どうしようもない僕は報われない恋をする

月夜

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四章 雪闇ブラッド

見たくもない現実に蓋をして

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「多分僕もう死んだことにされてると思う。だってその方が父さん母さんの周囲の人間が楽だから。きっとあいつら普通に僕を殺すよ。僕を死んだことにするよ。時期的にもちょうど良いだろうしね」
なんて言った。
でも、凪の瞳が少し潤んでいて。
体が少し震えている。
「怖いんだよ。僕のこの考えが当たっていそうな気がするんだ。戻った時には僕の居場所なんてもうなくて。僕は人間として扱われなくなって。ずっと苦しむことになるような。そんな予感がするんだ」
凪もずっと苦しんでいたんだ。
そりゃそうだよな。
俺らまだ子供だもの。
本当はそうやって苦しむものだもんな。
そう思って。
凪を抱きしめた。
どうして抱きしめたのかわからない。
キスの時と同じく反射的に抱きしめていた。
抱きしめてあげなきゃ壊れそうな気がして。
壊れてしまったら嫌だから。
その苦しみを分けてもらうことは出来ないかもしれないけど。
抱きしめたり、触れたりする事で凪の苦しみを和らげる事ができたらと思ったから。
「僕、怖いんだよ!凄く凄く怖いんだよ!だってさぁ、僕ここの魔界でも歓迎されてないじゃん?ならさ、帰らなきゃ良いって思った。僕の本当の居場所を消すくらいなら見ないふりしてユートピアみたいなとこだと思えば良いって思ったんだ」
俺の肩に生暖かい液体がポタポタと落下する。
きっとこれは凪の涙だ。
とても綺麗な。
綺麗な綺麗な凪の涙。
それがとめどなく俺の肩を濡らす。
俺はただ凪の頭を撫でてやることしかできない。
「シュレティンガーの猫って知ってる?昔行われた実験なんだけどね。箱の中にスイッチがあって、そのスイッチを押すと毒ガスが出ちゃう。そんな箱を密閉状態にして、その中に猫を入れるんだ。すると、箱を開けなきゃ猫がスイッチを押したかわからない。つまり箱を開けるまで猫が死んでいるか生きてるかわからない、そんな実験」
そう凪が紡ぐ。
その実験なら俺でも知っていた。
それを提唱し、実験した男が、動物への虐待だと世間から責められていたっけ。
その挙げ句の果てに自殺だとかいう後味の悪い結末だった気がする。
結局、男が箱を開ける前に死んでしまったから。
箱は開けられていない。
男を責め立てた世間の人間も。
男の身内も。
その箱を開けたいと思わなかったのだ。
だからその箱はどこかに安置されているらしい。
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