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第三章
第73話 ストラックアウト・3
「翔馬!」
戻るや否や、希耶に怒鳴られた。
「何、さっきのバントは」
「いや、とりあえずバットに当てなきゃと思って……」
「そこはホームラン狙ってくとこでしょ!?」
「いや俺ホームラン打つより足で点取るタイプなの知ってんだろ!?」
「知ってるけど! ここで先輩に打順回したらピンチになるのあたし達の方だよ!?」
「あ……」
翔馬はそこを失念していた。自分のパネルが残り一枚である以上は、今絶好調の弾と本職ではないピッチャーとして勝負しなくてはならないのである。
「ど、どどどどうすんだよ!?」
焦ってしどろもどろにになる翔馬を見て、希耶は溜息。
「あるでしょ、強打者に当たった時にやる手段が」
六回裏。希耶は吹っ切れて堂々と胸をさらけ出しフリップを挙げている。弾は予告ホームランとばかりにバットを立てると共に股間のバットも立てていた。
プレイが宣言させると、翔馬は大きく振りかぶり――明らかにストライクゾーンを外して弧を描くようにパネルの向こうへと放り投げた。
「残念、失敗です」
ルシファーが無機質に告げる。翔馬の採った策とは、敬遠。ちなみに上方向に投げたのは、横方向に逸らすと希耶や杏に当たる可能性があったからである。
弾は開いた口が塞がらなかった。まさかそんな手段を使ってくるとは、予想だにしなかったのである。
「いい、この六回裏は敬遠して、次の七回表にホームラン打って勝てばいいの」
翔馬がマウンドに上がる前、希耶はそう提案した。
「いや、牧野先輩からホームラン打つとかそうそうできることじゃないんだが……」
「でも慣れないピッチングで勝負するよりよっぽどマシでしょ? 何弱気になってんの。コースはわかりきってるんだし、牧野先輩もバットを避けたピッチングじゃパネルに当たらないってさっき学んだはず。その証拠にさっきのだってパネル中央狙いで投げてきたでしょ? それに先輩の性格からして、小細工よりもそういった正統派のピッチングを好むはず。だから次も多分同じように投げてくる。だったら後はあんたがそれにタイミング合わせて打つだけ! あんたがここぞという時に打つ奴だってことは知ってんだから。あたしが何年あんたの野球を見てると思ってんの?」
そう言われても、ぽかんとして何だか実感の沸いていない様子の翔馬。
「もう、シャキッとしてよ! あたしはあんた以外の男に裸見られたくなんかないの!」
希耶は翔馬の両肩を掴んで揺さぶり訴える。
「牧野先輩に見られた時、すっごい気持ち悪いって思った! もしもそれが波川先輩や佐藤先輩だったらって考えても、やっぱり嫌だって思った! でもあんたになら見られても平気だって気付いたの。ただ見られ慣れてるからってわけじゃない、あたしにとってもあんたは特別な人だって、やっと気付いたの。だから勝って。あたしは翔馬を信じてる。翔馬が、好きだから」
翔馬のユニフォームをぎゅっと掴み、真っ赤になった顔を翔馬の胸に押し付ける。翔馬は何も言わず左腕で希耶の腰を抱き、右手でそっと頭を撫でた。
「……っし、希耶分補給完了。これで俺は無敵だぜ。バッチリ敬遠決めてくるぜ」
微妙に締まりのない決め台詞を吐きながら翔馬はマウンドへと向かい、宣言通り敬遠でこの回を流したのである。
そして七回表、弾のターン。マウンドに向かおうとする弾に、杏が話しかけた。
「あの……先輩」
「何だ柚木」
不機嫌そうな声で返事されると、杏はびくりとした。
(バントに敬遠……セコいプレーばっかしやがって。まああいつがそういうのに頼るのは、実力じゃ俺に勝てねえってわかってるからだろうけどな)
とりあえずはこの苛立ちを鎮めるべく、杏の裸体をじろじろと見回す。
「あの……見ないで下さい……」
邪な視線に耐えかねて杏がそう言うと、弾はまた不機嫌そうな顔をした。
「で、何だ。見んなって言いてえのか」
「あの、そうではなく……実は気付いたことがありまして……岩田君のフォームの癖とか……その、ですから、アドバイスをと……」
両腕でぎゅっと胸を押さえつけながら、弾と合わせないようにした目を泳がせつつ言う杏。だがそれ故に杏には見えていなかった。弾の頭に血が上ってゆくのを。
「んだと!? 女の分際で俺に指図するってのか!!」
突然怒鳴りつけられ、杏は悲鳴を上げた。
「ひゃああっ!? すっ、すみませ……」
「お前は黙って俺が勝つところを見ていればいい。あんなセコいだけの雑魚、俺の敵じゃないんだよ」
鼻息荒くしながらマウンドへと向かう弾を、杏は気を落としながら言われた通り黙って見守ることしかできなかった。
羞恥心を堪えながら目をつぶってフリップを上げる杏を、弾はマウンド上からじっと見る。
(こいつに勝てば柚木は俺の物……これは俺が柚木を物にするための試練だ)
甲子園出場を成し遂げられなかった代わりとして、そう念じる。
杏と自分は両想いだという自信はあった。だけどもし違っていて、振られてプライドをへし折られるのが怖いから、好きだと普通に伝えることはできなかった。
だから条件を達成したら、有無を言わさず自分の恋人になることを強要する。そういう形で交際を迫ったのである。
そしてこの脱衣ゲームでカップル成立は、彼の需要に見事にマッチしたものだったのだ。
(これで俺は勝利者となり……柚木を手に入れる!)
