とあるTSFによってアンチの日常は終了してしまいました。

型抜久遠

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チュートリアル

11.姫園伊織

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11.姫園伊織

 ――それから数十分後。

「それじゃ、なんでこんなマネしたのか聞かせてもらおうか?」

 部屋の中央には仏頂面の姫園伊織がいた。
 さっきまで俺を縛っていた縄でグルグル巻きにされている。

「そうだよ! どうして下着までちゃんと着替えさせてくれなかったの!」
「そっちじゃねえよ!」

 伊織の真後ろには紅葉が立ち、伊織が逃げ出さないよう見張ってくれている。
 俺が蹴り入れた直後に紅葉は伊織を取り押さえて、その隙に俺は転がった家具の出っ張りを利用して縄を解き、二人掛かりで伊織を締め上げた。
 俺はベッドの上で胡座をかきつつ、いまいち落ち着かないスカートの裾をいじりながら、ジト目で伊織を眺めている。
 伊織はふてくされた顔で俺を睨んでいたが、ようやく観念したのか口を開いた。

「……すべては、あの石を手に入れるためよ」
「あの石ってなぁに?」

 これは紅葉。途中から参加した第三者だからこその疑問だ。伊織がその疑問に答えるように続ける。

「隕石の欠片よ」

 ――やはりそうか。

「3年前に地上に墜ちて、世界全ての性別を変えてしまうなんて、冗談みたいな大転変を引き起こした隕石の欠片。あたしはそれを手に入れることが目的だったのよ」
「隕石の欠片……ああ、あれのことかな?」

 紅葉が思い出したと手を合わせた。
 そういえば、紅葉も俺がアレを手にしているとこ見たことあるんだったな。

「驚かないってことは、あの石の正体がなんであるか知っているみたいね」
「……別に驚くようなものじゃないだろ。隕石と言ったって、今ではただの石ころなんだ。今更そんなの手に入れたところでどうする気だよ」
「ただの石なんかじゃないわ」

 ボソリと伊織が呟く。

「あの隕石には、性別を反転させるウイルスが宿っていたことは知っているわね」
「……ああ」

 知らない人間なんていない。そいつのせいで、こんな世界に成り果ててるんだから。

「まず、最初にあたしの本当の名前を教えておく。あたしの本名は鬼龍院桜子きりゅういんさくらこっていうの。無転換者として暮らしていくために、今は姫園伊織って偽名を使っているんだけど、覚えてるかしら? 昔は結構テレビとかで引っ張りダコだったと思うんだけど」
「鬼龍……鬼龍院桜子って、確か美少女天才科学者とかっていうマンガみたいな肩書きで、当時のお茶の間を賑わせて話題になってた女の子!」

 鬼龍院桜子……ああ、大転変以前にテレビで名前くらいは聞いたことがある。
 確か若干九歳そこらで大人も舌を巻く天才振りを発揮していた子供がいたらしいけど、それがこいつか? どや顔で鼻を高くさせつつ、縄でグルグル巻きに縛られて正座させられているこいつが……ね。
 でも、それだったら授業中に披露された、異次元レベルな知識量も納得できる。

「いやー懐かしいね。最後にテレビで見たときには、有名な先生をゲストに読んで授業を行うっていうバラエティ番組だったけど、その番組中に出演者から『一生に一度しかない青春を浪費して、ホルマリン漬けされたサンプルに囲まれて楽しいんですかー?』って嫌み言われた瞬間マジギレして大暴れしてたよね」
「――ッ! な、なんでそういうとこだけ覚えているのかな!」

 どうやらこいつの頭に血が上りやすい性格は昔からのようだ。

「で、そんな天才さんが、どうしてこんな日本の最北端に来ているんだよ?」

 そう問いかけると、伊織は含み笑いをさせる。

「もちろん、性別の変わった反転者を元に戻すワクチンを作るためよ!」
「ああ……。昔、そういうこと言ってた科学者がいたっけ」

 それが伊織だったのか。

「でも、いつしか話題にも取り上げられなくなっちゃったし、結局無理ってことで諦めちゃったんじゃなかったの?」
「――馬鹿言ってんじゃないわよ!」

 はっきり言い過ぎるくらいの紅葉の一言に、伊織は激昂した。

「あたしたち……いいえ、あたしはね! この3年間、ずっと隕石のウイルスについて研究を続けていたんだから! 世界各地に落下した無数の隕石の残骸をコツコツかき集めながら、落下地点、規模、あらゆる情報を収集して、一つ一つ丹念に調べ上げて! 一年目、二年目と、毎日毎日、あの憎たらしい隕石を、舐めるように、睨めるように、味も臭いも、しゃぶりつくして調べて調べて調べ尽くしてやったのよ!」
「へ、へえ……そ、それで、結果はいかほど?」

 ドン引きしている俺たちに気付いたのか、伊織は平静を整えようと深呼吸する。

「スーハースーハー……まあ、そんな奮闘の甲斐もあって、あたしはついに――反転者を元の性別に戻すワクチンを完成! ……させる一歩手前までこぎつけたのよ!」
「――マジでか?」
「――えッ!」

 俺と紅葉が同時に驚きの声を上げた。
 ワクチン……つまり、俺の家族や紅葉の性別を変えたウイルスの特効薬。
 それが完成したってことは、これでみんなが、反転者たちは本来の性別に戻れる?
 誰もが待っていた悲願が、3年という月日が経ち、とうとう完成するっていうのか!
 俺たちの反応を堪能して溜飲が下がったのか、伊織の口元がニヤリと笑みを作ると、

「信じられない? なら見せてあげる。あたしのマンション……いいえ、研究所でね」

 得意気に、挑戦的に言ってのけた。
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