どうしようもない僕は報われない恋をする

月夜

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三章 雫ポイズン

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だから部屋の中に閉じこもった。
たたく音がどんどん激しくなり、ドアが壊れてしまいそうなほどたたかれる。
僕は毛布の中で小さく丸まった。
身を護るように、自分の体を抱きしめた。
ふるえを抑えるように。
しばらくすると、音が止んで、女の声がした。
「ドアを開けなさい。お母さんよ」
お母さん。
その単語を聞いた途端、走ってドアを開けた。
目の前にいたのは橙色の瞳を持った女性がそこにいた。
ツカツカと音を立てて部屋に入ってくる。
そして、僕の首を絞めた。
突然の事で全く分からなかった。
ただただ怖かった。
体が動かない。
少しずつ、少しずつ、真綿で首を絞めるように、僕の首を絞めた。
「あなたのお父さんが悪いの。私じゃなくあの女を選んだから」
脳への酸素が少しずつ減っていく。
「私はお腹の中の赤ちゃんまで犠牲にしたというのに。あなたも死ぬべきよ。あの人の子供なんだから。あの女の子供なんだから」
僕は何も悪くないじゃないか。どうして僕の所為にするんだ。
あぁ、視界がチカチカする。
世界が赤く染まる。
もう何も考える事ができない。
視界が赤と青で埋めつくされた。

荒くなった息を落ち着かせながら、首を抑える。
大丈夫だ、息が出来る。
今体験した恐ろしい夢は一体何だったのだろう。
あれはきっとトラウマだ。
彼の中に入っているトラウマの一つだ。
あそこまで恐ろしい体験を自分がしたら、きっと嫌でも夢に見るだろう。
そう思うとただただ怖かった。
それと同時に、喜んでいる自分がいた。
あそこまで悲惨な過去と生活は、きっと自分と通じるところがあるんじゃないかという、浅ましい願望だった。
同族なのではないかという喜びだった。
そんな事、喜んではいけないのに、嬉しいと思ってしまう。
そんな自分を歪んでいると思ったけれど、否定し切る事が出来ずにいた。
そうだ、僕は歪んでいる。
あの日々に彩られた精神は、常人に比べたら歪んでいる。
それでも別に良かった。
いくら歪んでいようと、いくらおろかでも。
それでもきっと許される。
きっと同じこの子なら許してくれるだなんて思ってしまった。
期待してしまったのだ。
望んでしまったんだ。
せめて夢の中でだけは、気持ちよく寝て欲しい。
そう思って魔法をかける。
トラウマを封印する為に、鍵をかけた。
すると、少しずつおだやかな顔へと変化していった。
その様子を見て、安心して隣で寝る事にした。
この魔法は触れていないと発動しない。
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