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チュートリアル
3.転入生
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3.転入生
クラスメイトたちの前に姿を現した転入生。
明るい赤毛まじりのショートカット。くりっとした黒い瞳。どこかあどけなさのある顔立ち。背丈は小柄で高校生というより中学、あるいは小学生として映画館を出入りできそうである。
一言で言えば愛らしい。二言だと可愛らしい。そんな形容詞を浮かび上がらせてくれる転入生とのファーストコンタクトを、教室にいる誰もが美少女であると認識しようとしていた。……しかし、
「おと……こ……?」
クラスの誰かがポツリと呟いた。
教卓の横に立った転入生。眉目秀麗な顔から少しズームアウトして全体図を拝見する。
すると、ある違和感に気付くのだ。
転入生が着ている制服は、片梨高校〝男子〟の制服だった。
女子のようにリボンやスカートといった限定装備は施されていない。周囲にいる男子生徒(※元女子生徒)の同じ長袖にズボンという服装であるが、上着の袖は布が余ってブカブカしている。
しかし、それがなんとも言えない癒しを振りまいていた。
生徒たちの戸惑いを尻目に、教師は黒板に自身の名前を書き出していた。
「色々と言いたいこともあるだろうが、東京からうちのクラスに転入してきた姫園伊織(ひめぞのいおり)君だ。まあ、みんな戸惑っているかもしれないが……男子ということになっている」
「「「ええええええええええええええ!!!」」」
クラス中が堰を切ったかのように一斉に叫んだ。
目の前の人物が男である事実。
美少女ではなく美少年。
クラスの反応は、落胆する者あればガッツポーズするもの有りと様々だった。
「はじめまして、僕の名前は姫園伊織。ちょっと得も言われぬ事情により、東京からこちら形梨高校へ転入することになりました。こんな時期に転入となりましたが、どうかこれから三年間、仲良くしてくださいね」
教室が静まるタイミングを見計らって、台本みたいな自己紹介を済ませた転入生の姫園伊織は、礼儀正しく皆に向かってペコリとお辞儀をする。
ざわざわと騒々しくなる教室。
クラスメイトからは「本当に男なの?」「得も言われぬ事情ってなに?」「小学生みたい!」などという質問が一斉掃射される。
そんな質問攻めに、伊織は頬を赤らめてうつむいてしまった。
しかし、そんな姿は『こんなに注目されちゃって恥ずかしい。どうすればいいの?』という転入初日のあるあるシチュエーションの一つとして皆には映ったらしく、クラス中の馬力が増し増しになっていく。
どうやら男とか女とかそういうのではなくマスコット的な枠ということでアリというのがクラスの結論だった。
……しかし、俺には何かが引っ掛かっていた。
一応言っておくが、無転換者の俺にはそういう趣味なんてない。どれだけ可愛かろうとも、女から男になった反転世界の住人に他ならない。
しかし、だからこそ気が付けるようななにかを……俺は、あの転入生から感じるのだ。
額から流れる冷や汗や、生徒から微妙に外れている視線。クラスに向かって微笑んでいるようだけど、その笑顔はまるで写真を撮る直前みたいに固定され、それ以上に変化しない。
緊張しているとかとは違う。壁は壁でも防壁というか、うかつに触れれば内側から爆発しそうな、そんな危ういなにかを転入生から滲み出ていた。
「おやおや荒野ったら、そんなマジマジと転入生ちゃんを見つめちゃっているなんて、無転換者の荒野的に、ああいう中性的なタイプはアリなのかなー?」
「ば、馬鹿言え! そんなわけないだろ!」
「キシシシ。でも、なんか似てるよね? 荒野がみんなにモテモテになっている光景にそっくりじゃないかな」
「え?」
後ろの席からちゃちゃ入れてきた紅葉の言葉にハッとする。
「というかそっくりだよ。見てくれの良し悪しとか関係なく、なんというか……そう、呪いみたいな魔性の魅力というか、媚薬的な誘惑というか……」
そんな風に人を観察していやがったのかと抗議したくなる紅葉の言葉を聞いて、ある可能性が脳裏をよぎる。
「なあ、それってもしかして……」
俺がその可能性について口にしようとしたとき……。
「木枯荒野くんですね?」
ふと、離れた位置で聞こえていたはず声が、すぐそばから聞こえてきた。
俺はゆっくりと声のした方へ振り返る。
「……転入生?」
そこには教卓で探照灯のごとき自己紹介をしていた転入生が立っていた。
「姫園伊織です。繰り返しますが、あなたが木枯荒野くんで間違いないですか?」
「あ、ああ……そうだけど」
俺は戸惑っていた。
直感的に、これは新たなやっかい事が始まりそうな不穏な予感をさせていた。
傍に立つ姫園伊織の身長は、百四十センチあるかないかといったところ。それに心なしか、それまで張り詰めていた空気らしきものは転入生から失われている。
しかし、伊織の言葉には有無を言わせない、そんな迫力が込められていた。
この伊織という転入生と俺は初対面だ。こんな美少年(※元美少女?)に遭遇なんてしたもんなら、記憶から数年離れてくれそうにないはずである。
そんな未確認人物がどうして俺なんかに話しかけてきたのだろう?
「噂で聞いていたんです。なんでも、あなたが大転変で性別の変わらなかった無転換者なのだと聞いたのですが、それは本当ですか?」
……そういうことかよ。
「ああ、そうだよ。で、それがどうしたって?」
俺は不良モードをONにしてぶっきらぼうに言い放ち、睨みを利かせた。
どうやら、朝のラブレター騒動の延長戦ってことになりそうだった。
俺が無転換者だと知られたのは、3年前の大転変の直後。小学校から顔見知りばかりな地元の中学校に登校してすぐのことだった。
自分が性別の変わっていないままだということは、その日のうちに、あっという間に街全体へ広まってしまった。
そのため、3年間という中学時代は、俺にとってトラウマどころか暗黒時代そのものなわけだが……そうか、こいつも俺が無転換者だからって理由で近づいてきたってことか。
だが、伊織は俺の威嚇にビクつくこともなかった。
それどころか、それまで無理していたような笑みが柔らかくほどけていき、硬い宝石みたいだった瞳が朝露のように潤んだかと思うと、
「なッ!」
俺の首に腕を回して、抱きついてきた。
「おい、なにしてんだ!」
突然のことに動転しながら、引き離そうと肩を掴む。しかし、小さな体に似つかわしくない力でしがみついていて離れてくれない。
なんだこれ、どうしてこんな状況になっているんだ?
それに細くて華奢な肩と、フワリとした伊織の髪から香る花のような匂いが俺の判断を惑わした。
クラスがさらなる追加燃料に「「「おおおお!」」」と歓声が沸く。
紅葉にしても、さらにおちょくるネタが増えて、さぞ小憎たらしいニヤケ顔していることだろうと思ったが、その紅葉は意外なことにあっけにとられた様子で成り行きを傍観していた。
「――ええい! いい加減、離れてくれ!」
思春期とも本能とも言えない様々な感情が混濁していた俺であったが、最終的に目の前の転入生が〝男〟という情報源が最後の後押しとなって、伊織を引き離すことに成功した。
「あ、ごめん。ここで逃したらもう会えないんじゃないかと思ったら、つい力が入って無茶しちゃった」
まるで長年追い求めていた獲物に例えたような言い方である。
「お前、いったいなんなんだ?」
呼吸を整えながら、色々と先走りが過ぎる転入生に問いかける。
「僕? 僕はね、君と同じなんだよ」
「なんだと?」
「3年前の大転変からずっと同じ。性別が変わらないまま今日まで生きてきた、木枯くんと同じ無転換者なんだよ」
「「「えええええええええええ!!!」」」
クラス中で再び驚きの声が轟いた。
「無転換者……つまり、俺と同じで3年前から性別が変わっていない?」
「うん、そうだよ。僕も同じ無転換者と会うのはこれが初めてなんだ。こうして自分のことを人に明かすのも初めてだからドキドキしちゃった」
「う、うそでしょ? 無転換者なんて世界規模で数えても二百人いるかいないかとか言われているのに、それが同じ高校に二人も揃っちゃうとかありえないよ!」
信じられないといった様子の紅葉。もちろん、俺だって自分以外の無転換者と遭遇するなんて初めての経験だ。
なんたって、無転換者というのは素性を隠して生活しているのが大半らしいからだ。
らしいというのは、他の無転換者がどこでどうゆう暮らしをしているのかなんて知らないからだ。
俺が無転換者であることが、学校はおろか街や一部ネットにまで情報が知られているような事態にまで悪化しているのは、大転変後の対応をしくじったためだ。
自分以外の性別が変わった中、一人だけ元の性別のままだと目立つ。そりゃ目立つ。
当時はなぜこんな現象が起こったのか判明するまで時間が掛かり、その間マスコミやら医者やらなにやらに追いかけ回されることになった。
今にして思えば、家に引き篭もるなり、周りに合わせて性別が変わったフリでもしてればよかったが、後の祭りである。
しかし、それでも難を逃れた無転換者がいても不思議じゃない。……というより、世界で無転換者が自分だけとか思いたくなかった。
そして、目の前には無転換者と名乗る転入生の姫園伊織がいる。
「……本当に、本当にようやく僕と同じ無転換者に出会えたんだ。僕、ずっと心細い想いをしてきたから、仲間が出来たみたいでとても心強いよ」
伊織は嬉しそうな顔で、瞳から零れる大粒の涙を拭っていた。しかし、それとは対照的に俺はこの転入生の今後を心配していた。
「わ、分かった。とりあえず、お前が俺と同じ無転換者というの分かったから、これ以上目立つな、なっ!」
この反転世界で無転換者であることを公表するなんて、ろくなことにはならないの分かりきっているはずなのに、いったいなに考えているんだ?
「あー、それでは伊織くんの席についてなんだが……いいかね?」
と、そこでずっと置いてけぼりを食らっていた担任教師の言葉に、伊織は残念そうに肩を落として、
「それじゃ木枯くん。詳しい話は、時間のあるときにしましょうね」
そう言い残して、名残惜しそうに教卓へ戻っていった。
伊織が離れ、残された俺は、胸の奥深くにて『ドッキン!ドキンッ!』と高鳴るマイハートの誤作動を鎮めることに集中していた。
(お、落ち着け。この転入生は〝男〟だ。俺と同じ無転換者の純粋な男なんだぞ! 静まれ! 静まれ、俺の思春期!)
呪文のように心の中で繰り返し、静まれと唱え続けていると、後ろの席で面白おかしそうにニタニタしていた紅葉に、
「これで女の子だったらよかったのにー、なんて思っちゃったりしてる?」
「――う・る・さ・い!」
そのものズバリ見抜かれて、反射的な横チョップを放ってしまったのである。
クラスメイトたちの前に姿を現した転入生。
明るい赤毛まじりのショートカット。くりっとした黒い瞳。どこかあどけなさのある顔立ち。背丈は小柄で高校生というより中学、あるいは小学生として映画館を出入りできそうである。
一言で言えば愛らしい。二言だと可愛らしい。そんな形容詞を浮かび上がらせてくれる転入生とのファーストコンタクトを、教室にいる誰もが美少女であると認識しようとしていた。……しかし、
「おと……こ……?」
クラスの誰かがポツリと呟いた。
教卓の横に立った転入生。眉目秀麗な顔から少しズームアウトして全体図を拝見する。
すると、ある違和感に気付くのだ。
転入生が着ている制服は、片梨高校〝男子〟の制服だった。
女子のようにリボンやスカートといった限定装備は施されていない。周囲にいる男子生徒(※元女子生徒)の同じ長袖にズボンという服装であるが、上着の袖は布が余ってブカブカしている。
しかし、それがなんとも言えない癒しを振りまいていた。
生徒たちの戸惑いを尻目に、教師は黒板に自身の名前を書き出していた。
「色々と言いたいこともあるだろうが、東京からうちのクラスに転入してきた姫園伊織(ひめぞのいおり)君だ。まあ、みんな戸惑っているかもしれないが……男子ということになっている」
「「「ええええええええええええええ!!!」」」
クラス中が堰を切ったかのように一斉に叫んだ。
目の前の人物が男である事実。
美少女ではなく美少年。
クラスの反応は、落胆する者あればガッツポーズするもの有りと様々だった。
「はじめまして、僕の名前は姫園伊織。ちょっと得も言われぬ事情により、東京からこちら形梨高校へ転入することになりました。こんな時期に転入となりましたが、どうかこれから三年間、仲良くしてくださいね」
教室が静まるタイミングを見計らって、台本みたいな自己紹介を済ませた転入生の姫園伊織は、礼儀正しく皆に向かってペコリとお辞儀をする。
ざわざわと騒々しくなる教室。
クラスメイトからは「本当に男なの?」「得も言われぬ事情ってなに?」「小学生みたい!」などという質問が一斉掃射される。
そんな質問攻めに、伊織は頬を赤らめてうつむいてしまった。
しかし、そんな姿は『こんなに注目されちゃって恥ずかしい。どうすればいいの?』という転入初日のあるあるシチュエーションの一つとして皆には映ったらしく、クラス中の馬力が増し増しになっていく。
どうやら男とか女とかそういうのではなくマスコット的な枠ということでアリというのがクラスの結論だった。
……しかし、俺には何かが引っ掛かっていた。
一応言っておくが、無転換者の俺にはそういう趣味なんてない。どれだけ可愛かろうとも、女から男になった反転世界の住人に他ならない。
しかし、だからこそ気が付けるようななにかを……俺は、あの転入生から感じるのだ。
額から流れる冷や汗や、生徒から微妙に外れている視線。クラスに向かって微笑んでいるようだけど、その笑顔はまるで写真を撮る直前みたいに固定され、それ以上に変化しない。
緊張しているとかとは違う。壁は壁でも防壁というか、うかつに触れれば内側から爆発しそうな、そんな危ういなにかを転入生から滲み出ていた。
「おやおや荒野ったら、そんなマジマジと転入生ちゃんを見つめちゃっているなんて、無転換者の荒野的に、ああいう中性的なタイプはアリなのかなー?」
「ば、馬鹿言え! そんなわけないだろ!」
「キシシシ。でも、なんか似てるよね? 荒野がみんなにモテモテになっている光景にそっくりじゃないかな」
「え?」
後ろの席からちゃちゃ入れてきた紅葉の言葉にハッとする。
「というかそっくりだよ。見てくれの良し悪しとか関係なく、なんというか……そう、呪いみたいな魔性の魅力というか、媚薬的な誘惑というか……」
そんな風に人を観察していやがったのかと抗議したくなる紅葉の言葉を聞いて、ある可能性が脳裏をよぎる。
「なあ、それってもしかして……」
俺がその可能性について口にしようとしたとき……。
「木枯荒野くんですね?」
ふと、離れた位置で聞こえていたはず声が、すぐそばから聞こえてきた。
俺はゆっくりと声のした方へ振り返る。
「……転入生?」
そこには教卓で探照灯のごとき自己紹介をしていた転入生が立っていた。
「姫園伊織です。繰り返しますが、あなたが木枯荒野くんで間違いないですか?」
「あ、ああ……そうだけど」
俺は戸惑っていた。
直感的に、これは新たなやっかい事が始まりそうな不穏な予感をさせていた。
傍に立つ姫園伊織の身長は、百四十センチあるかないかといったところ。それに心なしか、それまで張り詰めていた空気らしきものは転入生から失われている。
しかし、伊織の言葉には有無を言わせない、そんな迫力が込められていた。
この伊織という転入生と俺は初対面だ。こんな美少年(※元美少女?)に遭遇なんてしたもんなら、記憶から数年離れてくれそうにないはずである。
そんな未確認人物がどうして俺なんかに話しかけてきたのだろう?
「噂で聞いていたんです。なんでも、あなたが大転変で性別の変わらなかった無転換者なのだと聞いたのですが、それは本当ですか?」
……そういうことかよ。
「ああ、そうだよ。で、それがどうしたって?」
俺は不良モードをONにしてぶっきらぼうに言い放ち、睨みを利かせた。
どうやら、朝のラブレター騒動の延長戦ってことになりそうだった。
俺が無転換者だと知られたのは、3年前の大転変の直後。小学校から顔見知りばかりな地元の中学校に登校してすぐのことだった。
自分が性別の変わっていないままだということは、その日のうちに、あっという間に街全体へ広まってしまった。
そのため、3年間という中学時代は、俺にとってトラウマどころか暗黒時代そのものなわけだが……そうか、こいつも俺が無転換者だからって理由で近づいてきたってことか。
だが、伊織は俺の威嚇にビクつくこともなかった。
それどころか、それまで無理していたような笑みが柔らかくほどけていき、硬い宝石みたいだった瞳が朝露のように潤んだかと思うと、
「なッ!」
俺の首に腕を回して、抱きついてきた。
「おい、なにしてんだ!」
突然のことに動転しながら、引き離そうと肩を掴む。しかし、小さな体に似つかわしくない力でしがみついていて離れてくれない。
なんだこれ、どうしてこんな状況になっているんだ?
