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チュートリアル
5.反転者
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5.反転者
「……ねえ。あの【反転者】ってどんな人なの?」
場所は変わって片梨高校生徒たちの昇降口。
下駄箱から靴を取り出して履き替えていると、転入生の姫園伊織が話しかけてきた。
「どんな人って?」
「あれよ! じゃなく……あの人です。なんか公然わいせつで捕まってもいいのに野放しになってる、男から女になった反転者」
「ああ、紅葉のことか」
先の教室での一件のことである。
結局、紅葉が運動部員たちにドナドナされたあと、取り残される形となってしまった俺たちは、一緒に下校する流れになった。
そんな伊織は、紅葉のことを名前ではなく〝反転者〟と呼称して言った。
「変な奴だろ。大転変で性別が反転した今でも女の子が大好きですと公言する変わり者だ」
「お、女の子が好き……」
なぜか無転換者の男であるはずの伊織が頬を引きつらせる。
「そのくせ、明るくて元気なムードメーカーでスポーツも勉強もそつなくこなせる万能人間。だがその実態は、人にエッチな悪戯をして反応を楽しむ色欲の権化だ。無転換者な男の俺に対して、何度もセクハラ紛いなことをしてきたからな、お前も気をつけろよ」
伊織はコクンコクンと頷いた。
――――【反転者】
その単語は、大転変後に生まれた無転換者と対を成す名称だ。
意味は大転変によって性別が変わってしまった人間を指す言葉だったのだけど、今では使われることも少なくなってしまっている。
理由は……今の人間というほぼ全てがこの反転者に当てはまってしまうためだ。
人間は宇宙人と遭遇しない限り、自分たちのことを地球人とは呼ばない。
無転換者というのを旧人類とするなら、反転者とは大転変後の新しい人類であるという位置付けが現在の反転世界なのだ。
そのため、俺のような小数点以下の存在に過ぎない無転換者の主張なんてのは、大多数の反転者に飲み込まれてしまうのがこの世の定めである。
「それにしても、反転者なんて言葉、しばらくぶりで聞いた気がするな」
「あた――僕も久しぶりに使ったよ。2年前くらいには普通に使われていたけれど、今では無転換者が絡まないと使う機会なんてほとんどないもんね」
などという無転換者ならではのトークが新鮮だった。
放課後ということで結構な数の下校する生徒たちが集まる昇降口から外へ出る。
野球部からカキーンという心地よいバットの打撃音。吹奏楽部の個性溢れる練習を耳にしながら、俺はさっきから感じていた疑問について伊織に聞いてみた。
「ところでさ、どうして俺なんかと一緒に帰ろうなんて声かけたんだ?」
この片梨高校の生徒の大半は地元民なので、この周辺については誰もが詳しいはずだった。俺なんかより、転入生に興味を持っていたクラスメイトは、紅葉とか他にもいたはずである。
「それはえっと……ほら、あた――僕ってば無転換者だからさ、他の反転者たちと一緒に過ごすのは抵抗あるっていうか……」
しどろもどろになりながら、言い訳みたいに伊織が答える。
「なるほど、それで無転換者の俺を狙って誘ったんだな」
ようするにこの無転換者な美少年も、俺と同じように性別の変化した反転者を苦手としていたわけだ。
性別の変わった異性や同性に拒否反応を示してしまう事例が増えたことは、当時世界的に起きていた問題だった。
現に今も、伊織の傍を生徒が通り過ぎるたびに、伊織の小さな肩がビビクンと跳ねる。
それが演技とは俺には思えなかった。
というのも俺にも似たような時期があったため、気持ちは理解できるし、他人事とは思えなかった。
……でも、あれから3年も経っているんだぞ。
もう一般レベルでの会話やコミュニケーションくらいはできるようになっても良いはずである。
俺でさえ最低限の会話はする。
それは反転社会になってからも、人間と暮らしていくうえで必要なことだからだ。
それさえしようとしない伊織は、どこでどんな暮らしをしていたのだろうか?
などと俺が決めあぐねいていることに不安を感じ取っているのか。オドオドした様子でこちらの反応を窺っている伊織を見て、俺は……。
「いいぞ、一緒に帰るくらいはな」
いくら不良の真似事をしているからといって、こんな下校する生徒が近くを通るたびに震えている小動物を放り捨てられるほど、俺は悪役になりきれてなかった。
なにより。この反転世界に現存する、数少ない無転換者のよしみである。
「ほ、ほんと? やったー!」
俺が諦め半分でそう言ったとたん、伊織は俺の腕に抱きついてきた。
奇しくも今朝方、紅葉にされた時と似たような構図となってしまったが、あの時のようなムギュっとした擬音もムニョンとした柔らかさも感じられなかった。
……だって当然だ。なんたって無転換者の〝男〟なんだからな。
「おい! なにやってんだ、離れろ! そういうのはちゃんとした男と女でやるもんだろ!」
同性でそんなマネした日には、不自然どころかあらぬ噂が世を闊歩することになる。
なんたって、俺と伊織は無転換者の男だ。
相手の体が男でも中身が女なら~……なんて言い訳できない、したくもない!
「あああああ! おいこら、周りを見てみろよ! こんなザマで通学路を歩いているだけで、下校中の生徒たちに注目されてるぞ! お前が噂の転入生で無転換者の男だっていうのは学校中に知れ渡っているわけなんだから、同じ無転換者の俺と腕組んで歩いた日には……って、おい、どうしてくれーー」
と、腕に巻きついている伊織の顔を見て、俺は気付く。
伊織の表情は変化していた。
それまでの小動物染みた気配は無くなり、目に映る全てを警戒している。
口元から笑みは消え、瞳には疑念と怯えが混ざり合った色を宿して、俺の腕を最後の命綱であるかのようにしがみついていた。
俺は……無転換者だからこそ、この伊織の抱く感情を知っている。
目の前に広がる大転変によってもたらされた反転世界。
その中で、生徒がにぎやかに登下校を行う風景。
それは反転者たちにとって、今ではなんてことのない〝日常〟だ。
しかし……それが性別の変わらなかった者にとって、どれだけの歪で異質な〝非日常〟として映っているのかということを、無転換者である俺にも理解できた。
だからこそ、俺は明日の言い訳を考えながら、伊織のちっちゃなこの腕を振りほどくような真似はしなかった。
◆◇◆
伊織に腕をホールドされながらやってきたのは【破天荒通り】という商店街だ。
伊織のレポートにもあったように、俺の家はこの商店街を抜けた先にある。
アーチをくぐると、有名ボーカロイドのクミくんに歌ってもらった商店街の自作イメージソングが流れていた。
通りを歩いていると、威勢の良い客引きの声と、お惣菜のコロッケといった香ばしい匂いが、食べ盛りである学生の胃袋を刺激させてくる。
ここは昭和初期から存在する由緒正しい商店街。
今でこそ賑わっているが、一時はシャッター商店街と呼ばれるほど落ちぶれていたこともあった。
でも、あの大転変を境に『生まれ変わった気持ちでやり直そう』というキャッチフレーズで黄金期のような活気を取り戻すことができた。
喜ばしいことであるはずなのだが、そこは俺の知っていた商店街とは少々異なっていた。
具体的に言うと……『性別』がである。
八百屋では鉢巻きにランニング姿のお姉さんが、景気の良い声と話術て客を寄せている。
花屋のお兄さんはオネエ言葉でお勧めの花束を見繕い、エコバッグを片手に提げた中年おじさん方が集まって井戸端会議に興じている光景が飛び込んでくる。
随分とこじんまりした変化じゃないかという声が聞こえてこなくもないが、概ねその通りだ。性別が変わるというのはコインの表が裏に変わっただけであって、当人たちは平常運転そのものなのであるが……。
「……い、嫌な世の中になったもんだね」
「お前もそう思うか?」
無転換者にとって、性別が変わったという事実だけで警戒警報なのだ。
目に映る全てが似たようでてまったくの別物。コーラとして出されたコーヒーのように、全てが異物でしかなかった。
そんな世界の住人となってしまった反転者たちに声を掛けられるたびに、腕にしがみついている伊織がビクビクして俺の腕を軋ませてくる。
「学校でも思っていたけど、お前、いくらなんでも怖がりすぎじゃないか? 別にゾンビが徘徊しているわけでもないだろ」
「こ、木枯くんはまったく動じてないの?」
「……別に、俺はもう諦めているだけだ」
取り残された無転換者にとって、もはや慣れるほか道は残されていない。
隕石のウイルスによって引き起こされた大転変。
それはとてつもない壮大さと世界規模でありながら『性別が反転する』それだけのものだった。
でも、それだけでしかない迷惑極まりないウイルスによって、全てが浸食されてしまったんだ。
だけど、反転者という性別の変わった人々は、過去を忘れていくかのように平穏な日常を取り戻しつつある。
対して無転換者は、自分たちの知っていた日常というものが、大転変という非日常に塗り替えられていく過程を、日々見せつけられているのだった。
「起こってしまったことは、もうどうしようもないんだよ。ひっくり返った盆は元に戻らないって言うし、結局、この反転した世界を受け入れるか、あるいは誰も踏み入れない山奥とかに逃げ込んで、誰とも関わらず暮らしていくことしか、俺たち無転換者には選べないんだ」
惨劇は過去となり、ゲームオーバー後の世界を淡々と過ごしている感覚。
無転換者の俺だって、いずれはこの有様になんら疑問を抱くこともなくなり、大転変以前の記憶とかを少しずつ忘れていくんだろうなーって、救いの無い未来を想像して溜息をついていると、
「ふざけないでよ……」
「え?」
底無しの沼地から湧き上がってくるような、憎悪に染まった声がした。
「あとちょっと……あと少しでなにもかもがリセットできるのよ。この不愉快極まりない世界をぶっ潰せるその瞬間が、もう間近まで迫っているのに……」
伊織が商店街を、この反転者の日常を、怒りに満ちた瞳で睥睨する。
「フ、フフフ……。見てなさい反転者ども。このあたしが終わらせてあげる。あんたたちの偽物でしかないクソみたいな日常を、全部まとめてひっくり返してあげるんだからね」
それからずっと、伊織は商店街を抜けるまでの間、電波な子と勘違いされても仕方ないような笑みを浮かべてニヤニヤしていた。
「……ねえ。あの【反転者】ってどんな人なの?」
場所は変わって片梨高校生徒たちの昇降口。
下駄箱から靴を取り出して履き替えていると、転入生の姫園伊織が話しかけてきた。
「どんな人って?」
「あれよ! じゃなく……あの人です。なんか公然わいせつで捕まってもいいのに野放しになってる、男から女になった反転者」
「ああ、紅葉のことか」
先の教室での一件のことである。
結局、紅葉が運動部員たちにドナドナされたあと、取り残される形となってしまった俺たちは、一緒に下校する流れになった。
そんな伊織は、紅葉のことを名前ではなく〝反転者〟と呼称して言った。
「変な奴だろ。大転変で性別が反転した今でも女の子が大好きですと公言する変わり者だ」
「お、女の子が好き……」
なぜか無転換者の男であるはずの伊織が頬を引きつらせる。
「そのくせ、明るくて元気なムードメーカーでスポーツも勉強もそつなくこなせる万能人間。だがその実態は、人にエッチな悪戯をして反応を楽しむ色欲の権化だ。無転換者な男の俺に対して、何度もセクハラ紛いなことをしてきたからな、お前も気をつけろよ」
伊織はコクンコクンと頷いた。
――――【反転者】
その単語は、大転変後に生まれた無転換者と対を成す名称だ。
意味は大転変によって性別が変わってしまった人間を指す言葉だったのだけど、今では使われることも少なくなってしまっている。
理由は……今の人間というほぼ全てがこの反転者に当てはまってしまうためだ。
人間は宇宙人と遭遇しない限り、自分たちのことを地球人とは呼ばない。
無転換者というのを旧人類とするなら、反転者とは大転変後の新しい人類であるという位置付けが現在の反転世界なのだ。
そのため、俺のような小数点以下の存在に過ぎない無転換者の主張なんてのは、大多数の反転者に飲み込まれてしまうのがこの世の定めである。
「それにしても、反転者なんて言葉、しばらくぶりで聞いた気がするな」
「あた――僕も久しぶりに使ったよ。2年前くらいには普通に使われていたけれど、今では無転換者が絡まないと使う機会なんてほとんどないもんね」
などという無転換者ならではのトークが新鮮だった。
放課後ということで結構な数の下校する生徒たちが集まる昇降口から外へ出る。
野球部からカキーンという心地よいバットの打撃音。吹奏楽部の個性溢れる練習を耳にしながら、俺はさっきから感じていた疑問について伊織に聞いてみた。
「ところでさ、どうして俺なんかと一緒に帰ろうなんて声かけたんだ?」
この片梨高校の生徒の大半は地元民なので、この周辺については誰もが詳しいはずだった。俺なんかより、転入生に興味を持っていたクラスメイトは、紅葉とか他にもいたはずである。
「それはえっと……ほら、あた――僕ってば無転換者だからさ、他の反転者たちと一緒に過ごすのは抵抗あるっていうか……」
しどろもどろになりながら、言い訳みたいに伊織が答える。
「なるほど、それで無転換者の俺を狙って誘ったんだな」
ようするにこの無転換者な美少年も、俺と同じように性別の変化した反転者を苦手としていたわけだ。
性別の変わった異性や同性に拒否反応を示してしまう事例が増えたことは、当時世界的に起きていた問題だった。
現に今も、伊織の傍を生徒が通り過ぎるたびに、伊織の小さな肩がビビクンと跳ねる。
それが演技とは俺には思えなかった。
というのも俺にも似たような時期があったため、気持ちは理解できるし、他人事とは思えなかった。
……でも、あれから3年も経っているんだぞ。
もう一般レベルでの会話やコミュニケーションくらいはできるようになっても良いはずである。
俺でさえ最低限の会話はする。
それは反転社会になってからも、人間と暮らしていくうえで必要なことだからだ。
それさえしようとしない伊織は、どこでどんな暮らしをしていたのだろうか?
などと俺が決めあぐねいていることに不安を感じ取っているのか。オドオドした様子でこちらの反応を窺っている伊織を見て、俺は……。
「いいぞ、一緒に帰るくらいはな」
いくら不良の真似事をしているからといって、こんな下校する生徒が近くを通るたびに震えている小動物を放り捨てられるほど、俺は悪役になりきれてなかった。
なにより。この反転世界に現存する、数少ない無転換者のよしみである。
「ほ、ほんと? やったー!」
俺が諦め半分でそう言ったとたん、伊織は俺の腕に抱きついてきた。
奇しくも今朝方、紅葉にされた時と似たような構図となってしまったが、あの時のようなムギュっとした擬音もムニョンとした柔らかさも感じられなかった。
……だって当然だ。なんたって無転換者の〝男〟なんだからな。
「おい! なにやってんだ、離れろ! そういうのはちゃんとした男と女でやるもんだろ!」
同性でそんなマネした日には、不自然どころかあらぬ噂が世を闊歩することになる。
なんたって、俺と伊織は無転換者の男だ。
相手の体が男でも中身が女なら~……なんて言い訳できない、したくもない!
「あああああ! おいこら、周りを見てみろよ! こんなザマで通学路を歩いているだけで、下校中の生徒たちに注目されてるぞ! お前が噂の転入生で無転換者の男だっていうのは学校中に知れ渡っているわけなんだから、同じ無転換者の俺と腕組んで歩いた日には……って、おい、どうしてくれーー」
と、腕に巻きついている伊織の顔を見て、俺は気付く。
伊織の表情は変化していた。
それまでの小動物染みた気配は無くなり、目に映る全てを警戒している。
口元から笑みは消え、瞳には疑念と怯えが混ざり合った色を宿して、俺の腕を最後の命綱であるかのようにしがみついていた。
俺は……無転換者だからこそ、この伊織の抱く感情を知っている。
目の前に広がる大転変によってもたらされた反転世界。
その中で、生徒がにぎやかに登下校を行う風景。
それは反転者たちにとって、今ではなんてことのない〝日常〟だ。
しかし……それが性別の変わらなかった者にとって、どれだけの歪で異質な〝非日常〟として映っているのかということを、無転換者である俺にも理解できた。
だからこそ、俺は明日の言い訳を考えながら、伊織のちっちゃなこの腕を振りほどくような真似はしなかった。
◆◇◆
伊織に腕をホールドされながらやってきたのは【破天荒通り】という商店街だ。
伊織のレポートにもあったように、俺の家はこの商店街を抜けた先にある。
アーチをくぐると、有名ボーカロイドのクミくんに歌ってもらった商店街の自作イメージソングが流れていた。
通りを歩いていると、威勢の良い客引きの声と、お惣菜のコロッケといった香ばしい匂いが、食べ盛りである学生の胃袋を刺激させてくる。
ここは昭和初期から存在する由緒正しい商店街。
今でこそ賑わっているが、一時はシャッター商店街と呼ばれるほど落ちぶれていたこともあった。
でも、あの大転変を境に『生まれ変わった気持ちでやり直そう』というキャッチフレーズで黄金期のような活気を取り戻すことができた。
喜ばしいことであるはずなのだが、そこは俺の知っていた商店街とは少々異なっていた。
具体的に言うと……『性別』がである。
八百屋では鉢巻きにランニング姿のお姉さんが、景気の良い声と話術て客を寄せている。
花屋のお兄さんはオネエ言葉でお勧めの花束を見繕い、エコバッグを片手に提げた中年おじさん方が集まって井戸端会議に興じている光景が飛び込んでくる。
随分とこじんまりした変化じゃないかという声が聞こえてこなくもないが、概ねその通りだ。性別が変わるというのはコインの表が裏に変わっただけであって、当人たちは平常運転そのものなのであるが……。
「……い、嫌な世の中になったもんだね」
「お前もそう思うか?」
無転換者にとって、性別が変わったという事実だけで警戒警報なのだ。
目に映る全てが似たようでてまったくの別物。コーラとして出されたコーヒーのように、全てが異物でしかなかった。
そんな世界の住人となってしまった反転者たちに声を掛けられるたびに、腕にしがみついている伊織がビクビクして俺の腕を軋ませてくる。
「学校でも思っていたけど、お前、いくらなんでも怖がりすぎじゃないか? 別にゾンビが徘徊しているわけでもないだろ」
「こ、木枯くんはまったく動じてないの?」
「……別に、俺はもう諦めているだけだ」
取り残された無転換者にとって、もはや慣れるほか道は残されていない。
隕石のウイルスによって引き起こされた大転変。
それはとてつもない壮大さと世界規模でありながら『性別が反転する』それだけのものだった。
でも、それだけでしかない迷惑極まりないウイルスによって、全てが浸食されてしまったんだ。
だけど、反転者という性別の変わった人々は、過去を忘れていくかのように平穏な日常を取り戻しつつある。
対して無転換者は、自分たちの知っていた日常というものが、大転変という非日常に塗り替えられていく過程を、日々見せつけられているのだった。
「起こってしまったことは、もうどうしようもないんだよ。ひっくり返った盆は元に戻らないって言うし、結局、この反転した世界を受け入れるか、あるいは誰も踏み入れない山奥とかに逃げ込んで、誰とも関わらず暮らしていくことしか、俺たち無転換者には選べないんだ」
惨劇は過去となり、ゲームオーバー後の世界を淡々と過ごしている感覚。
無転換者の俺だって、いずれはこの有様になんら疑問を抱くこともなくなり、大転変以前の記憶とかを少しずつ忘れていくんだろうなーって、救いの無い未来を想像して溜息をついていると、
「ふざけないでよ……」
「え?」
底無しの沼地から湧き上がってくるような、憎悪に染まった声がした。
「あとちょっと……あと少しでなにもかもがリセットできるのよ。この不愉快極まりない世界をぶっ潰せるその瞬間が、もう間近まで迫っているのに……」
伊織が商店街を、この反転者の日常を、怒りに満ちた瞳で睥睨する。
「フ、フフフ……。見てなさい反転者ども。このあたしが終わらせてあげる。あんたたちの偽物でしかないクソみたいな日常を、全部まとめてひっくり返してあげるんだからね」
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