I-State (侵略国家)

エス

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VS北夕鮮・尖閣諸島編

第31話:世界最悪⑤

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――え、いつの間にこんな近くに――

カンナは、日ノ国刀を構え――

いや、相手が武器を使用しないなら、構えることすら禁止されていた。

えーと、徒手格闘……古流柔術なら使っても良いんだっけ?

――とりあえず、両手を構えた。

 

――オウカは、カンナを見た。

カンナが普段の実力を出せたとしても、勝てるかどうかわからないのに、こんな状態で勝つのは――

 

2人組は、ゆっくりと歩いてくる。

カンナは、小刻みに震え始めた。

120メートル間隔で離れている他の味方は――同じく敵と向かい合っている可能性が高い。

低く偽った実力のままでは――負ける。

 

――25メートルほど前方の2人組は、無表情で近づいてくる。

男の方は、女よりやや後方にいる。

2人組は、両手には何も持っていない。

だが、長袖に隠された前腕などに、何かを仕込んでいる可能性は高い

 

――20メートルほどの距離に近づいてきた女。

2人組は、両腕の長袖をまくった。

”何も仕込んでませんよ。ご安心ください” と言わんばかりに。

――カンナは、小刻みに震え続けている。

 

――女との距離、

10メートル。
7メートル。
4メートル。

 

――赤マーカーを従えた女は――優しい微笑みを、浮かべた。

「こんにちは。あなた大丈夫?具合が悪そう。」

カンナは、目を丸くしている。

「大変よね。こんな状況になって……」

女は、優しい微笑みを継続する。

カンナは、数秒間 黙っていた……が、突然 何かが込み上げてきた様に、堰を切って言葉が溢れてくる。

「はい……はい!そうなんです!」

 

――女はニコっと笑って、左脚のカーゴポケットに左手を伸ばし……ゆっくりと、何かを取り出す。

オウカは、男の動向に注意しながらも、女の両手を注視する。

女が取り出したのは――武器!……ではなく、絆創膏ばんそうこう。

左手で、絆創膏をカンナに差し出そうとしている。

「はい。首の右側から血が出てるわよ」

反射的に、右首すじに手を添えるカンナ――

 

-ヒュッ- -ドッ-

女の右手には、銀色の細い棒が握られ、それをカンナの首めがけて――

――と、同時。

女の右手に――

死角となるベルト後部に仕込んでいた暗器を握った、女の右手には――

カンナにも見慣れた、黒い鉛筆のような棒が刺さっていた。

オウカが放った棒手裏剣。

 

「……痛ツゥッ……!」

女は、右手の甲に棒手裏剣を生やし、反射的に三歩、後退した。

右手から鮮血が流れ始めた。

――微笑みは、怒りの表情に変わる。

 

――オウカは、カンナを庇う様に立ち塞がる。

女は、カンナの首を狙った――殺意があった。

しかし、国衛隊上層部からの指示では――誰かが殺されない限りは、決して殺してはいけない。

だからこそ、明らかに殺意を持つ相手でも、手の甲に手裏剣を撃った。

 

首を狙えば、無力化――

――殺せていた。

 

――女は、右手の甲から血が滴る棒手裏剣を、左手で抜く。

その痛みで、女の口から息が漏れた。

――左手をベルト後部に伸ばし――左手にも同じ武器を持った。

先程まで後方で微笑んでいた男も、殺意を湛えた表情を露わにし――両手に、女と同じ武器を持った。

銀色に輝く、金属製の棒……が、その手に握られている

 

――暗器・峨嵋刺がびし。

怪しい輝きを放つ細い棒の先端は 鋭く尖っており、主に刺突用の暗器。

状況によっては、関節技を極める事も可能だ。

敵二人は、中指にはめたリング──を起点に 30センチ超の銀色の棒を くるくる、と回転させている。

 

-フオッ-

瞬間、男がオウカに向かって踏み込んできた

――と同時、女は峨嵋刺を持ったままの右手で、棒手裏剣を構え――オウカの顔面に向けて投げた。

反射的に躱そうとする――が!その先には、カンナが棒立ちのままだ。

カンナに当たってしまう――

 

-バチィッ!-

――棒手裏剣を右手で弾き飛ばしたオウカの目の前には、男が近づいていた。

右手に持った峨嵋刺の鋭い先端をオウカの首めがけて突き出してくる。

 

-ヒュッ- -ドボッ-

「グアゥッ!」

首への刺突を躱しつつ、左拳で――男の腹に突きを入れたオウカ。

――男は よろめきながら後ろに下がろうとする。

追撃すべく、踏み込むオウカ――

 

-ヒュッ-

女が同時に踏み込んできて、牽制するようにこれ見よがしに峨嵋刺を突き出した。

オウカは足を止め、2人と向かい合った。

膠着。

 

――もっと強く撃つべき、本気を出すべきだったか?

カンナはこんな状態だし、後から いくらでも誤魔化せる……多分。

いや、本気を出して敵軍に警戒されるリスクを考えると……。

なにしろ、現段階では口封じできない――殺せない――のだから。

 

――男は、憐れむような眼で、厳かに言葉を発する。

「もし、君たちが真実を理解してしまったら」

──?

「”何故、北夕鮮に生まれなかったんだ!”……と嘆くだろう」

──陽動か──

「同じ世界を生きながら ”最悪だ!” と、この世界に絶望するだろう」

女の方に、動きはない。

「だからせめて、慈悲を込めて──」

 

――オウカは、震え続けているカンナを見た。

とても戦える状況ではない。

何をどう話しかけら良いか、わからない。

 

――こんな精神状態のカンナは、正常な判断は難しい。

私が普段より速く強く戦っても、それは心神喪失による錯覚だと誤魔化せる。確実に!

低く偽った実力を、解除すべき――

 

――カンナは、左腕の手甲から、右手で棒手裏剣を抜き取り――構えた。

逆手。

投げるには適さない、拳を振り下ろすような刺突に適した持ち方だ。

――”拳を振り下ろすような刺突” に。

 

「カンナ、大丈夫だ。ここは私に任せて カンナは――」

――カンナは ゆっくりと、そして深く息を吐いている。

「カンナ?」

ゆっくりと、おもむろに棒手裏剣を握った右拳を上げ……

──自分の左手の甲を目掛けて、振り下ろした。

ぬちゃっ、と、小さく嫌な音がした。

 

カンナの可愛らしい顔は、オウカが見たこともないような――怒気に溢れていた。

 
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