とあるTSFによってアンチの日常は終了してしまいました。

型抜久遠

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チュートリアル

15.無転還機 後編

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15.無転還機 後編

「だから、俺は知らないって……」
「嘘よ。もう証拠は挙がっているんだから」

 伊織は近くの機材に置かれていた新聞を俺に見せる。発行元は全国版ではなく、地元地域で発行しているものだった。

「……3年前。大転変によって世界が入れ替えられたあの日。世界恐慌の様相で混乱する中。この街の裏山に、青白い光とともに隕石が落下したという記事が新聞に載っていたわ。当時は性別が変わった問題が優先されて、申し訳程度の小さな記事だったけど」

 胸の動機が増していくのを感じる。やっぱり、あれで知られたんだ。

「落下した場所にはクレーターみたいに、大きな穴が出来上がっていたけど、肝心の隕石は発見されなかった。当時は落下した直後にバラバラになったのではということで、この話題は終わりになった」
「でも、そうじゃなかったってことか?」
「ええ……。あたしは独自に落下現場を調べたわ。そしたら地上の土はとても柔らかく、落下の衝撃で砕けるどころか、土がクッションになることで、原型がそのまま残っていた可能性が高かったのよ。これがどういうことだか分かる?」
「誰かが持ち去った……って、言いたいのか」
「そうよ。どこかのダ・レ・か・が・ね」

 伊織は俺から視線を外さず言った。

「落下するとき、隕石は青白い光を発していた。それは【紫隕鉄】から最初に分離して、大気圏に入る前に爆発した【蒼隕鉄】の可能性が高いのよ。この【蒼隕鉄】の欠片は、落下途中で燃え尽きてしまうのがほとんどだったから、希少価値が高くて、この【無転還機】で使用できる充分な純度を持つものを見つけるのが難しいの。……でも、落下したクレーターの大きさからして、持ち去られた【蒼隕鉄】は、充分過ぎる純度を秘めている可能性が高いのよ!」
「だ、だからといって、俺がその隕石を持ち去った証拠なんてないだろ!」
「あるわよ」

 伊織はキタかとばかりに、ニヤリと口元を吊り上げる。

「なぜなら。あなたが無転換者であることも、あなたのお母さんと妹さんがあんな姿に変わってしまったのも、木枯くん。あなたが隕石を家に持ち帰ったことが原因なのよ」
「なっ!」

 思いもよらない言葉を突きつけられて、俺は驚きの声を上げた。
 どうして……そこで、母親と妹が出てくるんだ?

「木枯くん。あなたは、どうして自分が〝無転換者〟のままでいられたのか分かる?」
「……いや、たまたま偶然そうなっちまっただけだろ?」
「いいえ、違うわ。大転変で性別が変わらない無転換者のままになってしまったことには、全て共通している理由があるの」
「え?」
「無転換者で有るか否か、それはあの日。あの夜。人が隕石の欠片に触れたか触れないかで決まったのよ。隕石には女が男になる【蒼隕鉄】と、男が女になる【紅隕鉄】の二つがある。その時に触れた隕石が自分の性別に影響を及ぼさない色に触れたのであれば、それがウイルスに対する抗体となって性別の変化を防ぎ、無転換者が誕生した」
「なら〝逆〟の色した隕石に触れていたら?」
「……逆に、性別を変えてしまう方を手にしてしまえば、必要以上に影響を受けてしまう。どんな美形な男子、あるいは可愛い女の子であってもね。そしてもう一つ、隕石は密閉された空間に持ち込まれると周囲にまで影響を及ぼしてしまうことも判明している。これらは……あたし自身も立証済みよ」
「――そ、それじゃ、伊織が無転換者でいるってことは!」
「ええ、そうよ。あたしは説明した通りのことを行ってしまったわ。珍しい赤い色した隕石を手に入れたあたしは、研究のために家まで持ち帰ったわ。あたしの家には、自分以外みんな男性ばかりで、パパとおじいちゃん、お兄ちゃんと弟が住んでいたわ。そして次の日……」

 伊織は苦しげに呻いて、言葉を絞り出す。

「全員……〝美少女〟に変わっていたわ」

 はあ………………?

「引っ込み思案だった弟は甘え上手の妹になり、沈着冷静でかっこよかったお兄ちゃんはメガネの似合う才色兼備な『黒梅の君』なんて呼ばれる淑女になっていた。厳格で武道の道場主だったパパはポニーテールの似合うツンデレ美少女になっちゃったし、おじいちゃんなんか見た目が十二歳くらいの美少女ロリババアにに……くっ! なんてひどい!」

 もしここに紅葉がいたら、間違いなく食いついていただろうな……。

「つまり、木枯くんのお母さんと妹さんがあんな姿になったのは、あなたが隕石【蒼隕鉄】を家まで持ち込んだからこそ起こってしまった悲劇なのよ! 悪いことは言わないわ、木枯くん。とっととあなたの持っている【蒼隕鉄】を渡しなさい。そうすれば、あたしがすぐにワクチンを完成させて、あなたのお母さんと妹さん。そして、全ての反転者をあるべき姿に戻してあげられるのよ」

 そう、目の前の姫園伊織という無転換者の少女は断言した。
 もし、伊織のワクチンとやらが完成したとすれば、言葉通り世界を根元からひっくり返せる大革命になるだろう。
 そして、それは……俺が3年間待ち焦がれていたことでもあった。

「さあ、返答プリーズ。木枯ちゃん」

 チェックメイトとばかりに、伊織は勝ち誇っていた。
 伊織は色々ぶっとんだ外道だけど、確かに天才と呼ばれていたことはあった。
 行動力も迷惑考えない常識外れで、なにより野生染みた勘の良さを持っている。
 これが……無転換者の女のみが持ちうるされていた〝女の勘〟ってやつなのか?

「……ここまでかな」

 俺は覚悟を決めた。
 気分は名探偵に追いつめられた犯人のそれである。

「ああ、そうだよ。確かに俺は3年前に裏山に隕石が墜ちる瞬間を目撃して、家に持ち帰ったよ。それでどうなったかについては、概ね、お前の想像通りだ」

 雰囲気に飲まれてか、俺の口調も犯人みたいに悪っぽくなっていた。
 勝利を確信した伊織は、自信たっぷりに平たい胸を張る。

「それで、木枯くんの持ち去った【蒼隕鉄】は今どこに?」
「失くしたよ」

 ピシリと、俺と伊織の間にある空間に亀裂が入る音が聞こえた気がした。

「なく……した? ハ、ハハハ、冗談よね?」
「本当だ」
「嘘言わないで! 元の男に戻れなくてもいいの!」
「だったら、もう一度俺の家を好きなだけ探せばいい。俺だって、当時は必死で探したんだ」

 でも、見つからなかった。
 どうしてあの隕石が消えたかなんて、今でも分からない。
 不気味なほど静まり返った伊織の研究所にて、俺は知りうる全てを語った。

「……これが、俺の知っている全てさ。結局、隕石が今どこにあるかなんて、誰にも……ん?」

 ふと伊織を見る。それまで饒舌に喋っていた伊織は、真顔のまま、瞬きもせず固まっていた。

「おい、どうし……」

 たんだと続く言葉より先に、伊織の体は棒きれみたい、受身することもなく、前のめりに顔面から、盛大に床へ倒れてしまった。
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