155 / 425
三章 雫ポイズン
歪
しおりを挟む
だから部屋の中に閉じこもった。
たたく音がどんどん激しくなり、ドアが壊れてしまいそうなほどたたかれる。
僕は毛布の中で小さく丸まった。
身を護るように、自分の体を抱きしめた。
ふるえを抑えるように。
しばらくすると、音が止んで、女の声がした。
「ドアを開けなさい。お母さんよ」
お母さん。
その単語を聞いた途端、走ってドアを開けた。
目の前にいたのは橙色の瞳を持った女性がそこにいた。
ツカツカと音を立てて部屋に入ってくる。
そして、僕の首を絞めた。
突然の事で全く分からなかった。
ただただ怖かった。
体が動かない。
少しずつ、少しずつ、真綿で首を絞めるように、僕の首を絞めた。
「あなたのお父さんが悪いの。私じゃなくあの女を選んだから」
脳への酸素が少しずつ減っていく。
「私はお腹の中の赤ちゃんまで犠牲にしたというのに。あなたも死ぬべきよ。あの人の子供なんだから。あの女の子供なんだから」
僕は何も悪くないじゃないか。どうして僕の所為にするんだ。
あぁ、視界がチカチカする。
世界が赤く染まる。
もう何も考える事ができない。
視界が赤と青で埋めつくされた。
荒くなった息を落ち着かせながら、首を抑える。
大丈夫だ、息が出来る。
今体験した恐ろしい夢は一体何だったのだろう。
あれはきっとトラウマだ。
彼の中に入っているトラウマの一つだ。
あそこまで恐ろしい体験を自分がしたら、きっと嫌でも夢に見るだろう。
そう思うとただただ怖かった。
それと同時に、喜んでいる自分がいた。
あそこまで悲惨な過去と生活は、きっと自分と通じるところがあるんじゃないかという、浅ましい願望だった。
同族なのではないかという喜びだった。
そんな事、喜んではいけないのに、嬉しいと思ってしまう。
そんな自分を歪んでいると思ったけれど、否定し切る事が出来ずにいた。
そうだ、僕は歪んでいる。
あの日々に彩られた精神は、常人に比べたら歪んでいる。
それでも別に良かった。
いくら歪んでいようと、いくらおろかでも。
それでもきっと許される。
きっと同じこの子なら許してくれるだなんて思ってしまった。
期待してしまったのだ。
望んでしまったんだ。
せめて夢の中でだけは、気持ちよく寝て欲しい。
そう思って魔法をかける。
トラウマを封印する為に、鍵をかけた。
すると、少しずつおだやかな顔へと変化していった。
その様子を見て、安心して隣で寝る事にした。
この魔法は触れていないと発動しない。
たたく音がどんどん激しくなり、ドアが壊れてしまいそうなほどたたかれる。
僕は毛布の中で小さく丸まった。
身を護るように、自分の体を抱きしめた。
ふるえを抑えるように。
しばらくすると、音が止んで、女の声がした。
「ドアを開けなさい。お母さんよ」
お母さん。
その単語を聞いた途端、走ってドアを開けた。
目の前にいたのは橙色の瞳を持った女性がそこにいた。
ツカツカと音を立てて部屋に入ってくる。
そして、僕の首を絞めた。
突然の事で全く分からなかった。
ただただ怖かった。
体が動かない。
少しずつ、少しずつ、真綿で首を絞めるように、僕の首を絞めた。
「あなたのお父さんが悪いの。私じゃなくあの女を選んだから」
脳への酸素が少しずつ減っていく。
「私はお腹の中の赤ちゃんまで犠牲にしたというのに。あなたも死ぬべきよ。あの人の子供なんだから。あの女の子供なんだから」
僕は何も悪くないじゃないか。どうして僕の所為にするんだ。
あぁ、視界がチカチカする。
世界が赤く染まる。
もう何も考える事ができない。
視界が赤と青で埋めつくされた。
荒くなった息を落ち着かせながら、首を抑える。
大丈夫だ、息が出来る。
今体験した恐ろしい夢は一体何だったのだろう。
あれはきっとトラウマだ。
彼の中に入っているトラウマの一つだ。
あそこまで恐ろしい体験を自分がしたら、きっと嫌でも夢に見るだろう。
そう思うとただただ怖かった。
それと同時に、喜んでいる自分がいた。
あそこまで悲惨な過去と生活は、きっと自分と通じるところがあるんじゃないかという、浅ましい願望だった。
同族なのではないかという喜びだった。
そんな事、喜んではいけないのに、嬉しいと思ってしまう。
そんな自分を歪んでいると思ったけれど、否定し切る事が出来ずにいた。
そうだ、僕は歪んでいる。
あの日々に彩られた精神は、常人に比べたら歪んでいる。
それでも別に良かった。
いくら歪んでいようと、いくらおろかでも。
それでもきっと許される。
きっと同じこの子なら許してくれるだなんて思ってしまった。
期待してしまったのだ。
望んでしまったんだ。
せめて夢の中でだけは、気持ちよく寝て欲しい。
そう思って魔法をかける。
トラウマを封印する為に、鍵をかけた。
すると、少しずつおだやかな顔へと変化していった。
その様子を見て、安心して隣で寝る事にした。
この魔法は触れていないと発動しない。
0
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。
キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。
声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。
「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」
ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。
失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。
全8話
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる