フスマのスキマ

いつも唐揚げ定食です。

文字の大きさ
1 / 1

フスマのスキマ

しおりを挟む
 母親の鼻歌がかすかに聞こえてきた。調理をする音も、いつもよりリズミカルに響いていた。
依子は今日が特別な日であることを察知していた。学校から帰ると、母親はしっかり化粧をしていたし、玄関に生け花が飾ってあった。いつもは花なんてないのに、と依子は心の中でつぶやいた。
「お母さん」
依子は半身だけ乗り出して、母に声をかけた。
「何?依子」
母親の広角は上がり、声は何オクターブも高く聞こえた。
「お夕飯は何?」
「ハンバーグよ、ヨリちゃんも好きな」
「やった!ハンバーグ、私好きだもの」
依子この時確信した。今夜、彼女の父親が単身赴任先から帰宅するのだ。建設会社に勤務する父親は、一年のほとんどを単身赴任しており、盆と正月しか帰宅しないことも当たり前になっていた。ただ、赴任先が変わるときには、数日だけ帰宅することがあった。これはあくまで会社の都合であったため、父親でさえ予測できるものではなかった。父親は急に帰宅するときは、決まって母親に対して、依子には内緒にするよう言い含めておくのであった。
 そして、小学五年生になった依子も、母親のいつもと違う行動から、父親の急な帰省を察知できるようになっていた。お勝手から離れても、母親の鼻歌が春の風に乗って聞こえてきた。

 玄関のドアが開いた音がした。依子は母親と玄関で父親を出迎えた。大柄で色黒の父はただいまと言うと、両手に抱え込んだ紙袋を母親に渡した。帰省するとき、父親はいつも抱えきれないほどの土産物を買ってくるのであった。
「大変でしたね、今回も」
「いやいや、こんなもんさ。どこも現場なんて」
「移動で疲れてるでしょう。お風呂沸いてますよ」
「うん、分かった。依子、また大きくなったな」
父親は依子の頭を撫でた。10歳を超えた依子は、少し戸惑った感情が沸き上がったが、父親の屈託ない笑顔を見ると、つられて笑顔になった。
「お父さん、お帰りなさい」
依子の言葉に、父親はおうと答えると、依子にも土産物があるぞと白い歯を覗かせ笑った。

 いつもは静かな団地の部屋も、父親がいるだけで明るくなった。母親は元々大人しい気質の人であったが、父親は時折冗談も交えながら、常に二人に話を振り、食卓を賑やかなものにしていた。
「お父さん、いつまでいられるの」
「3日後には九州に行くんだ。それまではゆっくりさせてもらうさ。依子はお母さんの言うことを聞いてたかい」
「うん」
「そうかそうか!お母さんは一人で家を守ってるからな。困らせるなよ、依子」
父親はコップのビールを空けた。母親は微笑みながら瓶からビールを注いだ。依子はハンバーグを頬張った。10歳を超えてから、母親とぶつかることも増えてきたが、父親に対して良い娘でいることを無意識に演じている自分に、依子はうっすら気づいていた。いつまでも子供ではないと、10歳の子供ながらに思うのであった。

「依子、もう寝なさい。明日も学校あるからね」
夕飯は好物のハンバーグだったため、ご飯を茶碗二杯も食べてしまい依子は眠気と戦っていた。家族3人の団欒をもう少し楽しみたい気持ちはあったが、母親に促されるままに寝室へ移った。寝室とは言っても所詮襖で仕切らているだけだった。襖越しのため両親の会話はくぐもって聞こえてきた。はっきりとは聞き取れなくとも、依子は安心感を覚え、瞼を閉じた。

 ふと依子は目を覚ました。目は開いているが、思考はまだ睡眠状態から抜け出せていないようで、とてもぼんやりとしていた。しばらく瞬きだけを繰り返していると、暗闇の向こうから女の声がした。苦しそうな声が不規則に聞こえてきた。
 隣室とは襖で仕切られており、依子はわずかな隙間から漏れる光を頼りに布団から這い出た。いつも依子が真っ暗では寝られないからと、母親がわずかに襖を開けていたのであった。隣室にいるはずの両親が何をしているのか、依子はとても気になり光の筋の奥を覗き込んだ。

