2 / 55
エロ.02
しおりを挟む
二人は店内の隅っこのテーブルに陣取っている。
なぜなら、食後は麦茶を飲みながら、そのまま店のテーブルで勉強をするからだ。
「あ~、うまかった。姉ちゃん、ごちそうさま」
「ごちそうさまです」
美世とそういう関係なってからというもの、元貴が一緒にいるときの距離感がまだつかめないでいる。
「いいえ、こちらこそ助かってるのよ。あなたたちが味見してくれると、安心して店に出せるから」
「へへへ」
シスコンの元貴はデレデレと笑っている。
「さて、元貴始めるぞ」
「ああ」
二人はいつもの調子でノートを広げた。
それから一時間もしないうちに、開店の時間を迎え、店内が賑やかになってくる。
元貴の部屋で勉強した方がもちろん静かだが、こうやって人目がある方が余計なことが出来なくて都合がいいことにあるとき二人は気づいた。
それ以来、このスタイルを続けている。
元貴は純粋な目的でこの場所にいるのだが、高広は少し違っていた。
高広が目当てにしている人物は決まって八時過ぎにこの店にやって来る。
「はぁ~、疲れたな。少し休憩」
元貴が麦茶のお代わりを取りに立ち上がった時、店の扉が開き高広のお目当ての人物が入ってきた。
「いらっしゃいませー」
美世はその表情を変えることはない。
三十代半ばと思われるその男は、いつも好んで座るカウンターの一番隅に腰をおろした。
「生中と今日のおすすめ定食、お願いします」
「はい、生中とおすすめ定食ですね」
美世はその男が何を注文するのか分かっていたかのような速さで生ビールを男の前に差し出した。
男はビールを一口飲み「うまい」と絞り出すような声で言った。
忙しく手を動かしながらも、美世はその男の言葉を聞いて少しだけ頬を緩めた。
「今日はいいカレイが入ったんですよ」
美世は男の前に定食を並べると、元貴たちに言ったのと同じセリフを繰り返した。
「そうですか、それは楽しみだ・・・。うん、旨い」
その男は早速カレイを口に運ぶと感想を漏らした。
「ありがとうございます」
美世はいよいよ嬉しそうに顔を紅潮させた。
そんな二人の様子を高広は複雑な思いで眺めていた。
もちろん、じっと見たりはしない。
彼らに背を向けている元貴に話しかけるふりをしたり、参考書を読むふりをして、ごくごく自然に行うのだ。
男は左利きで、当然だが箸は左で持っている。
そしてその左の薬指にはプラチナのエンゲージリングが静かな輝きを放っている。
美世としては常連客の一人として親し気に接しているように見えるが、その男の表情はただの店主として美世のことを見ているとは思えない。
美世と高広は元貴たちには内緒でつき合っている。
高二の時から元貴に連れられて美世の店を何度か訪れていた。
すでに連絡先を交換していた美世から『つきあわない?』と告白され、高広に断る理由などなかった。
そして高校三年になった今年の春、二人の交際はスタートしたのだった。
なぜなら、食後は麦茶を飲みながら、そのまま店のテーブルで勉強をするからだ。
「あ~、うまかった。姉ちゃん、ごちそうさま」
「ごちそうさまです」
美世とそういう関係なってからというもの、元貴が一緒にいるときの距離感がまだつかめないでいる。
「いいえ、こちらこそ助かってるのよ。あなたたちが味見してくれると、安心して店に出せるから」
「へへへ」
シスコンの元貴はデレデレと笑っている。
「さて、元貴始めるぞ」
「ああ」
二人はいつもの調子でノートを広げた。
それから一時間もしないうちに、開店の時間を迎え、店内が賑やかになってくる。
元貴の部屋で勉強した方がもちろん静かだが、こうやって人目がある方が余計なことが出来なくて都合がいいことにあるとき二人は気づいた。
それ以来、このスタイルを続けている。
元貴は純粋な目的でこの場所にいるのだが、高広は少し違っていた。
高広が目当てにしている人物は決まって八時過ぎにこの店にやって来る。
「はぁ~、疲れたな。少し休憩」
元貴が麦茶のお代わりを取りに立ち上がった時、店の扉が開き高広のお目当ての人物が入ってきた。
「いらっしゃいませー」
美世はその表情を変えることはない。
三十代半ばと思われるその男は、いつも好んで座るカウンターの一番隅に腰をおろした。
「生中と今日のおすすめ定食、お願いします」
「はい、生中とおすすめ定食ですね」
美世はその男が何を注文するのか分かっていたかのような速さで生ビールを男の前に差し出した。
男はビールを一口飲み「うまい」と絞り出すような声で言った。
忙しく手を動かしながらも、美世はその男の言葉を聞いて少しだけ頬を緩めた。
「今日はいいカレイが入ったんですよ」
美世は男の前に定食を並べると、元貴たちに言ったのと同じセリフを繰り返した。
「そうですか、それは楽しみだ・・・。うん、旨い」
その男は早速カレイを口に運ぶと感想を漏らした。
「ありがとうございます」
美世はいよいよ嬉しそうに顔を紅潮させた。
そんな二人の様子を高広は複雑な思いで眺めていた。
もちろん、じっと見たりはしない。
彼らに背を向けている元貴に話しかけるふりをしたり、参考書を読むふりをして、ごくごく自然に行うのだ。
男は左利きで、当然だが箸は左で持っている。
そしてその左の薬指にはプラチナのエンゲージリングが静かな輝きを放っている。
美世としては常連客の一人として親し気に接しているように見えるが、その男の表情はただの店主として美世のことを見ているとは思えない。
美世と高広は元貴たちには内緒でつき合っている。
高二の時から元貴に連れられて美世の店を何度か訪れていた。
すでに連絡先を交換していた美世から『つきあわない?』と告白され、高広に断る理由などなかった。
そして高校三年になった今年の春、二人の交際はスタートしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる