼ちゃんが気兼ねなく接してくれるようになったことが本当に心から嬉しかった。
もちろん、涼ちゃんに勘違いをさせていた俺の今までの行いは到底許されるものではない。これからは、たくさん自分の気持ちを言葉にして撫でて、抱きしめて、死ぬまでずっと、何年もかけてだいすきだって伝えていくんだ。
それにもう身体目当てだと思われるのは御免だから、今日は優しくキスをして大人しく帰ろう。
台所から、涼ちゃんが歌を口ずさんでいるのが聞こえる。かわいい。すごくかわいい。俺はもうそれだけでたまらない気持ちになって、駆け寄って、抱きしめたくなってしまう。
でもきっと、この衝動に身を任せてしまったら、エプロン姿のかわいいかわいい涼ちゃんを食べてしまうと思う。頭のてっぺんから爪先まで、舐めて吸って噛んで、余すことなく平らげてしまう。
それはだめだ。今日は優しくキスをして、大人しく帰るんだ。絶対に。決意を固めるように、俺はぐっと小さく拳を握った。
(続く)
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