それに細くて華奢な肩と、フワリとした伊織の髪から香る花のような匂いが俺の判断を惑わした。
クラスがさらなる追加燃料に「「「おおおお!」」」と歓声が沸く。
紅葉にしても、さらにおちょくるネタが増えて、さぞ小憎たらしいニヤケ顔していることだろうと思ったが、その紅葉は意外なことにあっけにとられた様子で成り行きを傍観していた。
「――ええい! いい加減、離れてくれ!」
思春期とも本能とも言えない様々な感情が混濁していた俺であったが、最終的に目の前の転入生が〝男〟という情報源が最後の後押しとなって、伊織を引き離すことに成功した。
「あ、ごめん。ここで逃したらもう会えないんじゃないかと思ったら、つい力が入って無茶しちゃった」
まるで長年追い求めていた獲物に例えたような言い方である。
「お前、いったいなんなんだ?」
呼吸を整えながら、色々と先走りが過ぎる転入生に問いかける。
「僕? 僕はね、君と同じなんだよ」
「なんだと?」
「3年前の大転変からずっと同じ。性別が変わらないまま今日まで生きてきた、木枯くんと同じ無転換者なんだよ」
「「「えええええええええええ!!!」」」
クラス中で再び驚きの声が轟いた。
「無転換者……つまり、俺と同じで3年前から性別が変わっていない?」
「うん、そうだよ。僕も同じ無転換者と会うのはこれが初めてなんだ。こうして自分のことを人に明かすのも初めてだからドキドキしちゃった」
「う、うそでしょ? 無転換者なんて世界規模で数えても二百人いるかいないかとか言われているのに、それが同じ高校に二人も揃っちゃうとかありえないよ!」
信じられないといった様子の紅葉。もちろん、俺だって自分以外の無転換者と遭遇するなんて初めての経験だ。
なんたって、無転換者というのは素性を隠して生活しているのが大半らしいからだ。
らしいというのは、他の無転換者がどこでどうゆう暮らしをしているのかなんて知らないからだ。
俺が無転換者であることが、学校はおろか街や一部ネットにまで情報が知られているような事態にまで悪化しているのは、大転変後の対応をしくじったためだ。
自分以外の性別が変わった中、一人だけ元の性別のままだと目立つ。そりゃ目立つ。
当時はなぜこんな現象が起こったのか判明するまで時間が掛かり、その間マスコミやら医者やらなにやらに追いかけ回されることになった。
今にして思えば、家に引き篭もるなり、周りに合わせて性別が変わったフリでもしてればよかったが、後の祭りである。
しかし、それでも難を逃れた無転換者がいても不思議じゃない。……というより、世界で無転換者が自分だけとか思いたくなかった。
そして、目の前には無転換者と名乗る転入生の姫園伊織がいる。
「……本当に、本当にようやく僕と同じ無転換者に出会えたんだ。僕、ずっと心細い想いをしてきたから、仲間が出来たみたいでとても心強いよ」
伊織は嬉しそうな顔で、瞳から零れる大粒の涙を拭っていた。しかし、それとは対照的に俺はこの転入生の今後を心配していた。
「わ、分かった。とりあえず、お前が俺と同じ無転換者というの分かったから、これ以上目立つな、なっ!」
この反転世界で無転換者であることを公表するなんて、ろくなことにはならないの分かりきっているはずなのに、いったいなに考えているんだ?
「あー、それでは伊織くんの席についてなんだが……いいかね?」
と、そこでずっと置いてけぼりを食らっていた担任教師の言葉に、伊織は残念そうに肩を落として、
「それじゃ木枯くん。詳しい話は、時間のあるときにしましょうね」
そう言い残して、名残惜しそうに教卓へ戻っていった。
伊織が離れ、残された俺は、胸の奥深くにて『ドッキン!ドキンッ!』と高鳴るマイハートの誤作動を鎮めることに集中していた。
(お、落ち着け。この転入生は〝男〟だ。俺と同じ無転換者の純粋な男なんだぞ! 静まれ! 静まれ、俺の思春期!)
呪文のように心の中で繰り返し、静まれと唱え続けていると、後ろの席で面白おかしそうにニタニタしていた紅葉に、
「これで女の子だったらよかったのにー、なんて思っちゃったりしてる?」
「――う・る・さ・い!」
そのものズバリ見抜かれて、反射的な横チョップを放ってしまったのである。
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