桜のように散りゆく君へ

桜蛇あねり

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「うわぁー!今年も桜が綺麗だぁ!ここからの眺め、最高っ!気持ちいい!」

「やっと............登りきった........」

「情けないぞ!大樹!このくらいでへばるんじゃないっ!」

「美桜は元気だな........」

「大好きな桜を見るためだもん!このくらいへーきへーき!」


 4月上旬。俺たちはようやく満開になってくれた桜を見に来た。昨年も桜の開花時期に一緒に来た、山の頂きにある展望台。山を登らないといけないので、ここに来るのは苦労するが、この展望台から見る桜はとても綺麗だ。

 昨年のことをふと思い出す。告白で良い返事をもらって、初デートで来たのがここだった。
 美桜は高校生から毎年ここに来ているようで、いつも1人で来ては、満開の桜を見ながら考えごとをするのだそうだ。展望台はかなり古く、手入れもされていないため、こんなにも綺麗な景色が見られるのに、実は穴場のスポットである。

「ここは私と大樹しか知らない、秘密の場所だから、誰にも教えちゃダメだよ」

 美桜はいたずらっぽく笑いながら、誰もいないのに、声をひそめて俺の耳元で囁いた。その距離と声にドキドキしながら、観る満開の桜は、最高に美しかった。



「見て見て!山一面桜色だよ!」

 美桜のはしゃぐ声に、俺は現実に引き戻される。美桜は展望台の手すりから身を大きく乗り出し、眼下に広がる桜を見渡していた。

「おい、あんま乗り出すなって危ないだろ!」

「大丈夫だよ!子どもじゃないんだからさ!あ!あっちの景色もよさそう!」

 ひょい、と手すりから身を引いた彼女は、さらに先へと走っていく。それはまるで、じっとしていることが出来ない好奇心旺盛の幼子のようで、俺は軽くため息をついた。子どもにリードをつけたい、と言う親の気持ちが今ならわかる気がした。

「大樹ー!こっちー!」

 展望台の1番端で、大きく手を振りながら俺を呼ぶ美桜。まぁでも、こういう好奇心旺盛でほおっておけないとこも、また美桜の魅力の一つだ。

「はいはい、今行くって!」

 俺は笑いながら、美桜の元へ向かった。



「こうやって桜を見てるとさ、がんばろーって気持ちになれるよね」

 2人で並んで桜を見ていると、ふと美桜がそんな事をつぶやいた。

「あー、就活?」

「それもだけど、いろいろ」

「いろいろ?授業とかバイトとか?」

「うん。そーゆーのも含めて、ぜーんぶ。............生きるのを頑張ろう、みたいな?」

 何気なく言った美桜の”生きるのを頑張ろう”という言葉が引っかかる。

「生きるのを頑張るって........。なに?悩みでもあんの?」


 俺は美桜が悩んでいるのを見たことがない。というか、彼女から笑顔が消えたところを見たことがない。よく笑い、よくしゃべる子で、それ故に男女問わず人気があった。
 みんなの前では、辛そうな顔を見せないだけかもしれない、もしかしたら悩みを抱えて無理に笑っているのかもしれない.....そう思い、前に1度、美桜に”悩みとかあったら、俺に相談して”と声をかけたことがあったが、彼女は少し考えた後に

「幸せすぎるのが悩み!」

と満面な笑みを向けてきた。
 その姿は裏表のない無邪気そのもので、本当に悩みはないんだろうな、と安心したものだ。

 と、そんなやり取りがあったので、もしかしたらこの一言は美桜からの苦悩のサインかもしれない、と考えたのだが、

「違うってば!そーじゃないって!」

俺の思いすごしだったようだ。

「そーじゃなくてね。.........あのさ、桜の花って枯れることないじゃん?」

「え、そーなの?」

「いや、んー、わかんないんだけど............ほら、枯れた桜の花って見たことなくない?桜の花の終わりって、散ることだからさ」

 言われてみれば、確かに枯れた桜の花は見たことがないかもしれない。確かに、と納得する俺に、美桜は続ける。

「満開に咲き誇って、綺麗な花のまま散っていく。徐々に枯れてゆっくり終わりを迎えるんじゃなくて、最高の状態で終わりを迎える。衰えることを知らない、凛々しい花............みたいな!」

「枯れない花、かぁ........」

 桜について、そんなふうに考えたことは無かった。いつも春になって桜を見て、綺麗だな、と思う程度だった。

「最期まで綺麗なままでいたいよね。だから、いろいろ生きることを頑張ろうって!」

 ただ綺麗だと思っていただけの桜。だけど、美桜と一緒に見るようになってから、もっと深くまで考えるようになれたかもしれない。目の前に広がる満開の桜が、枯れることを恐れない、力強い存在に思えた。

「なるほどな。なんか美桜らしいな」

 その姿は、俺の隣でいつも笑顔を絶やさない、美桜のようだと思った。

「うんっ!」

 美桜は嬉しそうに笑った後、視線を展望台の先へとうつす。

「就活、がんばろうね」

「おう。やる気出た」

 彼女の言葉に、俺は短くそう返した。憂鬱に思っていた就活だが、美桜と一緒に桜を見て、桜の生き様を考えて、なんだか上手くいくような気がしてきた。一生懸命、悔いのないように頑張ろう、そう決意した。

 少しの間、風の音だけが俺たちを包んでいたが、

「っしゃ!」

という美桜の元気のいい声にその静けさはやぶられた。

「んじゃ、見る桜を堪能したことだし、これからは食べる桜を堪能しようと思いますっ」

「はは、なんだ、それ。花より団子ならぬ、花も団子も、か?欲張りだな」

「私は欲張りだからね!桜ラテと、桜ケーキ食べたい!あと桜チョコ欲しい!」

「はいはい、わかったわかった」

 来た道を嬉しそうにかけて行く美桜を、俺は苦笑しながら追いかけた。
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