I-State (侵略国家)

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VS北夕鮮・尖閣諸島編

第39話:正眼③

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カンナとヨハンの距離は、10メートルに満たない。

カンナは、ヨハンの動きを見て、直感した。

――アタシが万全の状態で挑んでも、到底敵わない相手であると。

ヨハンは、カンナに正対した。

 

――カンナは日ノ国刀を抜き、構えを取った。

柄を両手で握り、切っ先を相手に向ける――正眼の構え。

国衛隊の候補生として剣術鍛錬を初めて受けた時に、教わった基本の構えだ。

最初は、”正眼の構えが、かっこいい” などという表層的な理由がキッカケで、剣術に興味を持った。

程なくして、同じく候補生の侍族の女の子と仲良くなり、侍族の鍛錬場へと通って、プライベートでも剣術を学ぶ様になった。

その後、侍の精神を知り、心の奥底が共鳴した様な感覚に突き動かされ、”侍になりたい” と思ったのだ。

――そして、国衛隊の正規隊員として、今ここにいる。

 

……数秒間が経った。

相手が……動かない?

あ、相手の身体が少しだけ下に沈んだ……?

――カンナの眼前に、ヨハンがいた。

……え?

-ズチャぁ-

龍泉剣が、カンナの右肩を貫いた。

小さく呻きながら、痛みで反射的に、カンナは後ろに飛び……着地に失敗。

ずちゃあ、と 地面に倒れた。

右肩が焼かれた様に熱くなり、赤い血が あふれ出した。

 

――ヤバい!!

こんな近くに来るまで、気づけなかった。

相手に悟られずに距離を詰める技術――日ノ国の古武術で、剣術で言う ”縮地”

アタシも鏡の前で幾度も繰り返して、かなり上達したかな……と思っていた。

だけど、この男とアタシとでは――明らかに練度が違う。

ヨハンは追撃もせず、地面に倒れたままのカンナに ゆっくりと近づいてくる。

 

――カンナは、ゆっくりと立ち上がる。

その右腕は、ロクに動かない。赤く染まり、だらん、と力なく垂れている。

 

――ヨハンは立ち止まる。

切っ先がカンナの血で染まった龍泉剣を右手に握り、カンナを静かに見据えている。

 

カンナは、利き腕でない左腕一本で、日ノ国刀を握った。

一歩ずつ、ヨハンに近づいていく。

そして、ヨハンに向けて日ノ国刀を振った。

-ぶんっ-

あっけなく、躱された。

 

――明らかに、ヨハンの方が格上。圧倒的に。

ヨハンは、間合いを詰め――

-ヌチャッ-

カンナの右脚の太腿を、龍泉剣で刺した。

「あ……」

カンナは、右肩と右太腿の激痛に悶えながら――右手に握っていた日ノ国刀を、地面に落とした。

よろめきながら、近くの樹に、どさっ、と もたれかかる。

樹の上にいた鳥が、ちちちっ、と鳴きながら飛び立っていった。

 

――カンナは左手で、力なく垂れている右腕を抱える。

……様な動作をしつつ、右腕前腕の手甲に手を伸ばし、棒手裏剣を取り出した――

ヨハンは、眼前――3メートルも離れていない!

-ぱしっ-

カンナが全力で、最速で投げた棒手裏剣が――いとも簡単にキャッチされた。

こんな近い距離で……。

 

-ズドッ-

ヨハンの前蹴りが、カンナの腹部に深く食い込んだ。

――地面へと倒れていくカンナは、理解せざるを得なかった。

この男には勝てない。逃げることもできない。

 

「――アタシを殺すの?」

ヨハンは、カンナを真っすぐに見据えながら、口を開く。

「……君が北夕鮮に生まれていたら、僕の部下として共に戦っていたかもしれない。

来世は、北夕鮮で共に戦おう」

カンナは、その言葉を聞き――どこか、安心?……したような表情を浮かべた。

「よかった。無駄死にじゃない、糧になる」

「そうだな……総統に祈りを。幸福に包まれながら逝くんだ」

 

カンナは、にやっ、と笑みを浮かべながら――よろめきながら、立ち上がった。

「殺されるのが……弱いアタシで良かった。」

「……?」

ヨハンは、その爽やかな顔に 怪訝な表情を浮かべる。

再びカンナは、左手一本で日ノ国刀を握り――構える。

「アンタらから日ノ国を護る意志は、生きる。

……アンタらの総統?クソ喰らえ、だ」

おそらくは人生で初めて、汚い罵倒の言葉を吐いたカンナ。

その左手の甲からは 再び血が、どくどく、と流れ出している。

「……残念だ」

カンナは、ヨハンを真っすぐに見据える。

 

「――日ノ国は牙を剝く。

弱いアタシが アンタに殺されれば、強い仲間達が アンタらを殺してくれる」

ヨハンは無言でゆっくりと、剣の切っ先をカンナに向ける。

そして、前進する。

 

――数秒後、あの剣がアタシの身体を貫く。

痛いだろうなぁ。

怖いなぁ。

……今からでも、謝ったら 許してくれるかなぁ。

 

――カンナは、剣術を初めて習った日から、今までの記憶を、走馬灯の様に思い出していた。

侍族の女の子達と遊んだ。侍族の女教官が厳しく優しく指導してくれた。同期生たちとも沢山話した。

そして、今日。

震えるだけだった自分を、エレナが支えてくれて、そしてオウカが導いてくれた。

――オウカもエレナも、アタシと同い年なのに、凄いなぁ。アタシも、2人みたいに――

 

カンナは、ヨハンを、北夕鮮を、この国の平和を脅かす敵を――敵意を持って、見据え続ける。

――そして、前へと歩を進める。

「アタシの君主は――日ノ国だ」

 

――17歳の侍・カンナ。

尖閣諸島 魚釣島に散る。

 
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