弾が投げる。球種は勿論ストレート。1番のパネル中央を狙って、その一撃は放り込まれた。
(希耶の言った通りだ!)
バットを構える翔馬は、その球をしっかりと見極める。
(俺は希耶の想いに応える。希耶の信じた俺を信じて、この球を打つ!)
想いを込めて振ったバットはボールを芯で捉える。気持ちの良い音と共に打ち上げられたボールは、弾のトラウマを呼び起こすかのようにフェンスを越える。
「ゲームセット!!!」
ルシファーが高らかに叫ぶ。弾は三日前を再現するかの如くマウンド上で崩れ落ちた。
「やったぜ希耶!」
バットを放りバンザイしながら希耶に駆け寄った翔馬を、希耶は両腕を広げてぎゅっと抱擁。
「翔馬ぁ~」
「お、おう」
ちょっと痛いと感じるくらい強く抱きしめるので、翔馬は戸惑った。
「普段からああいうカッコいいこと言ってよ! バカ!」
「ええー……」
「庇ってくれたことも、可愛いって言ってくれたことも、嬉しかった。何か変なことも言われたけどさ」
「あー……」
そうやって口に出して指摘されると、これまで全然そういった言葉を希耶に伝えていなかったことに気が付く。
「なんっつーか……悪かったよ。ホントはちゃんと、ずっと可愛いって思ってた。つーか俺だって、お前から好きって言ってもらったの今日が初めてなんだが!?」
「ごっ、ゴメン……だって恥ずかしかったんだもん!」
(似た者同士……)
イチャつく二人を見て、リリムは思う。何だかんだで、傍から見てもお似合いと感じる二人なのである。
一方の杏は、最後の一枚を脱ぐことを躊躇っていた。
「むっ、無理です! これだけはぁ……」
左腕を胸に当てつつ右手でショーツを押さえ、脱ぐまいという意思表示。
(脱げ柚木っ……俺に全裸を見せろっ……!)
敗北のショックからまだ立ち直らぬ弾だが、これには反応して顔を上げる。マウンドから立ち上がると、杏の裸体がよく見えるよう血走らせた目を見開きながら近寄った。
「やっ、やぁっ、見ないで下さいっ……」
近寄ってくる弾に懇願する杏だが、弾がそれに応じる気配は無い。
「では私が魔法で脱がしましょうか」
「ぬっ、脱ぎます! 脱ぎますよぉ!」
ルシファーが軽く脅かすと、杏はあっさりと折れた。
弾が近寄って無言で見つめる中、左腕は胸から動かさぬまま右手だけでショーツを下ろし始める。しかし、あと少しで茂みが見えるという所で手は止まった。
(おい! 止まるな! 下ろせ! パンツを下ろせ!!)
弾が心の中で叫ぶ。杏は躊躇い気味に胸から左腕を離し掌をショーツに差し込んで股間を隠すと、右手でショーツを下ろした。
(くっ……手が邪魔だ! 乳首はさっき見た! 下を見せろ!)
そのまま毛の一本も見せないようしっかりと掌で股間を隠し、気を付けながらゆっくりと足を上げてショーツを脱いだ。
「これでいいですよね? もう全部脱いだんですから服返して下さい!」
すぐさま右腕を胸に当て、やむなく晒していたピンクの蕾を再び隠す。
「ふざけんな! ちゃんと見せろ! 好きなんだろ俺のこと!」
と、その時だった。弾は突如として杏の両手首を掴み、強引に身体から引き剥がしたのである。
「嫌ぁっ!!」
杏の悲鳴が球場に響く。遂に衆目に晒された杏の茂みは、適度に手入れされた逆三角形。
「へへ……俺に見せる気満々じゃねーか。もうここでヤらせろよ」
興奮のあまりルシファー達の存在も目に入らなくなった弾は、杏の柔肌に顔を近づけようとする。だがその時、杏の身体と弾の顔の間に三又の槍が差し込まれた。
「ひっ!?」
突然目の前に刃物が現れたので、弾は顔を青くして身を退いた。
「嫌がってんじゃん。それ以上はやめときなよ」
逆手に槍を掴んだリリムが、いつになく冷たい声で言う。刃先はおっ勃った股間のバットに紙一重の距離で突き付けられていた。
続けて、ルシファーの漆黒の翼が杏の裸体を弾の視界から覆い隠した。
「おい! ふざけんなよ! お前らが脱がしといて今更正義面してんじゃねーよ!」
槍にビビって裏声になりながらも文句を言う弾を、ルシファーは冷たい目で見下す。
「言っていることは御尤もだ。だが我々が女性を脱がすのはカップル成立のため。その芽が摘まれた今、彼女の裸体を君に見せる価値は無いのでな」
ルシファーの翼に身を覆い隠された杏はすすり泣いていた。だがそれを見ても弾の心に生じるのは、裸を隠されたことに対する怒りのみだ。
「脱衣ゲームは時に人の心をも丸裸にする。野蛮で暴力的で、品性の欠片もないけだもの。それがお前の本性だ、牧野弾」
弾の下腹部が、ユニフォームの上からでも分かる光を放つ。
「お前に俺の紋章を刻んだ。これでもうお前は二度と性行為ができない。自分の所業を反省することだ」
その言葉を聞かされた弾から、心の折れる音がした。プライドを粉砕され、男の性すらも終わらされる。迂闊にも性欲に揺り動かされた男の、惨めな末路であった。
同じくして翔馬と希耶にも、こちらは恋人とのみ性行為が可能になる“天使のご加護”が刻まれ、杏と希耶に服が返される。
「柚木さん、怖い思いをさせてしまい大変申し訳ありません。いつか貴方が、貴方を本当に大切にしてくれる方と巡り会えることを願っています」
服を着終えた杏にルシファーが深々と頭を下げると、杏は首を横に振った。
「い、いえ、そんな。あの、えっと……私が悪いんです!」
突然杏がわけのわからないことを言い出すので、ルシファーは頭上に疑問符を浮かべる。
「牧野先輩は口が悪いだけで本当はいい人かもしれないと勝手に思い込んで……私が愚かで人を見る目が無かったんです。それを気付かせてくれたことには……感謝しています」
そう言いつつも内心複雑そうな表情をする杏に、ルシファーは返す言葉が無かった。
翌日。
「へー、お前ら結局寄り戻したんだ」
昨日の部活が終わって帰宅した後、お泊りデートからの仲直りックスですっかりラブラブに戻った翔馬と希耶。手を繋いで朝練に出てきた二人を見て、当真が言った。
「まあ、結局あたしは翔馬じゃなきゃダメだった、みたいな……」
「へへ……いいもんっスね、腐れ縁ってのは」
翔馬の腕を抱き寄せる希耶に、頭を掻いて照れる翔馬。朝っぱらからイチャつく二人を見て、当真は「ケッ」と鬱陶しそうに息を吐いた。
そうしていたところ、登校してきた者がもう一人。先日翔馬達と熱戦を繰り広げた杏である。
「おはようございます」
そう声をかけてきた杏の姿を見て、一同は驚愕。
「柚木先輩、その髪……」
昨日まで肩にかかるくらいの長さだった髪を、耳下辺りまでの長さにばっさりカット。大幅なイメチェンをしてきたのである。
「実らなかった恋を忘れるために、です」
毛先を撫でながらそう言う杏の表情は、どこか満ち足りた様子だった。
弾に裸を見られたことも、酷いことをされそうになったことも完全に記憶から消えた。だが弾の下劣な本性を知り完全に冷め切ったことだけは覚えていた。
髪と一緒に弾への気持ちを断ち切り、新たな一歩を踏み出す。杏の進む先は、希望に満ちていたのだ。
戻るや否や、希耶に怒鳴られた。
「何、さっきのバントは」
「いや、とりあえずバットに当てなきゃと思って……」
「そこはホームラン狙ってくとこでしょ!?」
「いや俺ホームラン打つより足で点取るタイプなの知ってんだろ!?」
「知ってるけど! ここで先輩に打順回したらピンチになるのあたし達の方だよ!?」
「あ……」
翔馬はそこを失念していた。自分のパネルが残り一枚である以上は、今絶好調の弾と本職ではないピッチャーとして勝負しなくてはならないのである。