 白い肌の女が足を大股に開いて仰向けになっていた。太ももの内側に見覚えのある大きなほくろが見えた。依子の母親だった。その股に父親が頭をくっつけているのが見えた。二人とも服を着ておらず、互いに相手の体をしきりに撫でていた。父親の表情は分からないが、頭を動かしているのが見えた。湿っぽい音がするので、母親の股間を吸っているのかと依子には思えた。

「史子ぉ。――気持ち良いか」
「ああっ。あ、あぁ。泰彦さんっ!とても良いわっ!」
名前で呼び合う両親の姿を依子は初めて見て驚いたが、それ以上に母親の史子が淫らに喘いでいるのが衝撃的だった。泰彦が頭を動かすと、史子は顔をのけ反らせて小刻みに震えた。
ぴちゃりぴちゃりと湿った音はなおも続き、史子の吐息がしっかりと聞こえるようになった。泰彦は時折上半身を起こすと、片手で史子の大きな乳房を揉みしだきながら、もう片手で史子の股間に指を挿入し、何らかの動きを加えていた。史子は喘ぎながらも、手で泰彦の股間を撫でていた。
「――泰彦さん、私にもさせてほしいの」
「うん。気持ちよくさせてくれよ」
史子と泰彦が体の位置を入れ替えた。泰彦はこのとき下着を脱ぎ捨てたが、その股間には赤黒く屹立した陰茎があった。依子も勃起した陰茎を見るのは初めてで、保健体育の教科書でしか知らなかった陰茎のイラストと比べ、とても禍々しいものに映った。

 史子は、仰向けになり足を広げた泰彦に被さり、ゆっくりと腰をくねらせながら泰彦の体を撫でたり、時折つねるように乳首を弄んでいた。泰彦も快感に浸っている様子で、短く声を上げていた。
「ここが、すごく熱くなっているわ」
史子の白い指が、怒張を限りを尽くしている泰彦の肉棒を擦るように上下すると、泰彦は体を震わせ史子を抱き寄せた。
「史子、我慢できないよ」
「いやよ、まだ我慢しててね。ふふっ」
そう史子は囁くと、泰彦の臍の下辺りに何度かキスをして、おもむろに肉棒を咥えこんだ。
「ああ、史子……」
肉棒をゆっくりと上下に撫でながら、亀頭とその下くらいまでを史子は口内に含んで、唾液を絡めた舌で丹念に愛撫していた。泰彦は目をつむり、体を反らせていた。時折、史子の口の方から、ちゅるちゅると湿った音が這うようになってきたため、依子は心の中で身じろぎした。まだ依子には、女が男の陰茎を口淫するという行為が、性愛の中のひとつとして受け入れられる基礎的な部分が備わっていなかった。

 その後、依子はよろめくようにして寝床に戻り、布団を被って無理やりに寝た。父親の屹立した男根の禍々しさ、母親の男に媚びるような艶やかな声。視覚と聴覚から入った強烈な情報は依子の脳を電気信号となり駆け巡り、一様に混乱をもたらしたが、睡眠時の脳の驚異的な情報処理により、依子はひどく冷静な自分を取り戻していた。
「おはよう。依子」
「おはよう。お母さん。お父さん、おはよう」
父親は寝巻のまま新聞を読んでいた。依子が声をかけると、にっこり笑いおはようと返してくれた。母親はエプロンをつけてフライパンで何かを炒めていた。外から鳥の声がして、微風が家の中を通っていった。とても典型的な、平和な家庭を思わせるスナップ写真のような光景が当たり前に広がっていることが、依子にとってとても不思議に感じられた。自分はあくまで両親の子供としてのロールを演じるしかないが、両親は親と恋人というロールを演じ分けていることに、大人の器用さというかあざとさのようなものを感じていた。
 依子はそれとなく両親を見比べた。いつもと変わらない二人にしか見えなかったが、母親の口元を見て、依子は心がざわつくのを強く感じた。自分も好きな人が出来たら、その男性に昨晩の母親のようなサーヴィスをするのか、一人困惑したまま依子は興味もないテレビのニュース番組を見つめていた。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

処理中です...