I-State (侵略国家)

エス

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VS北夕鮮・尖閣諸島編

第57話:志思累々②

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――敵兵2名の戦闘不能を、確認したオウカ。

突如、がくっ、と膝から崩れ落ちそうになった。

”…………え?”

なんとか、中腰で踏みとどまり、尻もちを付くのは避けた。

体力的には、まだまだ全然平気なはずだ。

しかし精神的には――カンナの死 以降、深層意識と顕在意識がぶつかり合い続け、オウカが自覚する以上に、疲労が蓄積していた。

精神は、肉体にも影響を与えるのだ。

――ヤバい!

オウカは、自分の全身に――鉛の様な重さを感じていた。

 

――――マキの心身の疲労はピークに達していた。

味方が交戦状態ならば、可能な範囲で悪路を走って現場へと駆けつけ、加勢。

加えて、国衛隊の味方の指揮を執るために思考を回転させ続けていた。

 

――対して、ヨハンはどうか?

この島での交戦は、侍・カンナを葬った一戦のみ。体力消耗は少ない。

加えて、北夕鮮軍の味方の指揮についても、思考力消耗が少ない。

――魚釣島への上陸・戦闘行為も、あらかじめ計画されていた。

つまり、あらかじめ指示された・熟考したパターンの中から選択し……それをあらかじめ作戦の大枠を周知されていた味方へと伝えるだけだ。

実にスムーズに指令が伝わり、実行される。

つまり、ヨハンに比べてマキは、心身の疲労の度合いが圧倒的に高い。

 

それを自覚しているマキは……にやっ、と笑いながら、右手に握る日ノ国刀を振り下ろした。

その眼前には――マキの戦術を卑怯と断じたヨハンの、怒りを湛えた表情があった。

-ギィンッ-

マキの斬撃を、その両手に握る龍泉剣で受けるヨハン。

……の顔面めがけて、そのまま突進するマキの左拳が伸びていく。

”絶対に、ここで仕留める!”

 

-ゴツンッ-

ヨハンは、頭部を全力で前へと振り――自らの額を、マキの左拳にぶつけた!

相手の拳を、額で受けて破壊……したハズだった。

ヨハンの視界に、火花が散った。

……え?

なんだ、この感触は……まるで、拳の大きさの……自然石。

くらっ、と千鳥足になったヨハンの思考が、一瞬だけ中断された。

 

その視界に――再度、左拳を繰り出すマキの姿が映った。

……足が、動かない……避けられない……。

刹那、ヨハンが選択した行動―― ”自ら倒れる”

 

-ブンッ-

マキの左拳が、空を切る。

「あ?」

イラついたマキの視界、右下に向かって倒れていくヨハン。

どさっ、とロクに受け身も取れずにその身体は、叩きつけられた。

左手は、側頭部を守る様に添えられ――同時に その右腕を、振りかぶっていた。

横一文字に倒れたヨハンの右手に握られた龍泉剣が、マキの右脚を襲う!

 

-ジャッ-

とっさに後ろに飛んだマキ……の、右脚の表面を龍泉剣の先端が通過した。

「痛ゥッ……!」

じわぁ、とマキのズボンに血が滲んでいく。

 

”畜生、仕留められなかった――”

そんな表情を浮かべるマキの呼吸が、明らかに荒くなった。

「はあ……ぜはあぁっっ……」

過去、キックボクシング・直接打撃制空手を鍛錬した経験で鍛え上げられた――その左拳が、ジンジンと痛みを発し始めた。

”身体が……動かねぇ……”

残り少ない体力を さらに消費したマキの視界に……音も無く立ち上がる、ヨハンの姿が映った。

 

――――オウカは、その光景を見ていた。

マキ部隊長に、加勢しなければ。

だが……精神が、身体が、ひどく鈍重だ。

一歩踏み出すのさえ、億劫に思えてしまうほど。

オウカは、日ノ国刀を構えてヨハンへと歩を進めようとしている。

――瞬間、オウカの視界には――剣を振りかざし自分へと突進してくる、敵兵の姿が映った。

 

-ギィンッ-

マキの右側から、刀剣同士の衝突音が響く。

オウカ隊員と北夕鮮兵が、鍔迫り合いをしている。

それを一瞥もせず、ヨハンの冷たい視線は、マキを見据えている。

 

ヨハンは、龍泉剣の切っ先をマキの首へと向けた。

「君は、よく戦った……その卑怯な戦い方は、軽蔑するが」

「日ノ国の領海に土足で踏み込んだのは、テメーらだろが」

マキは、日ノ国を鞘に納め――居合の構えを取る。

 

……もし、1対1だったなら、一秒でも長く会話を続けて、体力回復を図っていただろう。

だが、そうもいかない。

ワタル隊員が、出血多量・意識不明の重体だ。事は一分一秒を争う。

 

……それに、今にも倒れそうな私を見て――ヨハンはスカした表情をしている。

どこかでカッコつけている。即ち……油断している。

それに引き換え私は――崖っぷち。油断など、微塵もない。

誰かが、言っていた。

”手負いこそが最強”

マキは――怒りと暴力性、そして人間の――原初の獣性を湛えた表情を浮かべた。

こいつを――ブチ殺す!!
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