「ど、どどどどうすんだよ!?」
焦ってしどろもどろにになる翔馬を見て、希耶は溜息。
「あるでしょ、強打者に当たった時にやる手段が」
六回裏。希耶は吹っ切れて堂々と胸をさらけ出しフリップを挙げている。弾は予告ホームランとばかりにバットを立てると共に股間のバットも立てていた。
プレイが宣言させると、翔馬は大きく振りかぶり――明らかにストライクゾーンを外して弧を描くようにパネルの向こうへと放り投げた。
「残念、失敗です」
ルシファーが無機質に告げる。翔馬の採った策とは、敬遠。ちなみに上方向に投げたのは、横方向に逸らすと希耶や杏に当たる可能性があったからである。
弾は開いた口が塞がらなかった。まさかそんな手段を使ってくるとは、予想だにしなかったのである。
「いい、この六回裏は敬遠して、次の七回表にホームラン打って勝てばいいの」
翔馬がマウンドに上がる前、希耶はそう提案した。
「いや、牧野先輩からホームラン打つとかそうそうできることじゃないんだが……」
「でも慣れないピッチングで勝負するよりよっぽどマシでしょ? 何弱気になってんの。コースはわかりきってるんだし、牧野先輩もバットを避けたピッチングじゃパネルに当たらないってさっき学んだはず。その証拠にさっきのだってパネル中央狙いで投げてきたでしょ? それに先輩の性格からして、小細工よりもそういった正統派のピッチングを好むはず。だから次も多分同じように投げてくる。だったら後はあんたがそれにタイミング合わせて打つだけ! あんたがここぞという時に打つ奴だってことは知ってんだから。あたしが何年あんたの野球を見てると思ってんの?」
そう言われても、ぽかんとして何だか実感の沸いていない様子の翔馬。
「もう、シャキッとしてよ! あたしはあんた以外の男に裸見られたくなんかないの!」
希耶は翔馬の両肩を掴んで揺さぶり訴える。
「牧野先輩に見られた時、すっごい気持ち悪いって思った! もしもそれが波川先輩や佐藤先輩だったらって考えても、やっぱり嫌だって思った! でもあんたになら見られても平気だって気付いたの。ただ見られ慣れてるからってわけじゃない、あたしにとってもあんたは特別な人だって、やっと気付いたの。だから勝って。あたしは翔馬を信じてる。翔馬が、好きだから」
翔馬のユニフォームをぎゅっと掴み、真っ赤になった顔を翔馬の胸に押し付ける。翔馬は何も言わず左腕で希耶の腰を抱き、右手でそっと頭を撫でた。
「……っし、希耶分補給完了。これで俺は無敵だぜ。バッチリ敬遠決めてくるぜ」
微妙に締まりのない決め台詞を吐きながら翔馬はマウンドへと向かい、宣言通り敬遠でこの回を流したのである。
そして七回表、弾のターン。マウンドに向かおうとする弾に、杏が話しかけた。
「あの……先輩」
「何だ柚木」
不機嫌そうな声で返事されると、杏はびくりとした。
(バントに敬遠……セコいプレーばっかしやがって。まああいつがそういうのに頼るのは、実力じゃ俺に勝てねえってわかってるからだろうけどな)
とりあえずはこの苛立ちを鎮めるべく、杏の裸体をじろじろと見回す。
「あの……見ないで下さい……」
邪な視線に耐えかねて杏がそう言うと、弾はまた不機嫌そうな顔をした。
「で、何だ。見んなって言いてえのか」
「あの、そうではなく……実は気付いたことがありまして……岩田君のフォームの癖とか……その、ですから、アドバイスをと……」
両腕でぎゅっと胸を押さえつけながら、弾と合わせないようにした目を泳がせつつ言う杏。だがそれ故に杏には見えていなかった。弾の頭に血が上ってゆくのを。
「んだと!? 女の分際で俺に指図するってのか!!」
突然怒鳴りつけられ、杏は悲鳴を上げた。
「ひゃああっ!? すっ、すみませ……」
「お前は黙って俺が勝つところを見ていればいい。あんなセコいだけの雑魚、俺の敵じゃないんだよ」
鼻息荒くしながらマウンドへと向かう弾を、杏は気を落としながら言われた通り黙って見守ることしかできなかった。
羞恥心を堪えながら目をつぶってフリップを上げる杏を、弾はマウンド上からじっと見る。
(こいつに勝てば柚木は俺の物……これは俺が柚木を物にするための試練だ)
甲子園出場を成し遂げられなかった代わりとして、そう念じる。
杏と自分は両想いだという自信はあった。だけどもし違っていて、振られてプライドをへし折られるのが怖いから、好きだと普通に伝えることはできなかった。
だから条件を達成したら、有無を言わさず自分の恋人になることを強要する。そういう形で交際を迫ったのである。
そしてこの脱衣ゲームでカップル成立は、彼の需要に見事にマッチしたものだったのだ。
(これで俺は勝利者となり……柚木を手に入れる!)
弾が投げる。球種は勿論ストレート。1番のパネル中央を狙って、その一撃は放り込まれた。
(希耶の言った通りだ!)
バットを構える翔馬は、その球をしっかりと見極める。
(俺は希耶の想いに応える。希耶の信じた俺を信じて、この球を打つ!)
想いを込めて振ったバットはボールを芯で捉える。気持ちの良い音と共に打ち上げられたボールは、弾のトラウマを呼び起こすかのようにフェンスを越える。
「ゲームセット!!!」
ルシファーが高らかに叫ぶ。弾は三日前を再現するかの如くマウンド上で崩れ落ちた。
「やったぜ希耶!」
バットを放りバンザイしながら希耶に駆け寄った翔馬を、希耶は両腕を広げてぎゅっと抱擁。
「翔馬ぁ~」
「お、おう」
ちょっと痛いと感じるくらい強く抱きしめるので、翔馬は戸惑った。
「普段からああいうカッコいいこと言ってよ! バカ!」
「ええー……」
「庇ってくれたことも、可愛いって言ってくれたことも、嬉しかった。何か変なことも言われたけどさ」
「あー……」
そうやって口に出して指摘されると、これまで全然そういった言葉を希耶に伝えていなかったことに気が付く。
「なんっつーか……悪かったよ。ホントはちゃんと、ずっと可愛いって思ってた。つーか俺だって、お前から好きって言ってもらったの今日が初めてなんだが!?」
「ごっ、ゴメン……だって恥ずかしかったんだもん!」
(似た者同士……)
イチャつく二人を見て、リリムは思う。何だかんだで、傍から見てもお似合いと感じる二人なのである。
一方の杏は、最後の一枚を脱ぐことを躊躇っていた。
「むっ、無理です! これだけはぁ……」
左腕を胸に当てつつ右手でショーツを押さえ、脱ぐまいという意思表示。
(脱げ柚木っ……俺に全裸を見せろっ……!)
敗北のショックからまだ立ち直らぬ弾だが、これには反応して顔を上げる。マウンドから立ち上がると、杏の裸体がよく見えるよう血走らせた目を見開きながら近寄った。
「やっ、やぁっ、見ないで下さいっ……」
近寄ってくる弾に懇願する杏だが、弾がそれに応じる気配は無い。
「では私が魔法で脱がしましょうか」
「ぬっ、脱ぎます! 脱ぎますよぉ!」
ルシファーが軽く脅かすと、杏はあっさりと折れた。
弾が近寄って無言で見つめる中、左腕は胸から動かさぬまま右手だけでショーツを下ろし始める。しかし、あと少しで茂みが見えるという所で手は止まった。
(おい! 止まるな! 下ろせ! パンツを下ろせ!!)
弾が心の中で叫ぶ。杏は躊躇い気味に胸から左腕を離し掌をショーツに差し込んで股間を隠すと、右手でショーツを下ろした。
(くっ……手が邪魔だ! 乳首はさっき見た! 下を見せろ!)
