とあるTSFによってアンチの日常は終了してしまいました。

型抜久遠

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チュートリアル

4.幼馴染

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4.幼馴染

 HRが終わった。
 転入生、姫園伊織の席は一人分足りてなかった窓際列の一番後ろということになった。

 なお、この結果に紅葉は『キシシシ。突然の転入生ということで1パネル以内の席になると思ったかね? だが残念だったね。前と左右は埋まっているし、後方はボクがキープしているんでギャルゲー展開は起こらないよ』などと勝手な持論を展開していた。

 話題盛り沢山な転入生の登場であったが、一時限目の授業が始まり、伊織は――さっそくやらかしてくれた。

 そこには生徒も教師も置き去りにして、起立したまま教室で活き活きと熱弁を振るっている伊織がいた。

 科目は『科学』だ。

 きっかけは教科書にあった小さなミスを伊織が指摘したことであったが、いつの間にか伊織は独自の考察を語り始めてたのだ。

 とても高校生には理解をお断りさせるレベルの内容に、クラス中は夢の世界へ導かれる。

 後方の紅葉は開始早々眠りに落ち、俺も成す術もなくシシオドシ状態と化してしまい、教室はすっかり伊織のワンマンショーとなっていた。

 ……でも、これで伊織という転入生について少しだけ分かったことが出来た。

 あきらかにこの科学は伊織の得意分野。知識量も高校生の枠に収まりきれるものではない。
 だが、そもそも伊織の言葉には相手を理解させようとする気配りが微塵も感じられない。

 伊織の講義は、教卓でポカンとしている教師にも、ラリホーされてる俺たちにも向けられたものじゃない。伊織は誰に対してもなく、ただただ自分の主張を垂れ流しにしているだけだった。

 それはこの転入生が、他の人間をミジンコみたいに思っているか、人と面と向かって話せない深刻なコミュ症持ちであることを予想させる。

 良い意味でマイペース。悪い意味で自己中心的。つまり唯我独尊タイプ。多分、血液型はB型だ。

 その後も国語や数学といった授業が続くが、伊織は一転して静かに授業を受けているだけであった。どうやら化学以外の授業はどうでもいいらしい。

 ひょんな所から明るみになった噂の転入生の奇行は、無転換者という情報と共に、様々な尾ヒレを持って昼休みには学校中に知れ渡ることになっていた。

 ◇◆◇
 
「こーやー。あの転入生についてどう思う?」

 放課後になった。
 あれだけ騒がしかった一年A組の教室は、部活ある者と帰宅する者に分かれて、残っている生徒の数は少なくなっている。

 そんな俺も帰宅するべく、鞄に本日分の教科書やらを詰め込んで帰り支度をしていたわけだが、後ろの席で机に突っ伏したまま微動だにしていない紅葉が話しかけてきた。

「伊織ちゃんったらね、この放課後までの間、ボクやクラスメイトの誰とも会話してくれないんだよ」
「へー、そうなのかー」
「そーなんだよー。科学の授業ではあれだけ喋っていたけど、あれは会話とは違うし、これまで伊織ちゃんとまともに会話しているのは荒野だけなんだよ……」

 グスングスンと、わざわざ口で泣き真似しながら訴えてくる紅葉。

「……お前がうっかりハレンチな話題を出したせいで引かれたんじゃないのか?」
「チガウヨー、全然チガウヨー。ボクは純粋に転入生のことが知りたくて声をかけたんですー」
「本音は?」
「エッチな話題ばかりマシンガントークして、伊織ちゃんの真っ赤になっちゃった顔をペロペロしたいです。転入生ってことを理由に親切にするフリをして誰もいない物陰に連れ込んでペロペロしたいです」
「くたばれ。そういうお前の禍々しさを察して逃げたんじゃないのか?」
「ちーがーうーのー! 今のはほんのジョークなのー!」

 ガバっと顔を上げて手足をバタバタさせる紅葉。

「ボクにはね、荒野の保護者として、あの無転換者である姫園伊織ちゃんとお友達になるべきだと思うんだ」
「誰が誰の保護者だよ!」
「だって、荒野と同じ無転換者なんだよ。どんなキャラなのか興味あるんだもん!」
「ギャルゲーのノリを現実に持ってくるなよ、まったく」

 ……まあ、確かに。通常なら期間限定である転入生という肩書きを利用して、なるべく早く新しいクラスに馴染めるようにするのが戦略的にも正しい。
 だけど、伊織は少々通常ではない事情を抱えている。それは……、

「そもそも、あいつは〝無転換者〟だ。なら、俺みたいに意図して人との接触を避けているんじゃないのか?」

 昨今の無転換者というのはレッテルだけで人を呼ぶ。そのため、俺のように他者との交流を避けているのではないかと、無転換者的な思考を巡らせていた。

「うーん。でも、荒野とはなーんか違うんだよね。荒野が白旗という逃げの一手で避けているとするなら、伊織ちゃんは盾と槍を手に臨戦態勢で構えているような……そんなピリピリした気配がするんだよね」

 紅葉が腕を組んで考え込む。
 その結果、紅葉の胸部分が強調されるように持ち上がる。
 あまりに自然な動作は元男故の天然か? ハニートラップなのか? どちらにしろ、免疫もない俺は、紅葉のたわわな胸から目線を逸らそうとして教室の出入り口に向ける。すると、

 ガラララッ――バタン!

「はあ、はあ……い、いた。木枯くん!」

 噂をしてればなんとやら。
 勢いよく教室の戸が開かれ、渦中の転入生である姫園伊織が姿を現した。

「どうしたんだ、その姿」
「あ、あははは……ちょっと撒くのに手間取ってね」

 どこを走り回っていたのやら。伊織の髪や制服(※男性用)に、小枝やら土があちこちに付いていた。
 きっと、学校中の生徒たちから追いかけられていたんだろう。転入初日での無転換者カミングアウトに、科学でのアンコール。そりゃ注目されて当然だ。

 そんな伊織は一息つく間も惜しむように、急ぎ足で俺の傍まで近づいてくると、

「さあ、木枯くん。一緒に帰ろうよ!」

 ナチュラルに下校の誘いを持ちかけて……ちょっと待て。

「おい、ダレがダレと帰ろうって?」
「もちろん僕と木枯くんと二人で下校しましょうってことだけど?」
「――ま、まてまてまてぇい! どうして俺なんだ? だいたい、俺が学校でどういう風に見られているのか知らないのか?」
「え? 僕と同じ無転換者ってことじゃないの?」

 キョトンと小首を傾げる伊織。

 ど、どういうことだ?
 自慢じゃないが、俺はこの学校で表面上は不良ということで通っている……はず。
 これでも日々ギリギリのラインで不良っぽく振る舞うために、ポケットに手を入れて周囲を威圧(警戒)。サボっているように見せかけて英単語の復習。定期的にセクハラしてくる紅葉をどついて凶暴性をアピール(?)していた。
 まあ……中には今朝のラブレター娘みたいに無効化してくる剛の者もいるみたいだが、この高校に通う生徒のほとんどが俺のことを不良と認識しているんじゃなかったのか?

「ねえねえ、荒野。伊織ちゃんは転入生だよ。ということは……」

 ――そうか!
 この姫園伊織は転入生。今日やって来たこいつには、俺が入学式からコツコツ積み上げてきた不良としてのイメージなんて知る由もないってことか!

「どうしたの? もしかして、用事あった?」
「え、いや……ないけど」

 ここで嘘でもYESと答えておけばよかったと、変に真面目な自分が嫌になる。

「じゃあいいよね。はい、決まりだよ! 確か木枯くんのお家って、学校から徒歩三十分くらいのところにある商店街を抜けた先だったよね?」
「お、おう……」
「その先にある大橋を渡ると住宅地があって、木枯くんの家は田中さん家の角を西に曲がって、大型の犬を飼っている五十嵐さん家と山田さん家の小道を通って、小西さん家に沿って真っ直ぐ真っ直ぐ行ったところにある場所が木枯くんのお家で間違いないんだよね!」
「あ、ああ……そうだよ」
「よし! 事前調査通りね!」

 グッとガッツポーズをする伊織。
 なんだ、なんで急にテンション高くなっているんだ?

「よかった。実はあたしの住んでいるマンションもそっち方面で……」
「あたし?」
「ち、違うの! あた――新しいあ、僕の新しく住んでいるマンションも木枯くんと同じ方向だって言いたかったんだ」

 なぜか伊織は慌てふためいて言い繕っていた。

「不思議だねー、偶然だねー。これだけ条件が揃えば帰り道が一緒になっても仕方ないよねー。そういうわけで木枯くん。木枯くんはこの辺に詳しいんでしょ。転校したてで右も左も分からない僕が迷子にならないためにも一緒に帰ろうよ!」
「え、あ、お、おお……」

 興奮したように喋り続けていた伊織に圧倒されて、流れで同意してしまいそうになっていると、

「いやいやいやいや、おかしいでしょ! 転入したばかりなのに、すでに荒野の自宅をリサーチ済みとかおかしいでしょ! そこんとこ気付こうよ、荒野!」

 珍しく冷静で的確なツッコミに、俺はハッと我に返る。
 そ、そうだ。確かにおかしい。

「……あなた、誰?」

 そこでようやく伊織は、紅葉という第三者がいたことを認識したらしい。

「ボクかい? ボクの名前は庭咲紅葉。荒野とは家が隣同士という、ギャルゲーやラノベとかでお約束なテンプレ設定持ちの幼馴染なんだよ」

 設定ってなんだよとツッコミ入れたいけど、だいたいその通りなので困る。

 紅葉とは小学生の時に隣りに引っ越してきてからずっと幼馴染という関係だ。もっとも、その出会いは現在進行形である女の子としてではなく〝男の子〟として知り合ったわけだが……。

「ふふん。荒野の家は調べても、ボクの家は知らなかったみたいだね」

 鼻を鳴らす紅葉に対して、伊織の眉がわずかにピクンと動いたのが増えた。

「そういうわけで、荒野のお隣さんであるボクにも転入生ちゃんと並んで帰る資格があると思わないかなー?」

 どやぁ……といわんばかりの表情を伊織に向ける。確かに理屈はそうなんだろうけど、そこまでして転入生と一緒に帰りたいのか?

「……チッ。うざいわね、こいつ」
「へ?」

 どこからともなく、舌打ち混じりの苛立たしげな呟きが聞こえたかと思ったとき、

「――紅葉! 庭咲紅葉はいるか!」

 ガラリ! 

 と、勢いよく教室の戸がスライドした。

「な、なんだなんだ?」

 ぞろぞろと教室になだれ込んできたのは、形梨高校運動部の面々。それも、暑苦しそうな男子(※元女子)部員ばかりである。

「おい、なんかご指名されてるぞ」
「あー……うん、やっぱりあれかな」

 心当たりがあるらしく、紅葉は困った顔をしていた。
 運動部の先輩たちは紅葉の姿を見つけるなり、集団で取り囲むように陣形を組む。さりげなく、俺や伊織も巻き込まれる形となっていたりする。

「あの……なにか?」
「しらばっくれるなよ、庭咲紅葉。お前、確か入学してあちこちの部活に仮入部していたな。そのとき、各部の女子部員をナンパして回っていたそうじゃねえか?」

 ガタイの良い先輩たちは、すごい剣幕で紅葉を威圧している。

「紅葉、お前……。そんなことしてたのか?」「キシシシ。いやー、だって高校生になったんだし、やっぱり甘酸っぱい青春ラブコメとかしてみたいじゃないか。でも、ちょっと派手にやり過ぎちゃっただね。テヘペロ☆」

 学校の運動部員が雁首揃えて迎えに来るとか、どんなナンパをしでかしたんだよ。いや、そもそも気になるのは……。

「おい、紅葉。分かってると思うが、女の子をナンパって……そいつらは3年前まで普通の〝男〟だったってことだぞ」

「うん、そうだよ」

 紅葉はあっけらかんと即答した。

「お前正気か? ギャルゲーとか二次元じゃないんだぞ」
「だって女の子だよ、女の子! 無転換者の荒野的には複雑かもしれないけど、ちゃんと女の子していれば三次元でもボク的にはOKなのさー」

 そう熱意を込めて語るのは、子供の頃からの幼馴染であり、現在進行形で〝女〟である紅葉であった。

 ……そういえば、この今の紅葉にこれまでと同じ男友達でいてほしいと願ったのは、他でもない俺である。
 そんな紅葉が女になっても女の子が好きなどと口走るのは、仕方がないことなのかもしれない……のか?

「キシシシ。そんなにおかしいかい、荒野。たとえ3年前がどうだったとしても、この体が大転変以前の女の子ほんものと遜色ないってことくらい、荒野も身をもって体験しているはずだよね」

 と、紅葉は自身のたわわな胸をぎゅっと握るように揉み上げると、悩ましげなウインクをしてみせた。

「へー……そうなんだ」

 無意識に顔を紅潮させてしまったことで、ジト目で傍観していた伊織が、ススス……と俺から距離を開ける。
 そ、そんな反応するな! 思春期の身体は理性より正直なんだよ。

「まったく、荒野も強情だよね。あの大転変から3年前も経つんだよ。もういい加減、今の世の中の変化を受け入れてしまえば楽になれるのに」

 やれやれと女になって3年目な幼馴染が肩をすくめた。

「そ、そう割り切れるものでもないだろ! 性別が変わったからといって、今の〝女〟ってやつはみんな元男なんだぞ! そんなバックグラウンド持った連中なんかと恋愛関係になれるわけないだろ!」

