社長の奴隷

星野しずく

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社長の奴隷.16

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「居酒屋でいいよ。私はソフトドリンクにするから」

「そ、そうですか。気を使わせてすみません」

「いいからいいから」

 美緒の方が年下なのに、これではどっちが年上か分からない。



「わぁー、居酒屋初めて」

「そ、そうなんですか・・・、そうですよね」

「一度来てみたかったんだ。誘ってくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ、つきあってもらってありがとうございます」

 美緒はカルピス、信楽は酎ハイを注文して、乾杯した。

 信楽が見繕って注文した料理をつまみながら、二人の宴会が始まった。



「僕って、どんな風に見えます?」

「どんな風って、どういう意味?」

「僕、家族からも何考えてるか分からないって言われるくらい、感情が顔に出ないんです。だから、色々と誤解されることが多くて・・・」

「ああ、そういうことね。確かに・・・、私が入社したての頃は大騒ぎしてたことも、無言でこなしてるし、顔色も全然変えないから、すごいなって思ってたけど、違うの?」

「はぁ~やっぱりか~。違うんですよ、もう、本当はパニック状態なんですよ。でも、顔が、表情がこのままで、言葉もパニクればパニクるほど、出てこなくなって・・・、それで感情がない冷たい奴って、いつも誤解されるんです」

 そう言っている顔も困りきった顔にはなっていない。



「そうだったんだ・・・、大変だったね」

「信じてくれるんですか?僕の言ってること」

 信楽君は、それが信じられないという感じだ。

「信じるよ。だって、信楽君、嘘つかなそうだし」

 嘘つかないっていうか、つけなさそう。



「ありがとうございます」

 顔はあいかわらすだけど、言葉だけは嬉しそうだ。

「じゃあ、私にあんなことした時も、本当はドキドキしてたの?」

 美緒は周りに聞こえないよう、少し声を小さくした。



「あ、当たり前じゃないですか!もう、本当はこんなことは出来ませんって言って、家に帰ろうかと思ったくらいです。あ、あんなこと・・・、は、初めて会った女性にするなんて・・・」

 信楽は顔はやはりほとんど、そのままだったが、声は震えていた。

「だ、大丈夫だよ、あれがうちの会社の仕事なんだから。よく頑張ったね、えらいよ」

 何で私が慰めなくちゃいけないんだろう?

「そんな・・・、僕が藤巻さんのことを辱めたのに、そんなことを言われたら、僕の立場がありません」



 信楽は美緒がされていることにはやはり抵抗があるようだ。

 それは仕方がないことだ。

 あんなこと、普通の人が目にしたら、虐待か何かにしか見えないだろう。



「信楽君、それは誤解だよ。私、会社でしてることは全部自信を持ってやってる。そりゃ、他人様に言えないことの方が多いけど、うちの商品を買ってくださるお客様には絶対必要なことだから」

 美緒はこれだけは胸を張れると思ってそう言った。

「そ、そうですよね。すみません、新入りが出過ぎたことを言って。お二人の商品に対する思いはすごいと思ったのに、そこに至るあの作業がどうにも理解を越えていて・・・つい、すみません」

「い、いいのよ、それが普通の反応だと思うし、私も最初は同じように思ってたから」

「そうですか、それを聞いて少し安心しました」

 信楽とはそのあと一時間ほど話して、初めての宴会はお開きになった。
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