そのまま毛の一本も見せないようしっかりと掌で股間を隠し、気を付けながらゆっくりと足を上げてショーツを脱いだ。
「これでいいですよね? もう全部脱いだんですから服返して下さい!」
すぐさま右腕を胸に当て、やむなく晒していたピンクの蕾を再び隠す。
「ふざけんな! ちゃんと見せろ! 好きなんだろ俺のこと!」
と、その時だった。弾は突如として杏の両手首を掴み、強引に身体から引き剥がしたのである。
「嫌ぁっ!!」
杏の悲鳴が球場に響く。遂に衆目に晒された杏の茂みは、適度に手入れされた逆三角形。
「へへ……俺に見せる気満々じゃねーか。もうここでヤらせろよ」
興奮のあまりルシファー達の存在も目に入らなくなった弾は、杏の柔肌に顔を近づけようとする。だがその時、杏の身体と弾の顔の間に三又の槍が差し込まれた。
「ひっ!?」
突然目の前に刃物が現れたので、弾は顔を青くして身を退いた。
「嫌がってんじゃん。それ以上はやめときなよ」
逆手に槍を掴んだリリムが、いつになく冷たい声で言う。刃先はおっ勃った股間のバットに紙一重の距離で突き付けられていた。
続けて、ルシファーの漆黒の翼が杏の裸体を弾の視界から覆い隠した。
「おい! ふざけんなよ! お前らが脱がしといて今更正義面してんじゃねーよ!」
槍にビビって裏声になりながらも文句を言う弾を、ルシファーは冷たい目で見下す。
「言っていることは御尤もだ。だが我々が女性を脱がすのはカップル成立のため。その芽が摘まれた今、彼女の裸体を君に見せる価値は無いのでな」
ルシファーの翼に身を覆い隠された杏はすすり泣いていた。だがそれを見ても弾の心に生じるのは、裸を隠されたことに対する怒りのみだ。
「脱衣ゲームは時に人の心をも丸裸にする。野蛮で暴力的で、品性の欠片もないけだもの。それがお前の本性だ、牧野弾」
弾の下腹部が、ユニフォームの上からでも分かる光を放つ。
「お前に俺の紋章を刻んだ。これでもうお前は二度と性行為ができない。自分の所業を反省することだ」
その言葉を聞かされた弾から、心の折れる音がした。プライドを粉砕され、男の性すらも終わらされる。迂闊にも性欲に揺り動かされた男の、惨めな末路であった。
同じくして翔馬と希耶にも、こちらは恋人とのみ性行為が可能になる“天使のご加護”が刻まれ、杏と希耶に服が返される。
「柚木さん、怖い思いをさせてしまい大変申し訳ありません。いつか貴方が、貴方を本当に大切にしてくれる方と巡り会えることを願っています」
服を着終えた杏にルシファーが深々と頭を下げると、杏は首を横に振った。
「い、いえ、そんな。あの、えっと……私が悪いんです!」
突然杏がわけのわからないことを言い出すので、ルシファーは頭上に疑問符を浮かべる。
「牧野先輩は口が悪いだけで本当はいい人かもしれないと勝手に思い込んで……私が愚かで人を見る目が無かったんです。それを気付かせてくれたことには……感謝しています」
そう言いつつも内心複雑そうな表情をする杏に、ルシファーは返す言葉が無かった。
翌日。
「へー、お前ら結局寄り戻したんだ」
昨日の部活が終わって帰宅した後、お泊りデートからの仲直りックスですっかりラブラブに戻った翔馬と希耶。手を繋いで朝練に出てきた二人を見て、当真が言った。
「まあ、結局あたしは翔馬じゃなきゃダメだった、みたいな……」
「へへ……いいもんっスね、腐れ縁ってのは」
翔馬の腕を抱き寄せる希耶に、頭を掻いて照れる翔馬。朝っぱらからイチャつく二人を見て、当真は「ケッ」と鬱陶しそうに息を吐いた。
そうしていたところ、登校してきた者がもう一人。先日翔馬達と熱戦を繰り広げた杏である。
「おはようございます」
そう声をかけてきた杏の姿を見て、一同は驚愕。
「柚木先輩、その髪……」
昨日まで肩にかかるくらいの長さだった髪を、耳下辺りまでの長さにばっさりカット。大幅なイメチェンをしてきたのである。
「実らなかった恋を忘れるために、です」
毛先を撫でながらそう言う杏の表情は、どこか満ち足りた様子だった。
弾に裸を見られたことも、酷いことをされそうになったことも完全に記憶から消えた。だが弾の下劣な本性を知り完全に冷め切ったことだけは覚えていた。
髪と一緒に弾への気持ちを断ち切り、新たな一歩を踏み出す。杏の進む先は、希望に満ちていたのだ。
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