 俺がずっとブレることなく無転換者としてとても常識的な胸の内を言葉にしたわけだが、紅葉はなにか思いついたのだろう。小悪魔っぽく口元を吊り上げて、

「ふーん……つまり、荒野は無転換者な女の子との出会いを諦めていないわけだね」
「――――えッ!?」

 この戸惑いの声を上げたのは俺ではなく、転入生にして無転換者の〝男〟だと自己紹介した姫園伊織であった。

 そうだよな。驚くよな。
 今回みたいに同じ無転換者と遭遇するだけでも奇跡に近いってのに、それが都合良く『無転換者の女の子と出会えればいいな』って気持ちを捨てられずにいるんだから。

「荒野が性別の変わった女の子や男の子に抵抗を感じているのは知ってるよ。でもさ、ここらで一つ妥協しておかないと、一生童貞のままで過ごす羽目になっちゃうかもよ?」
「ほっとけよ!」

 なるべく考えないようにしていたリアルな未来を指摘され、俺はさらに動揺した。

「う、うるさい! 悪いかよ! どこかできっと、俺と同じような境遇になっている無転換者の女の子がいるはずだって、夢見ちゃってもいいじゃないか!」

 そう、俺はかつてそのままな無転換者の男である。

 極々普通の女の子と手を繋いだり、デートしたり。そういうありふれた恋愛の一つや二つしてみたい。
 でも、あいにくこの反転世界で普通の女の子との出会いなんてものは、到底ありえないことなんだ。

「もう、荒野ったら。ほとんどの無転換者が荒野みたいに無転換系男子の看板背負っているわけじゃないと思うよ。いつまでも過去の世の中にこだわるなんて、そんな手の届かないところにあるものなんて、ギャルゲーの女の子と同じだよ」
「二次元と一緒にすんじゃねえ! おい、伊織!お前からもなんか言ってやってくれ」
「え、え? なんて」
「まだこの反転世界に、無転換者の男と出会うことを夢見ている〝無転換者の女の子〟がいるはずだって! お前も無転換者の男ならそう思うだろ?」
「あ……う、ん。そう……だね。本物の女の子と、会えるといいね……」

 同じ無転換者の男ということで同意を求めたのだが、なぜか伊織は耳まで真っ赤に染めてうつむいてしまった。

 さっきから聴き耳立てていた運動部員の面々も、ナイナイの一点張り。紅葉も困ったもんだとばかりに憂いを込めた瞳を向けている。うぐぐ……。

「もうしょうがないなー。こうなったら、荒野が魔法使いにならないためにも、幼馴染であるボクが一肌脱いであげようではないか」

 などと言い出すなり、紅葉はおもむろに自分の机の上に腰掛ける。そのまま、制服のリボンを解いて上着をはだけさせた。

「お、おぉい! なにしてんだッ!」
「なにって? いわゆる一つのショック療法だよ。元の性別関係なく、荒野という〝男の子〟が女の子というものに反応してしまうむっつりスケベだってことを自覚してもらうためのね」

 紅葉は真っさらなシャツのボタンを一つ一つ外していき、縦に開かれた隙間から、桃色をしたブラジャーが見えた。かつて大転変以前ですらどれだけ所持者がいたか分からないサイズをさせた胸の膨らみが、布一枚を隔てて露わになった。
 そのまま、細くて綺麗な紅葉の手先が、肩から腰へと、柔らかそうな肌を滑らせていく。
 その一連の流れから、男の本能によって目をそらせないでいる俺の有様を、伊織は悪戯っぽく舌なめずりをさせながら鑑賞していた。

 突然始まったストリップショーに、隣の伊織も「な、なななななあぁ!?」と、半ばパニックになりながら凝視している。
 まだ教室には残っているクラスメイトや、外には騒ぎを聞きつけた他クラスの連中が覗いているのに、なにやってんだこの色情狂!

 人として大切な理性を熱暴走させてしまった紅葉は、どこか酔っているみたいに火照らせた表情で、スカートに手を掛け……

「ボク荒野とだったら……って、あれ?」

 ……ようとしたところで、運動部の先輩方に両脇をがっちり抱えられた。

「はいはい、そういうのはうちらのお仕置きが済んでからにしてくれよ」
「こちとら元は女だったんでー、そういうの通じないんでー、そのつもりでー」

 そのまま、ガタイのよい男子運動部員(※元女子)たちによって、紅葉は教室の外へと連行されていった。
 
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