『殿下、私は偽物の妃です』赤狸に追放された妃は青の国で逃げた妃の代わりに・・・殿下は冷めた豹君主

江戸 清水

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逃げたのではないのか(サンサ視点)

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「逃げたのではないのか」
「サンサ殿下、まさか……記憶もない故、土地勘すらありません。逃げるにしても何処へ……。セリ様は道に迷われたのでは?私がしっかり見ていなかったので申し訳ございません」

 たしかに自分で城の門を叩き翌日に姿を消すとは奇妙だ。私と同じ部屋で眠らされ逃げたくなったのか?いや私は指一本触れていない、ああ 手首は掴んだが。

「門番に確認いたします」
 酷く心配した様子でタオは走り去る。

「殿下!殿下!」
 ぞろぞろと護衛の兵を引き連れタオが叫ぶ。
「なんだ 騒々しいな」

「セリ様はユア様と馬を走らせ二人で出かけたと……」

「ではユアの所で話し込んでいるのではないのか?」
「殿下!ユア様は……いえ。私見てまいります。直に日が暮れます。」
「子供ではあるまいし……」

 タオは護衛と私の言葉を聞く前に飛び出していった。


 ◇


 まだ戻らぬタオ達とセリにタイガまで落ち着かない様子で先ほどから私の執務室でうろうろする。

「参らなくて良いのでしょうか、万が一 万が一。攫われたとか、道に迷ったか…….」
「皆はまだか?」
「はい。ったく何をしてるんでしょうか」

「大変ですっ。大変でございますー!!」
「なんだ……?」
「ユア様が、森ではぐれたと、ユア様はやっと先ほど戻られまして。セリ様を捜していたけれど見つからないと……」

「ほら、やはり逃げたのではないか。」
「サンサ殿下参りましょう。もし森に残っていたら大変だ。俺は行きます」
「はあ……」
 まあ、私がセリを見捨てたと言われては困る。私もみなについて森へ向かった。


 ◇

 たいまつを燃やし、「セリ様ー!セリ様ー!」と叫ぶ。
 十名以上で探しても見当たらない。
 もうとっくに逃げたのではないか。

 その時、灯をかざすと右手の崖の手前にひらひらした布が枝に絡まっているのが目に入った。
 まさか……この下に……?

 皆に知らせようとした時下から叫ぶ護衛の声が響き渡る。

「いました!!いました!!セリ様が居られます!!」

 下からタイガに背負われたセリが見える。
「セリ……」
 逃げようとしたのか問い詰めるにも、あまりに酷く傷んだ衣とぐったりとした姿に私は自分の羽織をかけるに留めた。

「俺が連れ帰ります。サンサ殿下は、先にお戻りください」
「ああ 頼む タイガ」
「おいっセリ様 大丈夫ですか?」
「ん……はい 申し訳ございません こんなことに……」
「寒くはないですか?」
「あたたかいです。ありがとうございます タイガ様」

 タイガの背でセリはか細く頼りない声を出していた。目は開いているのか閉じているのか分からぬが……あまり見ていてもおかしい故、私は先に戻りセリの手当と湯の準備をさせることにした。
逃げなかったのならば一点をやるべきか……事の発端を聞いてからにしよう。
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