4 / 8
4
しおりを挟む
「ラダル様、私のような者にまでお気遣いくださり、ありがとうございます。後日、今日のお詫びとこのドレスをお返ししたいので、手紙を送らせていただきます。おかげさまで、少し元気になりました。……では、失礼します」
「おい馬鹿、勝手に動くな。ついて来い」
お礼を伝えて帰ろうとしたレイナを、暴言とも取れるきつい言葉とともにラダルが引き止める。
しかし、行動は真逆だった。レイナを丁寧にエスコートしながら、裏口に待たせた馬車へと送っていく。
「あっ! また僕は……」
「ラダル様、大丈夫です。伝わりましたから」
やってしまった……という表情を浮かべるラダルであったが、レイナには言葉の意味が理解できた。
今一人で帰ろうとすれば、リリアナやアインス、その他の貴族から嫌味を言われるかもしれない。
主催者であるラダルと一緒であれば、それも起こりえないだろう。
軽く会釈をして、馬車に乗り込もうとしたとき、ふと視線を泳がせたレイナの瞳にありえない光景が映り込む。
……夜闇の中で木々の影が作り出す暗やみ。その下で、アインスとリリアナが熱い抱擁をかわしていた。
だからといって、いまさら何をするでもない。あれだけ大勢の貴族の前で、辱められてしまったのだ。もう、婚約破棄は周知の事実となってしまった。
レイナはラダルと別れ、揺れる馬車の窓越しに、少しずつ小さくなっていく背筋が冷たくなるような光景を、あえて目に焼き付ける。絡みつくように動く二つの影を。
馬車が揺れるたび、レイナの心もまた不安定に揺れた。
目を閉じて、昔を思い返す。
リリアナは、子供の頃からレイナの全てを欲しがっていた。
浮かんでくるのは、懐かしくも嫌な思い出……
ある日、レイナが新しい髪型に挑戦すれば、リリアナも同じ髪型にして現れる。
リリアナは悪意を込めた微笑みを浮かべながらその長い髪を後ろから無理やり切り刻む。
髪型を変えざるをえない状況を強いるのだ。
またあるときは、騎士の訓練を見学するという名目で貴族が集められた森の中で、お父様に買ってもらった首飾りを引きちぎられ、湖に投げ捨てられた。
泣いて取りに行こうとしたけれど、従者に止められてしまう。リリアナは、勝手に落としたと嘘をついて、その場を逃れていたけれど。
どうやったのかは分からないが、後日、あの子は全く同じ首飾りを身につけていた。
今日だってそうだ。
リリアナの身につけていたドレスは、色違いではあるが、前回レイナが着ていたものと同じデザイン。
……もう、彼女の行動が偶然でないことは明らかだ。
「きっと、リリアナは私になりたかったのだろう」
そう思わざるをえない。レイナはようやく気づいたのだ。
だからこそ、リリアナは自分の評判を落とすためにあらゆる噂をばらまき、アインスを引き寄せ、すべてを奪い取ろうとしたのだろう。
家に戻り、レイナは父――ダグラス・アインナーズの書斎を訪れた。
重々しい書斎の扉をノックすると、中から重々しい声が響く。
「入りなさい」
レイナは静かに部屋に入ると、深く一礼して報告を始めた。
「おい馬鹿、勝手に動くな。ついて来い」
お礼を伝えて帰ろうとしたレイナを、暴言とも取れるきつい言葉とともにラダルが引き止める。
しかし、行動は真逆だった。レイナを丁寧にエスコートしながら、裏口に待たせた馬車へと送っていく。
「あっ! また僕は……」
「ラダル様、大丈夫です。伝わりましたから」
やってしまった……という表情を浮かべるラダルであったが、レイナには言葉の意味が理解できた。
今一人で帰ろうとすれば、リリアナやアインス、その他の貴族から嫌味を言われるかもしれない。
主催者であるラダルと一緒であれば、それも起こりえないだろう。
軽く会釈をして、馬車に乗り込もうとしたとき、ふと視線を泳がせたレイナの瞳にありえない光景が映り込む。
……夜闇の中で木々の影が作り出す暗やみ。その下で、アインスとリリアナが熱い抱擁をかわしていた。
だからといって、いまさら何をするでもない。あれだけ大勢の貴族の前で、辱められてしまったのだ。もう、婚約破棄は周知の事実となってしまった。
レイナはラダルと別れ、揺れる馬車の窓越しに、少しずつ小さくなっていく背筋が冷たくなるような光景を、あえて目に焼き付ける。絡みつくように動く二つの影を。
馬車が揺れるたび、レイナの心もまた不安定に揺れた。
目を閉じて、昔を思い返す。
リリアナは、子供の頃からレイナの全てを欲しがっていた。
浮かんでくるのは、懐かしくも嫌な思い出……
ある日、レイナが新しい髪型に挑戦すれば、リリアナも同じ髪型にして現れる。
リリアナは悪意を込めた微笑みを浮かべながらその長い髪を後ろから無理やり切り刻む。
髪型を変えざるをえない状況を強いるのだ。
またあるときは、騎士の訓練を見学するという名目で貴族が集められた森の中で、お父様に買ってもらった首飾りを引きちぎられ、湖に投げ捨てられた。
泣いて取りに行こうとしたけれど、従者に止められてしまう。リリアナは、勝手に落としたと嘘をついて、その場を逃れていたけれど。
どうやったのかは分からないが、後日、あの子は全く同じ首飾りを身につけていた。
今日だってそうだ。
リリアナの身につけていたドレスは、色違いではあるが、前回レイナが着ていたものと同じデザイン。
……もう、彼女の行動が偶然でないことは明らかだ。
「きっと、リリアナは私になりたかったのだろう」
そう思わざるをえない。レイナはようやく気づいたのだ。
だからこそ、リリアナは自分の評判を落とすためにあらゆる噂をばらまき、アインスを引き寄せ、すべてを奪い取ろうとしたのだろう。
家に戻り、レイナは父――ダグラス・アインナーズの書斎を訪れた。
重々しい書斎の扉をノックすると、中から重々しい声が響く。
「入りなさい」
レイナは静かに部屋に入ると、深く一礼して報告を始めた。
865
あなたにおすすめの小説
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
うるさい!お前は俺の言う事を聞いてればいいんだよ!と言われましたが
仏白目
恋愛
私達、幼馴染ってだけの関係よね?
私アマーリア.シンクレアには、ケント.モダール伯爵令息という幼馴染がいる
小さな頃から一緒に遊んだり 一緒にいた時間は長いけど あなたにそんな態度を取られるのは変だと思うの・・・
*作者ご都合主義の世界観でのフィクションです
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪
山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」
「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」
「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」
「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」
「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」
そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。
私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。
さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪
夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。
Nao*
恋愛
結婚し一年が経った頃……私、エリザベスの元を一人の女性が訪ねて来る。
彼女は夫ダミアンの元婚約者で、ミラージュと名乗った。
そして彼女は戸惑う私に対し、夫と別れるよう要求する。
この事を夫に話せば、彼女とはもう終わって居る……俺の妻はこの先もお前だけだと言ってくれるが、私の心は大きく乱れたままだった。
その後、この件で自身の身を案じた私は護衛を付ける事にするが……これによって夫と彼女、それぞれの思いを知る事となり──?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる