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チュートリアル
14.無転還機 前編
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14.無転還機 前編
そこに広がっていたのは、研究所という肩書きは伊達じゃないというくらい、奇天烈な光景だった。
フロアを丸ごと利用した広い空間。
壁には幾つものモニターが絶えず数字とグラフを映し、高校生には用途の知れない機械類が所狭しに並んでいる。
地下ということもあって窓は存在せず、モニターと機械の放つ蛍光が照明代わり。
何百本というコードが樹海の根っこみたく床全体に張り巡らされ、各所に怪人がインされてても不思議じゃない等身大な容器には、濃緑色をした培養液が満たされている。
まるで秘密基地。しかも、雰囲気的には正義側ではなく悪の秘密結社みたいだなというのが、素直な感想だった。
根っからの男子として、こういうのは心躍るものがあったが、事態が切迫していなければ楽しめただろう。
そんな研究所を眺めていた俺は、部屋の中央にある一際大きな機械装置に目がとまる。
研究所の中心に存在するのは、玄関ロビーで見かけた巨大な柱だった。
その柱は上で見かけた時の無機質な姿とは違い、目の前の柱は電子的な姿をさらけ出している機械装置だ。
どうやら、研究所のあらゆる機械や設備は、すべてこの巨柱へと繋がっているらしい。
そして巨柱両端には窓付きの小箱ほどの空間が二つ存在し、左右対称に並んでいる。
その片側に配置されていたものは、紅い水晶を思わせる鉱物だった。
それって、たしか……。
「それは【紅隕鉄】。3年前に地球に墜ちてきた隕石の片割れよ」
背後から伊織が話しかけてくる。伊織はいつの間にやら、白衣を羽織っていた。
……うん、それだけでなんかいかにも科学者って感じになる不思議。
「大転変を引き起こした隕石が地上で発見されたとき、〝赤〟と〝青〟、二つが存在したのよ。そして、ウイルスも二種類あったことが確認されているわ」
「二種類?」
「青い輝きを放つ【蒼隕鉄】は〝女を男に変えるウイルス〟を、赤い光を放つ【紅隕鉄】は〝男を女に変えるウイルス〟が検出された。これら二つがあの大転変を引き起こした。ここまでなら一般でも報道されていることだから知っているはずよね?」
「ああ……」
もっとも、こっちの〝赤い方の隕石〟を直接お目に掛かるのは初めてだけどな。
「当時はこれら二つの隕石が大転変を引き起こした原因と考えられていた。……でも、違っていたの」
「えっ……?」
「実際にはもう一つ〝三つ目〟の隕石が存在していたことがあたしたち……いえ、あたしの研究によって判明したわ」
「三つ目……だと?」
「そうよ。それが地球に突入する時に砕ける前の【蒼隕鉄】と【紅隕鉄】が合わさっていた原初の姿。あたしはこの三つ目の隕石を【紫隕鉄】と名付けて研究を続けてきたわ」
「そのまんまだな」
「そこ、話の腰を折らない。……コホン。そして、この装置こそが研究の成果よ! これこそがこの世に蔓延る反転者どもの性別を元に戻して、この忌々しい反転世界を終わらせることができる究極の装置。その名も【無転還機】なのよ!」
伊織は巨柱【無転還機】の前に立つと、我が子のように説明が始まった。
「簡単に説明すると、この【無転還機】は大転変の時に隕石が爆発したのと同じ衝撃を再現させる機械と思ってくれていいわ。そうすることで、隕石に含まれているワクチンの原料を抽出することができるの。そして当然、あたしは既にワクチンの試作品の開発に成功しているわ!」
「……で、そのワクチンの試作品はどこにあるんだ?」
「さっきあなたに打ち込んだヤツがそうよ」
え……それって?
「木枯くんを女の子に変えたのがワクチンの試作品。今、【無転還機】に設置しているのとは違う【紅隕鉄】から抽出したもので、男を女に変える効果があったんだけど、無転換者にしか効果を発揮できないのよ」
「ようするにワクチンじゃなく、ウイルスの原液じゃねえかそれ!」
「だーかーらー! それは試作品なんだってば! 本来の予定されていたのとは違う形で出来上がってしまった副産物なのよ」
「予期せぬ、副産物?」
伊織はハッと口元を押さえてコホンと咳払い。
「ほ、本当のワクチンはね。この装置の左右対称に同じ質量の【紅隕鉄】と【蒼隕鉄】を配置して、二つ同時に砕く必要があったの。そして粒子レベルまで分解された隕石を再び再構築することで【紫隕鉄】を再現させて、その後で抽出しないといけなかったの。試作品は……その過程でちょっとした不具合が起きてしまった失敗作ね」
「そんな失敗作を俺に使ったのかよ!」
「あーもー! うるさい! ええ、そうよ。でもそれがなんだっていうのよ! あたしが今度こそ【無転還機】を正しい形で成功させて、完全なワクチンを作り出してしまえば済むことでしょ! そしたらあんたの女の子になった身体だってすぐ元通りなんだから、ぶつくさ言ってるんじゃないわよ、男のくせに!」
最低だ! なんというか、人として最低だこいつ……。
「でもね。この装置でワクチンを作り上げるために、今、一つだけ足りないものがあるの」
「なんだよそれは?」
「……【蒼隕鉄】よ。この街の裏山に墜ちたとされている隕石の欠片」
「――――ッ!?」
「さあ、木枯くん。怒らないから、とっととあなたが3年前に持ち出した隕石【蒼隕鉄】を渡しなさい」
全てを見透かしているような瞳で、伊織が手を差し出してきた。
そこに広がっていたのは、研究所という肩書きは伊達じゃないというくらい、奇天烈な光景だった。
フロアを丸ごと利用した広い空間。
壁には幾つものモニターが絶えず数字とグラフを映し、高校生には用途の知れない機械類が所狭しに並んでいる。
地下ということもあって窓は存在せず、モニターと機械の放つ蛍光が照明代わり。
何百本というコードが樹海の根っこみたく床全体に張り巡らされ、各所に怪人がインされてても不思議じゃない等身大な容器には、濃緑色をした培養液が満たされている。
まるで秘密基地。しかも、雰囲気的には正義側ではなく悪の秘密結社みたいだなというのが、素直な感想だった。
根っからの男子として、こういうのは心躍るものがあったが、事態が切迫していなければ楽しめただろう。
そんな研究所を眺めていた俺は、部屋の中央にある一際大きな機械装置に目がとまる。
研究所の中心に存在するのは、玄関ロビーで見かけた巨大な柱だった。
その柱は上で見かけた時の無機質な姿とは違い、目の前の柱は電子的な姿をさらけ出している機械装置だ。
どうやら、研究所のあらゆる機械や設備は、すべてこの巨柱へと繋がっているらしい。
そして巨柱両端には窓付きの小箱ほどの空間が二つ存在し、左右対称に並んでいる。
その片側に配置されていたものは、紅い水晶を思わせる鉱物だった。
それって、たしか……。
「それは【紅隕鉄】。3年前に地球に墜ちてきた隕石の片割れよ」
背後から伊織が話しかけてくる。伊織はいつの間にやら、白衣を羽織っていた。
……うん、それだけでなんかいかにも科学者って感じになる不思議。
「大転変を引き起こした隕石が地上で発見されたとき、〝赤〟と〝青〟、二つが存在したのよ。そして、ウイルスも二種類あったことが確認されているわ」
「二種類?」
「青い輝きを放つ【蒼隕鉄】は〝女を男に変えるウイルス〟を、赤い光を放つ【紅隕鉄】は〝男を女に変えるウイルス〟が検出された。これら二つがあの大転変を引き起こした。ここまでなら一般でも報道されていることだから知っているはずよね?」
「ああ……」
もっとも、こっちの〝赤い方の隕石〟を直接お目に掛かるのは初めてだけどな。
「当時はこれら二つの隕石が大転変を引き起こした原因と考えられていた。……でも、違っていたの」
「えっ……?」
「実際にはもう一つ〝三つ目〟の隕石が存在していたことがあたしたち……いえ、あたしの研究によって判明したわ」
「三つ目……だと?」
「そうよ。それが地球に突入する時に砕ける前の【蒼隕鉄】と【紅隕鉄】が合わさっていた原初の姿。あたしはこの三つ目の隕石を【紫隕鉄】と名付けて研究を続けてきたわ」
「そのまんまだな」
「そこ、話の腰を折らない。……コホン。そして、この装置こそが研究の成果よ! これこそがこの世に蔓延る反転者どもの性別を元に戻して、この忌々しい反転世界を終わらせることができる究極の装置。その名も【無転還機】なのよ!」
伊織は巨柱【無転還機】の前に立つと、我が子のように説明が始まった。
「簡単に説明すると、この【無転還機】は大転変の時に隕石が爆発したのと同じ衝撃を再現させる機械と思ってくれていいわ。そうすることで、隕石に含まれているワクチンの原料を抽出することができるの。そして当然、あたしは既にワクチンの試作品の開発に成功しているわ!」
「……で、そのワクチンの試作品はどこにあるんだ?」
「さっきあなたに打ち込んだヤツがそうよ」
え……それって?
「木枯くんを女の子に変えたのがワクチンの試作品。今、【無転還機】に設置しているのとは違う【紅隕鉄】から抽出したもので、男を女に変える効果があったんだけど、無転換者にしか効果を発揮できないのよ」
「ようするにワクチンじゃなく、ウイルスの原液じゃねえかそれ!」
「だーかーらー! それは試作品なんだってば! 本来の予定されていたのとは違う形で出来上がってしまった副産物なのよ」
「予期せぬ、副産物?」
伊織はハッと口元を押さえてコホンと咳払い。
「ほ、本当のワクチンはね。この装置の左右対称に同じ質量の【紅隕鉄】と【蒼隕鉄】を配置して、二つ同時に砕く必要があったの。そして粒子レベルまで分解された隕石を再び再構築することで【紫隕鉄】を再現させて、その後で抽出しないといけなかったの。試作品は……その過程でちょっとした不具合が起きてしまった失敗作ね」
「そんな失敗作を俺に使ったのかよ!」
「あーもー! うるさい! ええ、そうよ。でもそれがなんだっていうのよ! あたしが今度こそ【無転還機】を正しい形で成功させて、完全なワクチンを作り出してしまえば済むことでしょ! そしたらあんたの女の子になった身体だってすぐ元通りなんだから、ぶつくさ言ってるんじゃないわよ、男のくせに!」
最低だ! なんというか、人として最低だこいつ……。
「でもね。この装置でワクチンを作り上げるために、今、一つだけ足りないものがあるの」
「なんだよそれは?」
「……【蒼隕鉄】よ。この街の裏山に墜ちたとされている隕石の欠片」
「――――ッ!?」
「さあ、木枯くん。怒らないから、とっととあなたが3年前に持ち出した隕石【蒼隕鉄】を渡しなさい」
全てを見透かしているような瞳で、伊織が手を差し出してきた。
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