私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ

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 一年の歳月を経て、レイナは新たな自信を手にしていた。
 まだダグラスから教わることは多いが、血の滲むような努力をしたレイナは、貴族でありながら商人たちとも対等に渡り合う。
 貴族の世界では見えなかった商取引の深い駆け引きも理解し始め、父親の代わりに豪商ともやり取りできるようになっていた。
 やはり、一流を超える商人であるダグラスから学び続けたのが大きいのだろう。

「レイナよ、今が貴族としての力を示す時だ。……まあ、お前次第ではあるがな」

 ある日のこと、レイナはダグラスに呼び出され、意味深な言葉を投げかけられた。
 レイナは静かに頷き、深く息を吸って答える。

「父上に迷惑はかけません。貴族として……いえ、レイナ・アインナーズが、徹底的に潰します!」

「ふふっ、別人のようだな。存分に暴れるといい。……して、方法は決まっているのか?」

「えぇ、絞ろうかと」

 誰にも理解できなさそうな短い答えを聞いたダグラスは、ニヤリと笑う。
 しかし、すぐに表情を戻して目を細め、鋭い眼差しで娘を見つめる。

 この一年で、王国の情勢は驚くほど変わっていた。
 隣国との戦争が始まり、多くの食料を他国からの貿易に頼っていたため、時間が経つほど食料不足が懸念される事態になっていく。
 アインナーズ家が築き上げてきた流通網の強大な力が活きてくるというわけだ。

「ガルタードとバイスターは手強いぞ? お前なら知っているとは思うが」

「えぇ、アインス様とリリアナは婚約を結びましたからね。国内の流通を手中に収めようと、あれこれ動いているのは知っています。大金を投じて大儲けしようと企んでいるみたいですね。商人たちには、まだ契約しないようにお願いしました」

「ほう……それを見越して動くのか」

「アインナーズ家がこれまで築いてきた信用には勝てませんから。それに、食料不足が悪化すれば、ガルタード侯爵家が人々から責任を問われることになるでしょう。ガルタード侯爵家とその関連商会の供給を遮断し、国内に不足している食料の輸入先と契約を結び直します。」

 ダグラスは、満足そうに娘の肩を軽く叩いた。

「良いぞ、レイナ。ガルタード家とバイスター家は、貴族の中でも権威を笠に着ているが、我々商人の世界では信用こそが全てだ。お前の策が成功すれば、あの男たちもただの傲慢な権力者に過ぎないことが露呈するだろう」

 それから数日後、アインナーズ家は国内の商会や農村と秘密裏に連携し、食料の買い付けを急速に進めた。
 レイナは、これまでの人脈を駆使して、ガルタード家とバイスター家が独占しようとしていた商会との交渉を進め、より高い価格を提示して取引先を奪い取っていく。

 その結果、国内での食料流通は次第にアインナーズ家が掌握する形となり、ガルタード家とバイスター家は急激な流通の変化に対応できず、次第に人々からの批判を浴び始めてしまう。
 戦時下において何も手を打たず、国民を飢えさせるとはどういうことだと、非難が巻き起こり、ガルタード家の影響力はみるみる弱まっていった。

 一方レイナと商人たちは、針の穴を通すような絶妙な調整により、民衆の食糧問題を解決するためと称し、食料を計画的に配給し始めていく。
 その支援により、次第に民衆はアインナーズ家を信頼し、支持するようになっていった。

 やがて、王宮にまでその声は届き、国王陛下までもを巻き込んで、この情勢を重く受け止めざるを得なくなっていく。
 かつて、レイナを侮辱したアインスの父も焦り、王家に助けを求めるが、すでにアインナーズ家の影響力は王家の手に余るものとなっていた。

 王は苦渋の決断として、レイナに一度正式な場で話を聞く場を設けることを申し出たが、王宮で行われたその謁見で、レイナは毅然とした態度で王に向かい、堂々と答える。

「アインナーズ家が食糧不足の中で貢献できたのは、これまでの誠実な取引と努力の賜物です。私たちは民のために動いているだけであり、誰かを陥れるための行動ではありません」

 その言葉に王も民衆も納得し、逆にガルタード侯爵家とバイスター伯爵家の無能さが浮き彫りとなった。
 国中がレイナの決断を称賛し、ガルタード家とバイスター家は完全に信用を失い、アインスもその立場から転落していった。

 かつて無礼な態度で婚約破棄を突きつけてきた彼らが今や自らの立場を失う姿を、レイナは冷静に見つめる。
 彼女はもはや無力な少女ではなく、貴族として、商人として、堂々とした誇り高きアインナーズ家の令嬢であった。
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