8 / 27
殿下は実はお優しい?・・・『何がお好きですか?』
しおりを挟む
「タオさん、ごめんなさい。」
「崖から転げ落ちてこの程度で済んだのはまさに神がお守りくださったのですよ」
「あ、あはは 私の受け身もなかなかだったかと……」
「まっ。ご無事で何より。セリ様、ユア様にはくれぐれもお気をつけて」
「な 何故でしょうか?私が誤って馬を崖の方へ走らせてしまっただけで……」
「本当ですか?本当に誤ってですか?」
タオさんは意味深で相変わらずの真顔だ。
「ええ……たぶん、カヤさんはどこですか?」
「セリ様、サンサ殿下がお見えです」
「あ、タオさんその羽織、タイガ様に返さないと」
「それは私のだ」
え?サンサ殿下の羽織。いつ私にかけてくださったのか。
森に居らしたの?!
「サンサ殿下……あ ありがとうございました。森に探しに来てくださったのですか?」
こちらを見ずに立つ殿下に青の羽織を渡した。
タオさんはそれを見届けるとさっと部屋から出ていく。
「傷だらけになろうと逃げたかったか?」
「えっまさか。違います。ユア様と馬で競争をして私が誤って崖に……」
「…………」
殿下は私の顔をちらりと一度みて背を向けた。
「次からは出かけるなら誰かに言ってから行け」
「はい。申し訳ございません」
「今日はこのままここで寝ろ。騒ぎで遅くなった。私も疲れた。」
「ああ はい。おやすみなさいませ」
ああ……こんな調子で尽くすとか余命宣告をどうとか出来るのだろうか。サンサ殿下はこのお城で一番接しにくい人。
意地悪とか言葉が悪いとかならまだしも……何を考えているのか分からない。
タオさんが戻って来た。
「セリ様、今日は仕方ありませんが明日からは毎晩殿下とお休みになってください。殿下は、少々言葉数が少ない方ですが……。セリ様のやり方で殿下を気にかけてさえいればきっと、大丈夫です」
「あの、私には何もわからなくて、本物のセリ様がどんな方で何が得意で、色々と教えていただきたいのですが。」
「何も分からないから良いのです」
「はい?」
タオさんは何も教えてくれない。はあ……私のやり方?って何……。
「あの、では余命はいつなのですか?」
肝心な余命の日時を聞いていなかった。
「余命は……次の生まれ月だと聞いております」
「それはいつですか?」
「私も知りませぬ。代々将来の君主の御誕生は極秘でございますから。」
「ああ……なるほど。え では……」
◇
眠れずにベッドの中で何度も寝返りをうち、きしむ板の音だけが響き渡る。
誕生月はいつだろう。考えた所で分かるはずもない。
「はあ……」
昨日は初日なのに、殿下のベッドではぐっすり眠れた。不思議……。
眠れずに羽織を着て、部屋を出る。月が鯉の池に揺れ浮かぶのをただ眺めていた。
「なんだ。あんな怪我をしたというのにまだうろうろしてらっしゃったか、身体に触りますよ」
「あ、タイガ様。先ほどはありがとうございました。湯に浸かれば随分と温まって傷も擦り傷でしたので平気です。」
「サンサ殿下が、傷に良い薬湯を用意させていた。礼なら殿下に言えば良いでしょう。ああっしかしセリ様は変わり過ぎて殿下が戸惑うのも仕方ない」
サンサ殿下が……羽織も薬湯も……。
「サンサ殿下は意外にお優しいのですね……。私が変わったとは……?」
タイガ様はじっと私の目を見入る。
「目つきも、ものの言い方も、全ておかしいです」
「おかしい?変ということですか?」
「いや、俺の知るセリ様はもっとつんけんした、金持ちのお嬢といったところでしょうか……。」
「……そうですか。殿下は何をお望みでしょう……あ、こんな事タイガ様に、聞くべきではないですが……」
「さあ。俺にも分かりませぬが。殿下は冷静でひとりでも生きていけるような男、王として、ましてや神託により告げられた妃をとれと言われ、死ぬと言われ、何を望んでいるか。俺なら……誰かに優しくされたいって思うかなと……思います。」
「優しく……ですか」
「さ、戻られよ。せっかく温まったのに夜風で冷めます。」
「はい。ありがとうございます」
タイガ様に頭を下げ部屋へと戻ろうと橋を歩く。すると黒いしなやかに揺れる長い髪と長い衣を靡かせる人影が歩いてくる。真っすぐな姿勢を崩すことなく私の前で止まった。
「まだ眠っていないのか」
「あ サンサ殿下。あの、ありがとうございました。薬湯まで……」
「ああ」
「……あの 殿下……いえ サンサ様は……何がお好きですか?」
「……何を言っておる」
「え。あ 食べものとか、場所とか、色とか……」
「はよう、寝ろ。」
「あ、はい。おやすみなさい」
隣をさっと通るサンサ様は
「米 川 緑」
と小さく呟いた。
「崖から転げ落ちてこの程度で済んだのはまさに神がお守りくださったのですよ」
「あ、あはは 私の受け身もなかなかだったかと……」
「まっ。ご無事で何より。セリ様、ユア様にはくれぐれもお気をつけて」
「な 何故でしょうか?私が誤って馬を崖の方へ走らせてしまっただけで……」
「本当ですか?本当に誤ってですか?」
タオさんは意味深で相変わらずの真顔だ。
「ええ……たぶん、カヤさんはどこですか?」
「セリ様、サンサ殿下がお見えです」
「あ、タオさんその羽織、タイガ様に返さないと」
「それは私のだ」
え?サンサ殿下の羽織。いつ私にかけてくださったのか。
森に居らしたの?!
「サンサ殿下……あ ありがとうございました。森に探しに来てくださったのですか?」
こちらを見ずに立つ殿下に青の羽織を渡した。
タオさんはそれを見届けるとさっと部屋から出ていく。
「傷だらけになろうと逃げたかったか?」
「えっまさか。違います。ユア様と馬で競争をして私が誤って崖に……」
「…………」
殿下は私の顔をちらりと一度みて背を向けた。
「次からは出かけるなら誰かに言ってから行け」
「はい。申し訳ございません」
「今日はこのままここで寝ろ。騒ぎで遅くなった。私も疲れた。」
「ああ はい。おやすみなさいませ」
ああ……こんな調子で尽くすとか余命宣告をどうとか出来るのだろうか。サンサ殿下はこのお城で一番接しにくい人。
意地悪とか言葉が悪いとかならまだしも……何を考えているのか分からない。
タオさんが戻って来た。
「セリ様、今日は仕方ありませんが明日からは毎晩殿下とお休みになってください。殿下は、少々言葉数が少ない方ですが……。セリ様のやり方で殿下を気にかけてさえいればきっと、大丈夫です」
「あの、私には何もわからなくて、本物のセリ様がどんな方で何が得意で、色々と教えていただきたいのですが。」
「何も分からないから良いのです」
「はい?」
タオさんは何も教えてくれない。はあ……私のやり方?って何……。
「あの、では余命はいつなのですか?」
肝心な余命の日時を聞いていなかった。
「余命は……次の生まれ月だと聞いております」
「それはいつですか?」
「私も知りませぬ。代々将来の君主の御誕生は極秘でございますから。」
「ああ……なるほど。え では……」
◇
眠れずにベッドの中で何度も寝返りをうち、きしむ板の音だけが響き渡る。
誕生月はいつだろう。考えた所で分かるはずもない。
「はあ……」
昨日は初日なのに、殿下のベッドではぐっすり眠れた。不思議……。
眠れずに羽織を着て、部屋を出る。月が鯉の池に揺れ浮かぶのをただ眺めていた。
「なんだ。あんな怪我をしたというのにまだうろうろしてらっしゃったか、身体に触りますよ」
「あ、タイガ様。先ほどはありがとうございました。湯に浸かれば随分と温まって傷も擦り傷でしたので平気です。」
「サンサ殿下が、傷に良い薬湯を用意させていた。礼なら殿下に言えば良いでしょう。ああっしかしセリ様は変わり過ぎて殿下が戸惑うのも仕方ない」
サンサ殿下が……羽織も薬湯も……。
「サンサ殿下は意外にお優しいのですね……。私が変わったとは……?」
タイガ様はじっと私の目を見入る。
「目つきも、ものの言い方も、全ておかしいです」
「おかしい?変ということですか?」
「いや、俺の知るセリ様はもっとつんけんした、金持ちのお嬢といったところでしょうか……。」
「……そうですか。殿下は何をお望みでしょう……あ、こんな事タイガ様に、聞くべきではないですが……」
「さあ。俺にも分かりませぬが。殿下は冷静でひとりでも生きていけるような男、王として、ましてや神託により告げられた妃をとれと言われ、死ぬと言われ、何を望んでいるか。俺なら……誰かに優しくされたいって思うかなと……思います。」
「優しく……ですか」
「さ、戻られよ。せっかく温まったのに夜風で冷めます。」
「はい。ありがとうございます」
タイガ様に頭を下げ部屋へと戻ろうと橋を歩く。すると黒いしなやかに揺れる長い髪と長い衣を靡かせる人影が歩いてくる。真っすぐな姿勢を崩すことなく私の前で止まった。
「まだ眠っていないのか」
「あ サンサ殿下。あの、ありがとうございました。薬湯まで……」
「ああ」
「……あの 殿下……いえ サンサ様は……何がお好きですか?」
「……何を言っておる」
「え。あ 食べものとか、場所とか、色とか……」
「はよう、寝ろ。」
「あ、はい。おやすみなさい」
隣をさっと通るサンサ様は
「米 川 緑」
と小さく呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する
3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
婚約者である王太子からの突然の断罪!
それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。
しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。
味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。
「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」
エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。
そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。
「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」
義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる