どうしようもない僕は報われない恋をする

四章 雪闇ブラッド

第十二話

そう考えることもできるし、脳がなければ魔法を扱う事が出来ないから。
だから脳を一番重要な器官として定義している。
脳というものは人類の中でもかなりブラックボックスのものなのだ。
なぜかといえば、脳を弄繰り回すという行為は色々な影響を生むのだから。
人格破損、能力開花、人間的退化。
挙げれば挙げるほどきりがない。
そのパンドラの箱を弄繰り回すわけだから。
相当の無理と極度の緊張が付きまとうことだろう。
「それにしても本当に理久も無理したなぁ。記憶弄繰り回すのは僕でも怖いっちゅーのに。しかもあの年でやろ？鋼の心臓でも持っとったのか…」
「…、ね、本当に理久だけの力だったのかな。俺さ、ずっと引っかかってるんだよ。いくら突発的とはいえさ、そう簡単にあいつが踏み込めるのかって」
当時の理久は、まだ八、九歳。
幼いのだ。
呪いの力である程度成長しているとは言え、そこまで高位な物を扱えていただろうか。
扱えていたにしろ、記憶魔法なんてものを使えるのだろうか。
自身の力を誰よりも嫌っていたあの頃の理久が。
魔法を使うたびに苦い顔をしていた理久が。
今でこそ多少なりとも克服してまともに扱えるようになっては来ているが。
仮に使えたとしても、そう簡単に使うだろうか。
失敗すれは死ぬ可能性だってあるというのに。
そんなリスクを背負ってでも消すべき記憶だったのだろうか。
「…、雪。廃人になる可能性は提示せぇへんのな。僕らにとっては最高の選択肢でも、凪にとっちゃ最悪の選択肢やろ。おぞましくて、恐ろしい選択肢」
「いいんだよ。このまま永久的に生きるより、その方がまだマシだ。むしろ救いなんじゃない？」
理久が桁違いなだけで、俺らだっていつか死ぬのだ。
命あるものはいつか朽ちてしまう。
吸血鬼は基本死なないとはいっても弱点を突かれたら死ぬ。
だから限定的な不死。
理久は相手の時間を奪って寿命を増やしているから、時間内であったら死なない。
そんな理久だったら、廃人の可能性もリスクとしてあげるんだろうな。
でもさ、もし何かの手違いで死んでしまったら？
俺たちはそのもしもがありえてしまうんだから。
そしたら、取り残してしまうじゃないか。
また独りぼっちにさせてしまうじゃないか。
一人は嫌だと泣いていたのに。
そんな事はしたくない。
そんなことはあっちゃいけない。
仮になるとしても防ぎたい。