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美空編

不協和音

先輩と朝登校して、一緒にお弁当を食べて、放課後になったら部室に向かう。
キャンバスに向かいあって、鉛筆で描く線一本一本に集中する。
すると自然に音が消えて行き、世界は無音となる。
無音の世界の中で俺は一心不乱に筆を振るうのだ。
キャンバスの中で微笑むのは凪先輩。
初めから彼以外を描く気なんてない。
それでも、その絵を皆が賞賛するから、定期的に描きに来ている。
賞を取れば凪先輩に褒めてもらえるし。
今日も同じように描いていれば、
「本当描くのが好きだねぇ、美空は」
茶髪に橙色の瞳を持った生徒が入ってきた。
「輪廻は絵心とか皆無だからなぁ。てかまだやってるの？お人形遊び」
「...どういうこと？」
「やだなぁ言葉のまんまだよ。独りよがりなお人形遊びは未だに続いてんのって聞いてるの」
「俺はお前と違って人形で遊ぶ趣味がないんだが」
「あーもー...そう言う意味じゃないんだけどなぁ...」
ため息を吐きながらこの部屋から出て行った。
何だったんだろう。
そう思っていたら、顔だけこっちに出して言った。
「ねぇ知ってる？享楽も嘘で成るの。平穏は消耗だけれど。その意味わかるよね？」
自分にとっての快感。
つまり享楽は自身についた嘘から作られる。
どんなに嫌なことだろうが、自分にとって楽しいと嘘をつけばどんな苦行も享楽に変わると言うことだ。
そんなことを俺に聞かせて何するつもりなんだろう。
分からないや。
俺は部室を出ていつも通り凪先輩の教室へと向かった。
何故か、いつもより早鐘を打つ心臓と不安定な精神と共に。