とあるTSFによってアンチの日常は終了してしまいました。

型抜久遠

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チュートリアル

9.反転の目醒め 前編

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9.反転の目醒め 前編

「……目が覚めたかしら?」

 声が、聞こえた。

 ぼんやりとした視界。少しずつ、意識が戻っていくのを感じる。
 俺は床に転がった状態で寝かされていたようだった。

 場所は……俺の部屋だ。
 窓から差し込む光はうっすらと茜色をしていたことから、それほど時間は経っていないらしい。だが、部屋には荒れ放題に散らかった光景がそのまま残されていて、逃避という意味でもっかい眠りにつきたくなるが、そういうわけにもいかない。

 確か、家に押し入ってきた伊織に室内を荒らされて、スタンガンを向けられて、変な注射器で変な物を撃ち込まれて気を失ったんだ。

「……あれからどうな……って、あれ?」

 体を起こそうとするが思うように動いてくれず、クネクネと変な動作をしてしまう。
 理由はすぐに判明した。両手首は後ろ手に、同じく両足首も縄で縛られていることに気がついたからだ。
 それに、服も風通しが良いというか、特に下半身あたりがスースーって――ッ!

「な、なんじゃこりゃああああああ!」

 俺は叫び声を上げた。
 それは高校の男子用制服であるズボンではなく、女子生徒がつけるようなスカートであった。ヒラヒラとした男と無縁な布きれが巻かれているという事実。
 しかも、スカートだけじゃなく、上半身まで女子の制服を着せられていた。

「アハハハハ! 予想通りの反応ありがとう。とっても似合っているわよ、木枯くん」

 ドッキリ成功したかのように楽しんでる伊織の笑い声。理不尽に笑いものにされていることにカチンときた俺は、倒れた体勢で伊織を睨みつける。

「似合ってたまるか! 俺は男なんだぞ! そもそも、どうしてお前がこんな――ッ!」

 改めて見る伊織の姿見は、先ほどまでとは大きく違っていた。

「どうしたの? あたしの顔になにか付いているかしら?」

 伊織は白々しい表情でベッドの上に腰掛けていた。ここは俺の部屋だっていうのに、俺以上の態度で倒れている俺を見下ろしている。
 そんな伊織の服装もスカートだった。少し前までも男子用ではなく、俺が着ているのと同じ女子の制服だ。

「お前、その服……と、髪、どうした?」

 ついさっきまでショートカットだった伊織の髪は、頭の両端で留め直されてツインテールと呼ばれる髪型に変わっていた。

「知らないの? テールウィッグっていう、女の子が色々な髪型になれるオシャレアイテムなのよ」

 テールの片方を付けたり外したりしてみせる伊織。へぇ、女の子って便利だなー……って、違う!

「そうじゃない! どうして無転換者の男のお前が、そんな女の子みたいな格好をしているんだ!」
「あらあら、なにかおかしいかしら? お生憎様、こっちがあたしの本来の姿なのにね」
「本当の……まさか……」

 地毛と同じ赤毛混じりのツインテールを手でかき上げて、伊織は得意気に微笑んだ。
 そんな伊織の容姿はどっからどう見ても女の子そのままである。つまり、

「……まさか、無転換者じゃなくて、他の反転者と同じ性別の入れ代わった〝男〟だったとはな」
「ち、違うわよ!」
「え? じゃあ、女装が趣味なのか?」
「し、失礼ね! せっかく、分かりやすく理解してもらうために着替えたのに」

 俺の言葉に伊織がキレて立ち上がる。

「あたしは正真正銘。生まれも育ちも現在までずっと女のままよ! その辺にゴロゴロ生息している反転者みたいな偽者と一緒にするんじゃないわよ!」
「へ?」

 抑えきれない怒りを露わにして、伊織は説得力に乏しい胸を張って言った。

「えっと……つまり、無転換者というのは本当で、お前は男ではなく女の無転換者?」
「そうよ。ようするに、あんたと同じ……いいえ、〝同じ〟だったと言うべきかしら」

 伊織は俺を見下すようにクスリと笑った。
 なぜだろう? それまで女の子のような美少年だということで変に意識しちゃったりしていたけど、本当の女の子ということで自分の感性が正しかったと喜ぶべきなのに、その性格の変わり様とか見せ付けられて、ガッカリしている俺がいた。
 なんというか、表紙詐欺というか、地雷ゲーでも掴まされた気分だ。

「お前の正体は分かったからとりあえずこの服と縄をどうにかしてくれないか? いつまでも無転換者の男の俺が、こんな女みたいな格好してて良いはずないだろ」

 これでは女装ではないか。
 人が気を失っている間にこんな服を着せるなんて、相当歪んでいるぞ。俺にはこんな趣味なんて無いんだし、とっとと着替えたいんだ。
 だが、目の前の伊織はそんな俺が愉快でたまらないって様子だった。

「あらあら、まだ自分がどんなザマなのか理解していない様子ね。もうすっかり、笑っちゃうほど〝女の子〟に成り果てているのに」
「なにを言っているんだ? 俺はこの通り正真正銘、男の……ん? なんだこれは?」

 制服とスカートにばかり気を取られていたけど、この胸にある凹凸はいったい? どこか腫れているのか? それに、なんだか体のあちこちもおかしい。若干軽量化されたというか、全体的に細くなったように感じて……あれ? 俺の髪ってこんなに長かったっけ? 声だってなんか別人みたいに高くなっているぞ。

 カシャッ!

「なっ!」

 唐突に、伊織が携帯のカメラ機能のシャッターを押した。勝手に人を撮ったことに文句を言ってやろうとしたが、伊織は撮った画像をすぐに見せてくれた。

「ほら、これが今のあなたの姿よ。木枯ちゃん」
「――――ッ!!!!?」

 携帯に写し出されていたのは、両手を後ろ手に縛られた一人の少女の姿だった。
 キョトンとしているややツリ目がちな瞳。日本人形みたいに艶やかで腰までありそうな長い黒髪。胸にはしっかりと二つのふくらみが確認できる。清楚な雰囲気を感じさせる美少女が、まるで人質みたいに縛られていた。

 思わず素直に可愛いとか思ってしまったけど、ここで一つの疑問。画面に写し出されている撮った時刻は数秒前。つまり、これは加工でもなんでもなくて……。

「これは……ひょっとして、俺?」
「そうよ、木枯くん。これで状況分かってくれたかな?」

 頭の芯を鈍器でぶっ叩かれたような衝撃が俺を襲う。

「そ、そんな馬鹿な! これが、俺? 紅葉みたいに、俺が、女の子に……」

 大転変から三年も経っているのに、なんで俺が……まさか! さっき撃ち込まれた薬が原因で……ッ!
 伊織が呆然としている俺の傍らに移動してきた。横倒しになっている俺の上体を強引に起こすと、戸惑う俺に嗜虐に染まった顔を近づけてきた。

「さあ、次はあたしの質問に答えなさい。さっきの続きだけど、あなたは大転変が起きた3年前、街の裏山で綺麗な石を拾ったことがあるわよね」

 ささやく伊織の吐息が耳元を撫でる。

「し、知らない!」
「ふーん、まだ自分の立場が分かってないんだ」

 伊織の左手が俺の頬にソッと触れる。

「なら、その身体おんなのこに直接聞いてみた方が早いかな!」
 
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