とあるTSFによってアンチの日常は終了してしまいました。

型抜久遠

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チュートリアル

13.伊織のマンションへ 後編

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13.伊織のマンションへ 後編

 セクハラ紛いな紅葉のからかいに耐え抜きながら、ようやく伊織のマンションまでやって来た。

 周辺の建物より頭一つ大きな高層マンション。
 この建物は地元ということもあり、覚えがあった。
 確か、元々は女性専用マンションとして建てられる予定だったんだけど、大転変がきっかけで反転者の女性専用ということになり、元々入居予定だった反転者の男たちが暴動みたいな抗議活動を起こしていたっけ。
 そんな大転変後にわりとよくあったトラブルに巻き込まれた結果、会社は経営破産。それからはずっと、買い手の付かない無人マンションだったはず。
 しかし、久しぶりに目にした無人マンションは、俺の知ってる姿から様変わりしていた。

 その第一印象は――要塞である。
 建物の周囲には鉄の柵に、感電注意と貼り紙のある有刺鉄線が張り巡らされており、レーザーでも掃射しそうな監視カメラが各所に配置されている。
 それは一般の感覚からすれば過剰なくらい厳重過ぎるセキュリティが施されていた。
 玄関のセキュリティも徹底している。入館の際には伊織の指紋、網膜、声紋、とチェックが行われる。それらが済むと、ようやく鋼鉄製のシェルターみたいな扉が開かれた。

「さて、あなたはここまでよ」

 入り口の前で伊織が振り返り際に言った。その言葉を向けられた先にいたのは紅葉だった。

「え、ええ! なんでさ?」
「元々あたしが用事あったのは、木枯荒野くんよ。あなたは勝手に付いてきただけ、そうでしょ」
「それはそうだけど……」

 確かにこの件について、紅葉は完全に部外者だったし、騒がしいことこの上ないので、お断りさせたい気持ちも分からなくもない。

「これからあたしたちは〝無転換者〟同士で大切な話があるの。〝反転者〟のあなたには申し訳ないけど、ここでお引き取りさせていただきたいと思うの」
「むー……」
「よろしい、ですよね?」

 伊織の有無を言わせない伊織の迫力に、さすがの紅葉も押し黙っ……

「やだー!」

 らなかった。

「やだやだやだー! 伊織ちゃんのお部屋見たい! 見たーい! 伊織ちゃんの部屋で楽しく遊んだあとは、夕御飯をご馳走になって、そうして『もう暗くなっちゃったよね、あたし……ひとり暮らしで寂しいから泊まってってほしいなー』てな感じで〝三人〟仲良くパジャマパーティーして、そのあとは! そのあとは! もうムフフといった夜の展開が待っていて! 三人で朝まで、朝までムフフするのー! わーん! 伊織ちゃんのお部屋見たい見た――」

 以下エンドレス。

 ……などと、意味不明な供述をしながら駄々っ子みたいに地面を転げ回る元男な幼馴染。
 途中で一時停止したかと思うと、チラリとこちらに目線を送り、再び駄々っ子みたいに暴れるを繰り返していた。

 性別が変わってもギャルゲー脳現役続行中な紅葉の見慣れてしまった奇行に思わず頬が引きつる。
 それにしても〝三人〟? 三人って、もしかして伊織だけじゃなく俺も含まれてるの? メインヒロインみたいななんかに分類されてるの?

 当の伊織もそんな紅葉に大層呆れていることだろうと思って隣を窺うが、

「…………………」

 伊織は一切のおふざけも意に介さないといった様子で、敵意を込めた眼差しで紅葉を見ていた。

「いくわよ、木枯くん」
「お、おう」

 紅葉から視線を外した伊織がマンションの中へと入っていく。
 俺もその後ろに続いて入館すると、背後で紅葉の駄々っ子が静かになっていることに気がついた。
 振り返ると、閉じられるマンションの扉の向こう側。不満そうなふくれ顔でこっちを見ている紅葉の姿があった。

 扉が完全に閉じられ、ガチャンとカギの掛かる音が聞こえた。

「あ、あのな、伊織」
「なによ」
「今回は急な転入生がやってきたってことで、あんなテンション……いや、普段もだいたいあんな感じなんだけど、紅葉は決して悪い奴じゃないぞ」

 俺は紅葉の幼馴染として、精一杯のフォローをしてあげようとした。しかし、

「そう。でも関係ない」
「え?」
「だって……あいつは〝反転者〟だもの」

 拒絶に近い、冷たい言葉が返ってきた。

「さあ、こっちよ。ついてきて」

 促され、俺は伊織に続くように歩き出す。
 無機質なロビーに渇いた足音だけが反響している。
 そんな二人の空気は変に重かったわけだが、俺は足を踏み入れてからのある違和感が気になっていた。

「そういえば、このマンション……どうして誰もいないんだ?」

 内部はとにかく閑散としていた。
 外には厳重な警備を敷いているにも関わらず、内部に管理人やガードマンの姿が見受けられなかった。
 それどころか、マンションの住人らしき人の姿もない。美術品や観葉植物も、テーブルも椅子といったオブジェも置かれた痕跡もない。
 ただただ大理石の冷たい床が広がっているだけ。
 ……いや、そもそも人が生活しているという痕跡が確認できない。この異様さはなんなのだろうか?

「この建物は研究所として使うために買い取ったんだから、マンションというのは表向きの姿よ。ここに住んでいる住人はあたしだけ。警備も掃除も全部機械任せだから、人は一切雇っていないわ」
「どうしてそこまで徹底して?」
「決まっているでしょ。反転者は信用できないからよ」

 伊織は不愉快そうに眉をひそめながら言った。

 さらに空気が重くなってしまった気がしてどうしたものかと考えながら、ロビーを進んでいく。すると、異様なフロアの中央付近で、さらに異様さを放っている代物と遭遇する。

 目の前に現れたのは、光沢感のある薄紫色をした、円柱形の巨大な柱だった。
 
 素材も床や壁、他の柱のような大理石とは異なり、明らかに金属で造られていた。
 まるで何千年も生きてきた大樹を連想させる太さと貫禄。
 横幅は車四台並べたくらい。高さはどこまで続いているのだろうと天井を仰ぎ見ると、この柱は他と違って支える対象が無く、階層を突き抜けて最上階まで続いているのが見えた。

 その後。伊織の部屋に直通していると説明されたエレベーターに乗る。
 だが、動き出したエレベーターは上ではなく地下へと降りていった。

 どこまで続くか分からない地下深く。
 いや、もしかしたらそれほど深くはなかったかもしれない。
 でも、エレベーターに乗っている間は、なにが待っているのか知れない不安と緊張で長く感じていた。
 
 ――そして、エレベーターの到着チャイムが鳴る。

「……着いたわ。ここがこのマンション唯一の居住スペースにしてあたしの研究所マイルームよ」
 
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